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  1. 3)西表島植物誌編纂事業V
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

3)西表島植物誌編纂事業V

天野正晴*1・阿部篤志*1・米倉浩司*1

1.はじめに

竹富町西表島は日本最後の秘境といわれ、ほぼ全島が国立公園に指定されており、さらには世界自然遺産登録候補地として注目されている。しかしこれまでに植物相に関するまとまった調査・研究は行われてきておらず、その全貌が明らかになっているとは言い難い。そこで当財団では、琉球大学、鹿児島大学などと平成29年度より本事業を開始し、西表島全域における植物相調査を実施している。またこれとは別に鹿児島大学、京都大学、琉球大学で標本調査を進めている。令和2年度に実施した現地調査及び標本調査の結果を中心に報告する。

2.調査方法

1) 現地調査

島内全域を対象に徒歩、車両を用いて踏査した。踏査は、山地部、住宅地、耕作地、牧草地、海岸部を網羅するように行い、在来外来を問わず出現する野生維管束植物を記録するとともに、開花・結実しているものを中心に標本採集を行った (ジェネラルサンプリング)。調査・採集を行うにあたり国有林入林届、国立公園内での採集、国内希少野生動植物種捕獲、竹富町希少野生動植物種等各種許認可申請を行った。採集標本は沖縄美ら島財団総合研究センターの植物標本室に収蔵した。
またこのほかに琉球大学が主導するトランセクト調査にも参加した。トランセクト調査では、島内全域を1㎢メッシュに区切り、各メッシュの森林内に100×5mのベルトトランセクトを設置し、各トランセクトに出現する全ての維管束植物種について記録するとともに標本の採集を行った。また、胸高直径1cm以上の樹木については、樹高、胸高直径の記録も行った。トランセクト調査で、開花・結実している標本が採集できなかった場合には、これを補う形で調査メッシュ内において別途採集を行った。採集標本は琉球大学熱帯生物圏研究センター西表実験施設で保管されており、一部は沖縄美ら島財団総合研究センターを含めた参加者の所属研究機関にも収蔵されている。

2) 標本調査

鹿児島大学総合研究博物館 (KAG)、京都大学総合博物館 (KYO)について令和元年度に引き続き共同研究契約を締結し、琉球列島産標本の画像取得・データベース化を行った。画像取得は、スキャナー (EPSON DS-50000) を用いて読み取った。琉球大学理学部 (RYU) ではアルバイトを雇用し、画像取得・データベース化を行った。また、東北大学(TUS)においても西表島産標本のデータベース化と画像取得を行った。国立科学博物館(TNS)のホームページ上で公開されている画像付き標本データベースからも西表島産の標本を抽出し、画像から同定をチェックした上でデータベースに加えた。

3.結果と今後の課題

1) 現地調査

現地調査は、令和2年7月~令和3年2月までの間の延べ35日間実施し、約450種、760点(重複標本を含まない)の標本を採集した。この間、琉大のトランセクト調査には全部で13地点参加した。トランセクト調査において採集された標本は琉大のコレクションとして扱われるため原則として上記の数字には含まれない)。トランセクト調査地の1つにおいて、国内で4ヶ所目、西表島では3ヶ所目となるコカゲトンボ Peristylus sp. (絶滅危惧IA類、ラン科) が見つかり、その同定に不可欠な花の形態を観察、画像化できた。現在、共同研究者と日本新産の報告に向けて同定研究を進めている。また、昨年報告したElatostema sp. (イラクサ科)については、さらに上流で大規模な産地が見つかり、このデータも加えて西表島新産の報告の準備中である。外来植物については、琉球大学の調査とあわせて67種の西表島新産種が発見されたので、分類学的ノートとあわせて「沖縄県西表島における外来植物目録」として投稿論文にまとめた(梶田ほか、査読中)。その中には2)で記述したキク科の侵略的外来種も含まれている。

  • 写真-1
    写真-1 左:Elatostema sp.の生育地。
    右:標本作成の様子
2) 標本調査

今回の調査を含めた当財団所蔵の標本の整理、貼付とデータベース化を進め、令和3年3月末段階で1539点をデータベースに登録した。KAG、KYOとの共同研究の結果、KAG所蔵の琉球列島産維管束植物16,606点の画像取得、データベース化が完了し、KYOでは約1264点の画像取得、データベース化が完了した。東北大学においても琉球列島産標本を抽出してデータベース化を行い、現段階で1,946点をデータベース化した。TNSの標本画像データベースからも西表島産外来植物標本の抽出を行い、その成果は上記の「沖縄県西表島における外来植物目録」にも反映させている。

4.第3回西表島植物誌編纂委員会

コロナウイルス感染症の蔓延のため、令和2年度に予定されていた西表植物誌編纂委員会は延期となった。リモートで編纂委員会を行える体制の構築が急務である。

5.第5回~第12回西表フロラミーティング

令和2年11月12日に、琉球大学熱帯生物圏研究センター西表実験施設において、第10回西表フロラミーティングを開催し、野外調査の進行状況や研究成果の出版の達成状況について協議や意見交換を行った。
また、それ以外の月においても、以下の日程において、オンラインで西表フロラプロジェクト月例ミーティングを行った。
令和2年6月4日 第5回
     7月15日 第6回
     8月20日 第7回
     9月24日 第8回
     10月15日 第9回
令和3年2月25日 第11回
     3月18日 第12回

6.外部評価委員会コメント

コロナ禍にもかかわらず、未採集地域も含め、よく野外調査、標本採集を遂行された点を高く評価したい。フロラ作製のガイドラインは高い水準の案であるが、その実現の為にはコピーエディターは不可欠。より完全なフロラとして,先島諸島全体を範囲とすることも検討してはどうか。(小山顧問:高知県立牧野植物園 顧問)。


*1植物研究室

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