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  1. 普及開発課
沖縄美ら島財団総合研究所

普及啓発の取り組み

普及開発課

前田好美*1

1. はじめに

普及開発課においては、当財団が取り組む亜熱帯性動植物・首里城に関する文化および海洋文化等に関する調査研究の成果や、公園管理で培った技術等を活用し、沖縄の自然や文化等に関する知識の普及啓発、人材育成の支援を目的とした事業を実施している。主な事業としては、各種講習会や助成事業、人材育成事業、環境保全活動支援事業、学校連携事業等である。また、普及啓発事業に加え海洋文化に関する調査研究事業を行うほか、美ら島自然学校(名護市嘉陽)の管理運営を担っている。
令和3年度は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う関連施設の臨時休業等により、年間計画や実施内容を変更しての事業運営を余儀なくされた。活動休止中はHPやブログ等を利用した情報発信、学習教材の提供など、遠隔利用への対応を図ったほか、地域の生物相調査、学習手法の検討などに重点的に取り組んだ。また、事業再開にあたっては感染症拡大防止ガイドラインに基づき、職員や利用者の健康管理・衛生管理を徹底するなどの対策を講じ、事業を運用した。今年度事業の概要は以下のとおりである。

2.実施体制

普及開発課の体制は正職員4名、契約職1名、事務補助1名の6名であり、正職員と契約職は美ら島自然学校担当を兼任した。このほか、美ら島自然学校の専任職員として飼育補助計1名が従事している。

3.実施内容

1)亜熱帯性動植物、海洋文化に関する知識の普及啓発
主に親子を対象に、工作体験を通して沖縄の生き物や自然環境を学ぶ「美ら島・美ら海こども工作室」を1件、植物や陸の生物について学ぶ「美ら島自然教室」を1件、開催した。また、主に小中学生を対象とした「美ら島自然学校学習会」を1件開催し、海の自然環境の不思議や面白さを伝えることを目的に、屋内観察や野外観察などの体験を通した学習を行った。
一般や専門家を対象とした事業としては、海洋文化館の魅力を発信し、施設認知度の向上と利用促進を図ることを目的とした「海洋文化講座」(全4回)とサバニに関する講演会を開催した。また、研究室による講演会(1回)や総合研究センター定期講演会を開催し、センターの調査研究成果を広く周知する取り組みを継続した。専門家を対象とした事業「サンゴ礁保全シンポジウム」など、一部事業については中止し、次年度への延期対応を行った。また、おきみゅーでの展示会として、沖縄各地のサバニや関連資料を集めた企画展「沖縄の船 サバニ~過去・現在・未来~」や、夏休みの自由研究を題材とした企画展「さがそう!自由研究のタネ」を実施した。いずれも新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、一般公開の中止・会期縮小を余儀なくされたが、オンラインイベントの開催などにより、利用者への情報発信に努めた。

2)学校連携事業
地域の教育委員会、小学校と連携し、学校のカリキュラムとしての学習を行う通年学習プログラムと、学校からの依頼をうけて行う1回完結型の学習プログラム(出前授業)を実施した。通年プログラムとしては、名護市の緑風学園や本部町の上本部学園などを対象に、美ら島自然学校や海洋博公園等、管理施設を活かした通年学習を実施した。財団の各部署と連携した授業構成に努め、各課室職員が有する知識・技術を活かした事業展開を行い、年間で5校11学年を対象に54回対応した。また、1回完結型のプログラムについては、9校計10件を単元授業や校外学習等において実施した。

3)寄附講座
沖縄県における高等教育を支援することを目的に、沖縄美ら島財団の事業内容を活かした講義を開設、県内の大学へ提供している。令和3年度は名桜大学(名護市)と琉球大学(西原町)の2大学において開講し、対面・遠隔授業を組み合わせたハイブリット方式により対応した。財団職員を講師として派遣し、大規模公園や水族館等の管理運営など財団の事業や亜熱帯性動植物に関する調査研究、首里城等に関する調査研究について講義を行った。

4)助成事業
総合研究センターにおける調査研究項目である、亜熱帯性動植物や沖縄の歴史文化に関する調査研究・技術開発、普及啓発活動を行う個人・団体に対して研究費の助成を行っている。令和3年度は新規採択を中止し、過年度採択者に対する対応のみ行った。

