亜熱帯性植物の調査研究
昨年度の調査研究では、飼育動物の餌残渣として海洋博公園から大量に排出される魚粕を有機液肥および堆肥の原材料として活用できる可能性が示された。一方で解決すべき課題も明らかとなったため、今年度は有機液肥および堆肥のそれぞれについて実用化を目指し課題の解決に取り組んだ。
1)有機液肥
(1)生理障害の低減
昨年度は Ishii et al.1)を参考に有機液肥およびアーバスキュラー菌根菌 (AMF) を用いて島野菜のひとつであるシマナおよびリーフレタスの一品種であるチリメンチシャの水耕栽培試験を行い、化学液肥を用いた慣行水耕栽培と同等の収量を得ることに成功した。しかしながら、チリメンチシャの栽培では生理障害の発生率が高く、その克服が課題となっていた。そこで、生理障害の原因を微量要素の欠乏と仮定し、栽培中の養液における微量要素濃度を測定した。養液中のホウ素濃度が著しく低かったため、1%ホウ酸水溶液を添加してホウ素濃度を1 ppmに調整した結果、生理障害はほとんどみられなくなった (写真-1)。
(2)夏秋季における生産品目の探索
高温多湿かつ台風常襲となる夏秋季の沖縄県では路地で葉菜類を生産するのが困難であり、また温湿度等の環境を制御した植物工場での生産はコストの高さが問題となっている。そこで、環境制御をほとんど行わない施設で底面給水型トレイを用いた夏秋季の生産が可能な品目として島野菜のひとつであるヨウサイに着目し、栽培試験を行った。苗の定植時にAMFを接種した上で有機液肥を用いて栽培すると、化学液肥を用いた慣行水耕栽培に近い収量が得られた (写真-2)。また、茎葉中の硝酸イオン濃度を低減できる可能性が示された。
この栽培試験の詳細は (一社) 園芸学会令和4年度春季大会での発表を予定している。
2)堆肥
昨年度の調査では魚粕から作製した堆肥の有用性が示された一方で、発酵中に発生する臭気および切り返しにかかる労力の軽減が課題であった。
今年度は切り返しを行う際以外は密閉でき、また底部から過剰な水分を容易に抜き取ることが可能な堆肥化容器を用いて作製した。この方法で作製した堆肥を沖縄県在来のレタスの一品種であるメーオーパの栽培に使用すると、同じ窒素量の化成肥料を施用した場合と同等まで生育した (写真-3)。この堆肥は海洋博公園で実施したメーオーパの収穫体験イベントでも使用した (写真-4)。参加者へ行ったアンケートの結果は好評であり、SDGsに向けた財団の取り組みとしての餌残渣の活用を十分にアピールできた。
魚粕から作製した有機液肥を用いたレタス類の水耕栽培で多発する生理障害の原因がホウ素欠乏であることを確認した。また、沖縄県内で夏秋季にこの有機液肥を用いて安心・安全に生産可能な葉菜類として、島野菜であるヨウサイが有望である可能性が示された。堆肥についても島野菜の栽培での有用性が明らかとなったため、海洋博公園で収穫体験イベントに使用した。今後も有機液肥、堆肥および栽培技術にさらなる改良を加え、公園の魅力および利用者の満足度向上を通じて地域振興を目指すとともに、SDGsに対する財団の取り組みをより一層PRしていく。
AMFとそのパートナー細菌入りの有機液肥を活用した世界初の有機水耕栽培システムの事業化の目途が立った。「みどりの食料システム戦略」を実現するための事業において革新的な有機水耕栽培技術を提供できるものと考え、進展を楽しみにしている(石井顧問:徳山高等工業専門学校 研究員)。
有機水耕栽培の生育障害因子を明らかにし、優良な成育方法が確立された。有機液肥とAMFを用いて生産性の向上が期待される。餌残渣の活用も成果が見られた。栽培指導に関して、産業振興に貢献していると言える(佐竹顧問:昭和薬科大学薬用植物園 研究員)。
参考文献
1) Ishii, T., Shano, A. and Horii, S. (2016). New organic hydroponic culture using arbuscular mycorrhizal fungi and their partner bacteria, and newly developed safe plant protectants. Proc. QMOH 2015 - First Int. Symp. Qual. Mngmt. Organic Hortic. Prod. 680-690.
*1植物研究室
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