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  1. 5)新しい園芸植物の開発・普及・展示に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

5)新しい園芸植物の開発・普及・展示に関する調査研究

徳原 憲*1・端山 武*1・比嘉和美*1・具志堅雪美*1・佐藤裕之*1

1.はじめに

沖縄県では温暖な気候をいかした熱帯性作物の生産や、熱帯花卉類を用いた観光施設運営を行う事で本土と差別化を計っている。しかし、沖縄県の環境に適する品目は限られており、その拡充が期待されている。
本調査研究では観光・地域産業振興を目的として、未利用遺伝資源等を用いた新しい園芸植物を開発すると共に、優良品種の普及に向けた無病苗等の大量増殖を行うものである。

2.リュウキュウベンケイを用いた調査研究

リュウキュウベンケイは沖縄県に自生するカランコエ属の植物である。カランコエ属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、いくつかの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイは観賞価値が高いにもかかわらず、育種素材として使われてこなかったが、既存の品種にない背丈の高い形質を有する事から、切花用品種の育種素材として有用であると考えられた。
千葉大学と共同で本種の育種に取り組んだ結果、沖縄の環境に適する切花用品種を開発するに至った。これらは「ちゅらら」シリーズと名づけられ、平成29年2月までに7品種を品種登録するに至った。
「ちゅらら」シリーズは新規花卉品目として地域産業への貢献が期待された。平成27年度より沖縄県農林水産部や県内出荷団体等と共同で栽培技術体系の構築を行い、平成28年度には収穫物を県外出荷するに至った。しかし、出荷物に輸送傷み(花首の曲がり、花の押しつぶれなど)が発生する問題が生じた。そこで、輸送方法の見直しを図るとともに、輸送性の高い品種の開発を行った。その結果、輸送傷みは軽減され、市場取引価格の向上が確認された。令和元年度には輸送性の改善された3品種を品種登録出願し、これらを地元の農家で生産することで産業振興につなげつつ、収穫物の一部は海洋博公園で展示をすることで、観光産業振興につなげている。

1)新品種の開発
写真-1
写真-1 実証圃における栽培試験の様子

平成29年度より色幅の拡大を目的とした交配育種を開始した。令和2年度は過年度までに獲得された優良系統を実証圃に移し、実生産に近い形で栽培を行った(写真-1)。その結果、品種登録候補を10系統選抜した。令和3年度はこれらの中からさらに絞り込みを行い、登録品種を決定する。
平成28年度から薬剤とプロトプラスト培養技術を用いた突然変異育種にも取り組んでいる。令和2年度は前年度に順化した7系統920個体を栽培育成し、株及び花の形質を調査した。その結果、花径の肥大化、新たな花色、花茎の分枝の増加、株及び花茎の矮化等異なる形質を持つ15個体を選抜した。次年度に選抜した個体を栽培育成し形質の安定、再現性を調査する。

2)普及

令和元年度に品種登録申請した新品種3種(‘ちゅららマゼンタ’‘ちゅららイエロー’‘ちゅららパール’)を昨年度に引き続き地元の農家で生産をおこなった。その結果、約2万本の収穫物が得られ、県外出荷を実施すると共に、海洋博公園における展示を行った。
また、従来品種7種(‘ちゅららダブル’など)は輸送性の課題が払拭できなかったことから、品種登録の更新を行わないことを決定した。

3)展示
写真-2
写真-2 海洋博公園内におけるちゅらら新品種の
展示利用の様子

1月23日~3月31日に実施した美ら海花まつりにて、ちゅらら新品種を展示利用した。水が不要な切り花という特徴を生かし、潅水に係る労力を低減しつつ、効果的に展示を実施することができた(写真-2)。

3.その他の在来植物を用いた調査研究

1)リュウキュウコンテリギ
写真-3
写真-3 リュウキュウコンテリギと
アジサイ園芸種を交配して得られた雑種

リュウキュウコンテリギは沖縄本島の北部地域に生えるアジサイの仲間で、非常に小さい株でも花を咲かせる特徴を有する。通常は両性花のみを付けるが、近年になり装飾花を少量付ける個体が発見された。この装飾花を付けるリュウキュウコンテリギと装飾花のみを付けるアジサイを交配し、小型アジサイの開発を試みた。令和2年度は過年度までに胚珠培養によって得られた実生苗を育成し、開花させることで形質確認を行った。実生は両交配親の形質を受け継ぎ、比較的小型の状態で開花に至った。しかし、花はリュウキュウコンテリギの形質を強く示し、装飾花の数は少なく観賞価値が高い個体は得られなかった(写真-3)。次年度以降は異なる親を用いた実生についても育成を行い、再度形質確認を行う。

2)ニシヨモギ
写真-4
写真-4 ニシヨモギの培養苗

ニシヨモギは本州に広く分布するヨモギと比較し、苦みが少なく食感が柔らかいため、沖縄県では古くから香味野菜として料理に利用されてきた。一般に流通するニシヨモギは畑地で生産されているが、葉に毛が多く生えることから土が付着しやすく、生食には不適であった。当財団では植物工場施設を用いた島野菜の生産について調査しており、本施設を利用することで生食用のニシヨモギが生産できないか検討を行っている。植物工場での苗の生産にあたっては、無病苗である必要があることから、組織培養による無病苗の生産を試みた。ニシヨモギの節を無菌化し、植物成長調整物質を含む培地にて培養を行ったところ、効率よく増殖することに成功した(写真-4)。令和2年度は500本の苗を生産し、植物工場施設での試験栽培に提供した。

4.外部評価委員会コメント

ちゅららの継続した新品種作出と収益化など地元産業への貢献は高く評価できる。(三位顧問:千葉大学 名誉教授) ちゅららシリーズは沖縄の切り花産業において、一つの重要な品目になりそうか。そうなるためにいろんな課題に取り組んでおられるようだが、成果があがることを期待する。特に、輸送の問題を解決するための育種成果に期待する。また、日長処理等を利用した開花時期の制御にも取り組めばより切り花の利用価値も向上すると思われる。バックヤードに保存・栽培されている貴重な沖縄自生の植物のうち、次の花きとして有望な植物について順次、選定、育種を継続して欲しい。(上田顧問:花フェスタ記念公園 理事)


*1植物研究室

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