5)人材育成事業
沖縄の将来を担う人材を育成することを目的に、県内の新聞社が主催する事業に共催した「沖縄こども環境調査隊」(主催:沖縄タイムス社)は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により開催中止となった。
大学等で学ぶ学生や教員を対象とした指導者育成事業では、一般向けの事業は中止し、財団職員を対象としたサンゴレクチャーや情報共有座談会を企画、実施した。

6)環境保全支援活動事業
市民による環境保全活動の支援および地域との連携強化による社会貢献を目的として、エコクーポン(沖縄美ら海水族館入館券)を提供する事業を実施した。本事業では、2時間以上の海岸清掃活動や、赤土流出防止を目的とした植物の植え付け等の環境保全活動を支援対象としている。
令和3年度は9団体に対し、541枚のエコクーポンを発行した。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて伸び悩みが続いているが、利用件数は前年度比69.2%、発行枚数は98.2%となった。

7)講師派遣
地域連携や人材育成を目的に、外部からの依頼をうけて職員を派遣した。総合研究センターの調査研究成果を活かした知識の普及啓発を図るため、各課室の職員が対面または遠隔による講師対応を行った。特にオンラインイベントでの講師依頼などが増加し、令和3年度は85件(前年度比404.8%)の講師派遣に対応した。

8)美ら島自然学校の管理運営
旧名護市立嘉陽小学校の跡地利用事業者として平成27年7月より「美ら島自然学校」の管理運営を行っている。令和3年度は5月末~6月末にかけて新型コロナウイルス感染症拡大に伴う臨時休校などの利用制限を行ったが、それ以降はガイドラインに基づき利用を再開し、年間の施設利用者数は7,479名(前年度4,686名 対前年度比160%)と増加傾向が認められた。増加要因は、県内小中学校の修学旅行利用や地域住民による利用件数の増、調査研究目的の施設利用件数増が挙げられる。東京五輪2020聖火リレーに関連した一部イベントは規模を縮小して開催に至ったが、ほかの大型イベントは昨年度に引き続き中止した。
調査研究利用では、周辺地域での生物調査等を継続したほか、ウミガメ飼育施設における低比重飼育水飼育の追加試験を実施した。また、名護市教育委員会の「嘉陽グスク」発掘調査における施設利用があった。

9)海洋文化に関する調査研究
令和3年度は5件の儀礼に参列し、実施状況と変容について現地調査を行った。調査成果については、海洋文化館における講演会等の解説に活かしたほか、論文執筆を行った。また、沖縄を代表する木造漁船「サバニ」の造船・航海技術に関する調査の一環として、国立民族学博物館と共同でサバニやタンクブニといった沖縄の船についての調査を実施し、タンクブニについては共著論文を執筆した。併せて、海洋文化館の収蔵資料の管理保存に関する調査を継続し、館内の巡視温湿度記録簿、巡視資料状況記録簿等の情報を活用して館内および収蔵庫内の温湿度変化等、環境調査を行い、資料の管理状況を把握する体制を整備した。

4.外部評価委員会

委員:亀崎直樹
(座長・岡山理科大学生物地球学部
生物地球学科教授)
後藤明(南山大学教授)
須藤健一(堺市博物館館長)
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、遠隔会議により開催し、各事業に対する評価および指導・助言をいただいた。委員からは「平時のような対応が困難な状況でも実施可能な手法を検討し対応するなど、少ない人数でよく対応している」「調査結果の地域還元・普及啓発が十分になされている」など評価され、事業継続と今後の発展を期待された。また、今後の課題として、注目されにくい生き物などを取り上げた学習の充実、調査対象の専門的分野への集約の検討を提示された。

5.今後の課題

Webを活用した学習手法や情報発信など新たな手法にも取り組み、コロナ禍においても停滞なく普及啓発事業を継続できるように努めた。しかし、慢性的な人員不足により対応できない部分も多くなっていることから、人材の確保が急務である。また、総合研究センターの調査研究の成果を広く周知するため、分野を超えた学習プログラムの提案や、効果的な学習手法の開発に取り組むためにも、人材確保・育成が望まれる。このほか、引き続き普及啓発事業の手法や効果に関する調査を継続し学術的に検討するとともに、その成果の外部への情報発信を強化する。


*1普及開発課

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