海洋生物の調査研究
世界有数の生物多様性を誇る琉球列島だが、その全容はいまだ解明されておらず、近年でも新種や日本初記録などの報告が相次いでいる。一方で、琉球列島の自然環境は急速に変化しており、生物相を簡便に把握する技術開発が求められている。当事業では、琉球列島の海洋生物相の記録・解明に寄与するため、以下の取り組みを実施した。
なお、これら一連の調査研究により、令和3年度は8報の学術論文を発表した。
当財団では琉球列島産海洋生物の標本を収集し、自然史研究の発展や教育・普及活動に活用している。令和3年度には約60点の標本を新規登録した。
本年度新規収蔵した標本の中には水族館が所有する無人潜水艇(ROV)が採集した深海性魚類の標本が多数含まれる。ROVは深海を自在に移動することができるため、海底の障害物をかわしながらそこに潜む小型生物を採集するのに向いている。例えばヤセムツ科の「コゲメヤセムツ」は深海の岩礁域に生息するためトロール等の方法では採集することが出来ず、これまでインド洋西部からの僅かな標本しか知られていない稀種である。今回、ROVのスラープガン(吸引装置)を用いることで本種の採集に成功し、日本初記録種として報告することができた。
また、当財団は1970年代後半に沖縄島から絶滅したとされる「リュウキュウアユ」の標本を多数所蔵しており、本年度はその貴重な標本を活用した研究がなされた。この研究は沖縄島産リュウキュウアユが絶滅した要因が遺伝的多様性の制限にあったのか検証するもので、唯一の手がかりであるホルマリン標本の形態解析から当時の遺伝的多様性を推定しようとするものである。結果は「絶滅を引き起こすほど低くはなかった」と推定され、本種の絶滅には他の要因が影響した可能性が示唆された。
魚類以外では全長約1.7メートルの巨大なウミヘビ「ヨウリンウミヘビ」が国頭村近海で採集から採集され、日本初記録種として報告した。本種はウェットスーツを貫通するほどの長い毒牙を持ち、その毒性は人が死亡するほど強力とされている。本種の標本は水族館の「危険生物」コーナーに展示され、その迫力ある姿で人気を集めている。
海洋の中深層域(水深200~1000m地点)には「海のトワイライトゾーン」とよばれる薄暗い世界が広がっている。この水深帯には僅かに太陽光が到達するものの、その色(波長)は海水に吸収されにくい青色光(470nm前後)に限定される。近年、そのような光環境下に生息する深海魚の中から、青色光を吸収し、異なる波長の光として再放出する「生物蛍光」の機能を有する種が次々と発見され、注目を集めている。「生物蛍光」を有する深海魚は、青色光のみが供給される単調な光環境の中に「色彩」を生み出すことで独自の視覚コミュニケーションに用いているものと予想されるが、それを検証した研究はない。
沖縄美ら海水族館では生物蛍光の機能を有する深海魚を多数飼育しており、本件の研究を進めるにあたり最適な環境が整っているといえる。本年度より中辻創智社の助成を受け、生物蛍光の生態学的意義を探るための飼育実験をスタートさせた。実験対象種としては「バラハナダイ」を想定しており、まずは蛍光パターンの個体差を個体識別に利用している可能性を検証する。
環境水中に存在するDNAの塩基配列情報から、同環境に生息する魚類を特定する革新的技術を開発するため、千葉県立博物館等と共同研究を行っている。
本年度は環境省やJAMSTECの研究事業において,太平洋上の海山周辺の新海域におけるサンプルから得たデータの解析を担当した。その結果、100種以上の深海魚のデータを取得し、その群集構造や予測種数について明らかにした。
公衆衛生上の脅威となるハブクラゲについて,水からの検出モデルの構築のために沖縄県衛生環境研究所と共同で研究開発を行なっている。本年度は水族館の飼育個体を用いて環境DNAの残存時間等を推定するサンプリング等を行なった。
さらに、環境DNA研究で欠かせない初期処理であるろ過について、3Dプリンター産物を組み込んだ動力を必要としない簡便かつ有効な重力式濾過システム(写真-5)を独自開発した。
標本管理、調査はよく行われており、その成果が日本(沖縄)初記録の報告として取りまとめられ、水族館での展示に活用されている。環境DNA研究に関しては、研究成果の公表が望まれる。生物蛍光に関する研究は未知の研究領域であり、研究センターは水族館との連携で研究を実施できる好条件下にある。よって、本課題のひとつの柱として実施されることを期待する(仲谷顧問:北海道大学名誉教授)。
*1動物研究室
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