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  1. 2)ウミガメに関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

2)ウミガメに関する調査研究

笹井隆秀*1,2・小淵貴洋*2・真栄田 賢*2・山崎 啓*2・水落夏帆*2・前田好美*3・河津 勲*1,2

1.はじめに

世界中の海洋に広く分布するウミガメ類の生息数は、自然環境の悪化等により近年著しく減少しているとされ、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにも全種が掲載されている。ウミガメ類の保全のためには、その生態や個体群動態について、野外および飼育研究を通して把握する必要がある。本事業ではこれらの問題に対応するため、以下の取り組みを実施し、今年度の研究成果として、学術論文7報が受理され、書籍1報が出版された。

2.産卵調査

当財団は沖縄島において、日本ウミガメ協議会および調査ボランティアと連携し、産卵状況の把握に努めている。その中で当財団は沖縄県の北西部に位置する本部半島(本部町、今帰仁村、名護市)等での調査を担っている。令和3年度の本部半島では、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの産卵が、各々37回、22回、2回確認された。特に名護市でのタイマイの産卵は20年ぶりであった。また、2018年に沖縄島最北端で確認されたタイマイの産卵に関する報文や、2019年に沖縄島南部で23年ぶりに確認されたタイマイの産卵記録に関する報文うみがめニュースレターに掲載された。

3.漂着調査

写真-1 死亡漂着調査
写真-1 死亡漂着調査

当財団は沖縄県一般からの情報を元に、海岸に死亡漂着するウミガメ類の調査を行っている。本調査では現場に出向き、種の同定、解剖および計測などを行った(写真-1)。令和3年度にはアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイ、計21例の死亡漂着を確認した。さらに1990年から2019年の約30年間に死亡漂着したウミガメ484個体の消化管内容物を分析し、アオウミガメでは15%、タイマイでは29%、アカウミガメでは24%の個体が海洋ゴミを摂食していることを確認した。この成果は当財団が管理運営を行っている沖縄美ら海水族館のウミガメ館で展示されたほか、Marine Turtle Newsletterに掲載された。また、NPO法人エバーラスティングネイチャーとの共同で、ウミガメ類のマイクロプラスチックに関する研究を開始した。

4.回遊調査

写真-2 アオウミガメの標識放流の様子
写真-2 アオウミガメの標識放流の様子

本調査では、飼育下で繁殖し、1年間飼育した195個体のアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの標識放流調査を行い、初期回遊やヘッドスターティング(死亡率の高い時期を飼育下で育て、成長後に放流し、生存率向上を図る考え方)の効果の検証を行った(写真-2)。

5.飼育下における調査

写真-3 麻酔試験の様子
写真-3 麻酔試験の様子

沖縄美ら海水族館のウミガメ館では、アカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの産卵が確認された。特にアカウミガメについては、飼育下繁殖で孵化したオスが関与する繁殖に初めて成功した。
タイマイの人工授精技術の開発にも取り組んでおり、福祉を考慮した精液採取や授精のために麻酔試験を実施した(写真-3)。

ウミガメ類の適正な人工ふ化技術の開発に向けて、飼育下で得られたタイマイの卵を用い、高知大学と共同で、適正な孵卵条件の検討を行った。その結果、孵卵中の温度が孵化率や孵化幼体の体サイズに影響することが判明した。また、孵化直後のアオウミガメを放流する場合は、水中で飼育するよりも湿った空気中で保管する方が、放流後の生存が良い可能性が示唆され、その成果は黒潮圏科学に掲載された。
当財団では、日本べっ甲協会および当財団が管理運営する美ら島自然学校の飼育施設において、昨年に続いて低濃度塩分下での飼育試験の検証実施し、孵化後4か月の間は、低濃度塩分下で成長が妨げられることを確認した。
また、水槽内へ岩を設置することにより、タイマイの他個体への攻撃性や干渉は効果的に抑制できることが明らかとなり、この成果はCurrent Herpetologyに掲載された。

6.健康管理に関する調査

写真-4 内視鏡検査の様子
写真-4 内視鏡検査の様子

写真-5 消化管から見つかった軽石
写真-5 消化管から見つかった軽石

当財団では、衰弱したウミガメ類が漂着した際、緊急保護を行い、治療にあたっている(写真-4)。今年度は9個体のウミガメ類が緊急保護され、そのうち4個体が回復し、1個体は治療中である。
治療の末、残念ながら回復が見られず死亡したアオウミガメ幼体の消化管内から、多量の軽石や海洋ゴミが確認された(写真-5)。この内容は多くマスコミに取り上げられ、軽石の生物への影響を示す事例として話題となった。

7.外部評価委員会コメント

少ない予算でよくやっている。行っている研究活動がすべて保全につながっているかは疑問である。しかし、業績も沢山あっていいのではないか (亀崎顧問:岡山理科大学 教授) 。


*1動物研究室 *2海獣課 *3普及開発課

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