海洋生物の調査研究
ジンベエザメだけに起きた視覚の進化 ~深海生活への適応か?~
動物は、生息環境中の光を活用するしくみをもっています。なかでも、深海や地中など微弱な光環境で暮らす生物種は、その限られた光を活用する特別なしくみを備えています。最大の魚類であるジンベエザメは、海水面近くで摂餌をする一方で、光の届きにくい深海にも潜ることが知られています。
今回、沖縄美ら島財団研究センターの佐藤圭一上席研究員は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の工樂樹洋教授(理化学研究所 チームリーダー)、大阪公立大学の小柳光正教授が率いる研究チームとの共同研究により、ジンベエザメが光を活用するしくみの解明に挑みました。本研究チームは、眼の網膜にある光受容タンパク質(オプシン(1))のうち、微弱光下での視覚をつかさどるロドプシンについて、DNA 情報と吸収する光の波長を測る分光測定を組み合わせることで、ジンベエザメと他のサメ類を比較しました(図1)。その結果、ジンベエザメのロドプシンは、従来の常識を覆すアミノ酸置換によって、深海の中で最も届きやすい青色の光を効率的に受け取ることができることを明らかにしました。また、ジンベエザメのロドプシンは熱に弱く、低温となる深海での機能に適していることもわかりました。
本結果から、ジンベエザメの視覚は、水温が低下した深海において、微弱な光を活用できるような進化を遂げたことが示唆されます。この進化の引き金になったアミノ酸置換部位はヒトの夜盲症(2)の原因となる置換部位でもあり、ジンベエザメの海水面付近から水深2000メートル付近の深海まで潜水するというその独特のライフスタイルの表れともいえるかもしれません。
さらに、本研究は、様々な生物のくらしをその生体を犠牲にすることなく解き明かすために、DNA の情報を活用したタンパク質の人工合成技術が有用であることも示しました。
本研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States ofAmerica (PNAS)」に2023年3月22日午前1時(日本時間)に短報論文として掲載されました。
Whale shark rhodopsin adapted to deep sea lifestyle by a substitution associated with human disease
(ヒトの疾患に関連したアミノ酸置換によって深海生活に適応したジンベエザメのロドプシン)
Kazuaki Yamaguchi, Mitsumasa Koyanagi, Keiichi Sato, Akihisa Terakita, Shigehiro Kuraku
(山口和晃、小柳光正、佐藤圭一、寺北明久、工樂樹洋)
Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
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