1. 事故死した母ガメの卵の人工孵化と放流を行いました
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

事故死した母ガメの卵の人工孵化と放流を行いました

2015年8月16日の夜間、産卵のために沖縄県大宜味村喜如嘉の砂浜に上陸してきたアオウミガメが、砂浜の後背の車道で乗用車にひかれて死亡するという悲しい事故がありました。
夜中の11時を過ぎた頃、日本ウミガメ協議会会員の米須邦雄さんから、「アオが車にひかれた」と連絡があり、早急に現地に赴きました。連絡から約一時間後に現地に到着すると、アオウミガメはもうすでに死亡していました。背甲が裂けてそこから内臓の一部が飛び出すなど無残な姿でしたが、我々が到着する直前までは生きていたようです。
このウミガメの歩行痕跡をたどると、上陸後にまっすぐ進み、産卵を終える前に植生と植生の隙間から車道に侵入したことが判明しました。これは産み落とされるはずであった卵が、未だ母ガメのお腹の中にあることを意味します。お腹の中の卵に損傷がなければ孵化する可能性があると予想し、母ガメの死体を総合研究センターに持ち帰り、解剖することとしました。
まず腹甲板をはずすと、複数の卵がみつかりました。さらに解剖を進めると、対になった卵管内に合計80個の卵がみつかり、全て無事に摘出することができました。これらの卵は振動を与えないように注意しながら、真水で洗浄したのち、孵卵器(孵化させる機械)内に収容し、気温約29℃一定(雄と雌が同じ割合になる臨界温度)、湿度90%以上という条件下で、人工孵化を試みました。
卵の摘出から54日後にあたる10月10日にピップ(殻を破る行為)が確認されはじめ、58日後の10月14日までに計20個体の子ガメが孵化しました。これらの子ガメがフレンジー(興奮期)になったことを確認し、母親が事故にあった喜如嘉の砂浜から夜間に放流しました。つまり、子ガメたちは生まれるはずであった砂浜から海へ旅立っていったのです。
世界的に見ても珍しい、体内から摘出した卵の人工ふ化に成功し、さらに放流できたことは喜ばしいことですが、本当に重要なことはウミガメが安心して産卵できるような砂浜環境を保全することではないでしょうか。今回の事故を教訓に、交通量の多い道路と砂浜が直接つながっているような場所すべてにおいて、ウミガメが道路に侵入できないような対策が行われることを期待したいと考えています。

(研究第一課 河津勲)

  • 孵卵器の様子

    孵卵器の様子

  • ピップ直後(殻を破る)の子ガメ

    ピップ直後(殻を破る)の子ガメ

  • 放流直前の子ガメ

    放流直前の子ガメ

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