琉球文化の調査研究
本業務は沖縄の伝統的建造物保存に必要な2つの分野、すなわち(1)伝統技法による漆塗装、(2)手作り瓦の製作・葺きについての技術者の養成を行う目的で、令和2年度より文化庁の助成を受けて開始した事業である。現在、琉球王国時代以来の伝統技法による漆塗装、手作り瓦の製作・葺きの技術は活用機会の少なさもあり、その継承が困難な状況となっている。そこで、現在では数少なくなった技術者や、漆・瓦に関わる専門的知見を持つ識者を講師に招いて技術伝承者の養成を行った。
本事業は令和3年度以降も継続的な実施を予定しており、本事業による所定のカリキュラムを修めた者は今後、県内指定文化財建造物などの建造物漆塗装、瓦製作・葺きで活躍することが期待される。
本年度は建造物琉球漆塗分野4名、琉球赤瓦製作施工分野5名が受講した。開講式は令和2年11月30日(月)に行われ、文化財保存・伝承に関する共通講義も同日に実施した(写真-1)。その後は各分野に分かれ、専門講義・実習を行った。研修カリキュラムの計画は、建造物琉球漆塗分野では計75時間(講義11時間、実習64時間)、琉球赤瓦製作施工分野は計62時間(講義12時間、実習50時間)とした。新型コロナウイルス感染症対策の為、実施できなかった内容もあったが、関係団体の協力も得て可能な範囲でのカリキュラムを実施することができた。
1)建造物琉球漆塗
琉球漆工藝舎、土井菜々子氏による漆器修復についての講義では、復元・再現ではなく、劣化をさせない現状保存の難しさを学んだ。また、日光社寺文化財保存会の佐藤則武氏からは、日光の建造物漆塗装の具体的な仕様や歴史を細かく教えて頂いた。
実習では、刷毛などの道具製作の他、実際に首里城の外壁塗装に用いられている37工程を一枚の手板で表した工程手板を受講生一人につき3枚製作した(写真-2,3)。
2)琉球赤瓦製作施工
沖縄県立芸術大学教授の森達也氏による講義では、中国明代の瓦や沖縄の瓦の歴史について学んだ。伝統的な手づくり瓦の製作は現在中国でもほとんど残っていないことに触れ、本事業における手づくり瓦の製作技術を伝承する意義を再確認した。
赤瓦製作施工実習では、沖縄県芸術大学陶芸分野の学生や陶芸家が、受講生として製作から焼成まで挑戦したが、6日間の実習では一通りの工程を体験したにすぎず、製作技術を習得し、実用化するまでには引き続き取り組む必要があることを認識した。次年度以降、製作工程を繰り返し行い、より品質の高い瓦作りを目指したい(写真-4,5)。
赤瓦葺施工実習に関しても、受講生のほとんどが初心者ながらも熱心に実習に取り組んだ(写真-6)。当初は手づくり瓦製作と瓦葺き技術は同受講者にて伝承を予定していたが、実際にカリキュラムを実施したところ、手づくり瓦製作技術を伝承しつつ、瓦葺きの高度な技術を習得するのは困難であることが明らかになったため、次年度より瓦葺き技術は独立して伝承事業を行う予定である。
伝統技術の解明と人材育成の必要性が強調されているが、その先行的取り組みとして特筆できる。(高良顧問:琉球大学名誉教授)。
表-1 実施研修内容一覧
共通講義 | ||
令和2年11月30日(月) | 文化財概論 | 文化庁 文化財調査官 黒坂貴裕氏 |
沖縄の建築と技術 | 株式会社国建 平良啓氏 |
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建造物琉球漆塗 専門講義 | ||
令和3年2月6日(土) | 漆器の修復について | 琉球漆工藝舎土井菜々子氏 |
3月6日(土) | 日光の伝統的建築における塗装について | 日光社寺文化財保存会 佐藤則武氏 |
建造物琉球漆塗 専門実習 | ||
1月9日(土)~3月13日(土) | 道具製作 髹漆実習 |
株式会社漆芸工房 諸見由則氏 |
琉球赤瓦製作施工 専門講義 | ||
2月1日(月) | 沖縄の瓦の歴史 | 沖縄県立芸術大学 森達也氏 |
琉球赤瓦製作施工 専門実習① | ||
1月21日(木)~3月15日(月) | 赤瓦伝統製作技術 | 沖縄県赤瓦事業協同組合 八幡昇氏 |
琉球赤瓦製作施工 専門実習② | ||
3月16日(火) | 赤瓦葺施工 | 沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合 田端忠氏 大城幸祐氏 山城富凾氏 |
*1琉球文化財研究室
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