亜熱帯性植物の調査研究
中城村は、那覇市から10km圏内であるにも関わらず、多くの貴重な伝統野菜(島野菜)が生産されている。同村の農業地帯は主に村東側の沿岸部で、幹線道路の国道も通過せず、幸いなことに米軍基地も存在しない。このような立地条件から戦前の農地が現存し、チデークニー (島ニンジン)、ヲーケヌシチャー (中城島ダイコン) が今日でも自家採取種子で栽培されている。また同村には、かつて沖縄県全域で見られたジービラとよばれる中長タイプの夏季休眠型の在来ワケギが現存する。さらに学術的な解明が進んでいないシマトウガラシとは別種のトウガラシも同村奥間で栽培されていた。しかし、これらの在来作物は、普通作物と同様、生産者の高齢化とそれに伴う栽培面積の減少で、同村の島野菜生産は減少傾向にある。そこで当財団はこの現状を打開するため、現代の農業に適した島野菜の経済栽培技術開発を目的とした「島野菜生産振興に関する連携協定」を令和3年4月に中城村と締結した (写真-1)。本報告では現在の取り組みと令和3年度までの成果を紹介する。
島ニンジンの黄色の根色を安定化させるため、沖縄農研センターバイテク班の協力も得て、令和3年度で黄色根の形質の固定化に成功した (写真-2B〜C)。 重労働である間引き作業の軽減に関する研究にも取り組み、令和2年度でシーダーテープを利用した播種法に成功した (写真-2A)。現在、播種前の耕耘がより少ない回数での可能なコーティング種子による技術開発に取り組んでいる。今後はより形のよい優良系統の育成に取り組む。
沖縄県には、代表的な在来ダイコン (島ダイコン) が5系統存在する (那覇市鏡水、名護市屋部、津堅島 (消失)、中城村和宇慶・北浜・南浜、久米島のアカダイコン)。その中でも中城島ダイコンは、ヲーケヌシチャーとして戦前から知られ、島ダイコンの中で唯一丸形の形質を有し、根出葉は地面を這うようにロゼット状に展開する (写真-3A)。しかし、近年の冬季における気温上昇に伴う病害虫の発生の増加で在来種である、島ダイコンは、甚大な被害を被っている。そこで、虫害の予防と減農薬栽培を行うため、被覆栽培に取組んだ (写真-3A)。キスジミノハムシによる害は無処理区と比較すると抑制できることが確認できたが (写真-3B〜C)、青首ダイコンと比較すると、島ダイコンは非常にデリケートであることから、潅水の仕方にも工夫が必要であることを栽培農家からの聞き取りで確認した。今後は、そのような在地の知を取り入れた農法も取り入れ、より減農薬および高品質栽培技術の開発を目指す。さらに、ワインチャー (胚軸部分があまり地表面に曝されていない島ダイコン) でより大きな球型の中城島ダイコンの優良系統選抜に取り組み、耐病性系統の選抜も併せて実施する。
沖縄県には夏季に休眠するジービラと呼ばれる南方系ワケギとジービラよりはやや小型の休眠しないビラグワと呼ばれる本土系ワケギが存在する。両系統のワケギは県外産および外国産ネギの流通で生産量は激減している。 中城村には典型的なジービラをアタイグワーで栽培している方が二名おり、それぞれの集落で収集した株と、沖縄農研センター保有株とを比較し優良系統選抜を行っている (写真4-A)。令和3年度までにやや大型の系統の存在が判明したため、今後は、夏季の簡便な保存法および栽培法を村内の生産者に紹介し、中城村とともに、この貴重なジービラの普及に取り組む。
沖縄県内にはシマトウガラシとして知られるコーレーグース (キダチトウガラシ Capsicum frutescens) の他にヂゴレと呼ばれる下向きに果実がなるトウガラシが2種存在する。しかしこの2種がどのような経緯で沖縄に導入されたのか、学術的には解明されていない。中城村役場は、近年の香辛料ブームを受け、在来ヂゴレの栽培試験と普及にむけた取り組みを当財団と共同で開始している。中城村では、C. baccatumの栽培を40年以上前に同村奥間で当時の沖縄県農業普及員が確認している。シマトウガラシは冬季に果実縦長が減少し収量が激減するが、C. baccatumは、果実縦長の長さが冬季も維持されるため、収量はシマトウガラシほど減少しないことを確認した (写真5-A)。一方、トウガラシを含むナス科果菜類は、北大東島を除く沖縄県全域でナスミバエ (Bactrocera latifrons) の蔓延により莫大な被害を被っている。沖縄県病害虫防除技術センターはナス科類の露地栽培を避け1.6mm目ネットを施設入口に配置し、ハウス内におけるビニール修繕の徹底を呼びかけている。
今後は、C. baccatumの施設栽培に適した株間・畝間、仕立てに関する基礎的な耕種概要の確認から、天敵利用による減農薬栽培の技術開発にとり組む。
収集された遺伝子を用いた栽培特性の解析は成果が見られる。島野菜振興協定は、今後の島野菜の探索の充実を見ながら来年度に期待したい。島野菜の機能性の解明も目標に入れてもらいたい。過去の文献に記載されている島野菜を探査して、新しい機能性を解明することは意義深いと思われる(佐竹顧問:昭和薬科大学薬用植物園 研究員)。
沖縄の様々な島野菜および伝統工芸作物等有用植物の収集が行われるととともに、これらの植物の利用や普及活動は高く評価される。ただ、栽培管理方法等、特に農薬や化学肥料の使用あるいは不使用についての説明は入れるべき。現在、世界的規模で農薬の不使用、さらにはオーガニック栽培に関する技術開発が盛んになっている。それゆえ、島野菜および伝統工芸作物等有用植物の普及にあたってもオーガニック栽培管理技術の構築を図って、本研究に取り組むことが必要である。なお、公園管理等の観光業での農薬や化学肥料の使用は好ましいものでなく、オーガニックを推進していただきたい(石井顧問:徳山高等工業専門学校 研究員)。
*1植物研究室 *2中城村役場産業振興課
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