海洋生物の調査研究
沖縄北部地域において、カツオ漁をはじめとした漁業の衰退が問題となっており、これまでの漁業の復興と同時に、養殖漁業など新規事業の開拓が求められている。これらのニーズに応えるべく、(1)養殖対象魚種の新規開拓、(2)ウニの養殖に関する新技術の開発の二点において研究を行った。
魚類の養殖において、養殖用の卵を採取するために親魚の飼育が必須であるが、そのコストは無視できないほど高額である。一方、沖縄美ら海水族館では、漁業有用種を含む親魚が常時飼育されており、水槽内で繁殖が行われているが、卵の大半は活用されていない。そこで、水族館で得られた魚卵を有効活用した養殖技術開発を行なっている。
研究対象種のスマはサバ科の中型魚類であり、風味が良く肉の脂の乗りが良いことなどから市場での需要が見込まれている。また比較的狭所で飼育でき、商業サイズになるまで一年以内と成長が速いことから養殖対象種として注目されている。しかし、沖縄県での成功例はなく、養殖技術の確立が求められている。
我々は水族館の展示水槽「黒潮の海」の排水路に設置した網で採卵を行い、仔魚の育成を試みた(写真-1)。水族館施設内において、ワムシとキビナゴミンチなどを餌とし、約2ヶ月間の飼育を行った。死亡個体については、センター内に設置されているX線断層診断装置(CTスキャナー)にて観察を行った。その結果、頚椎に損傷が見られたことから水槽内での激突死が疑われた(写真-2)。
さらに15cmまで成長した一個体について琉球大学瀬底臨海実験施設に輸送し、50トン水槽での育成を行った。人工餌料を摂餌する様子が確認されたものの、輸送後6日に死亡が確認された。解剖及びX線断層診断装置による検死を行ったが、死亡原因の特定には至らなかった。
水族館施設利用により、昨年度に比べ生存日数が大幅に延びたことは重要な成果であるが、歩留まりの向上と、より長期の育成が今後の課題である。そのためには、孵化率の季節変化の調査や、稚魚の成長に伴う水槽間の移動のタイミング改善が必須と考えられる。
深海魚の中には、水族館での展示効果が高いものや、漁業対象種として有用なものが多く含まれており、これら深海種の飼育技術の開発が望まれている。一方、多くの種では生態学的知見が限られており、長期飼育を行ううえで大きな障壁となっている。
本研究ではアカマンボウを研究対象種として、人工受精技術の開発を実施した。今年度は、沖縄南部の漁港で水揚げされた本種の生殖腺を周年で調査し、繁殖生態の解明を行った(写真-3)。その結果、冬季から初夏にかけて捕獲された雄の死亡個体から得られた精子が、活性を保っていることなどが確認された。一方、複数個体の雌の卵巣には排卵された大量の卵が確認された(写真-4)。これらの結果は、今後人工授精を試みるうえで、最適な時期や方法を検討するための重要な基礎情報となる。
シラヒゲウニは沖縄県で食用とされ、広く流通していたウニである。しかし、近年個体数の激減により、漁が禁じられている状況にある。そのため、シラヒゲウニの養殖技術の確立が求められている。
今年度は、琉球大学瀬底臨海実験施設にて、桑の葉を餌としたシラヒゲウニの飼育を実施した。その結果、飼育環境下で少なくとも二年以上生存することが明らかとなった。また、飼育個体のサンプリングを行ったところ、可食部である栄養細胞が発達している様子が確認され、組織学的な観察を行ったところ、冬季に成熟した生殖細胞が形成されていることが確認された(写真-5)。
ウニの可食部は外殻で覆われているため、体内の情報を容易に得られず、個体レベルの適正な出荷時期や、再生産のための産卵時期が特定できないことが現時点での課題である。これらの情報を致死的でない方法で得る手法を今後確立することが、効率的なシラヒゲウニ養殖を行う上で重要となると考えられる。
スマの基礎的な養殖技術が確立され、センターとしての役割はほぼ達成したと評価する。今後は、養殖業者などに大量飼育技術などの開発を委託する段階であろう(仲谷顧問:北海道大学名誉教授)
*1動物研究室 *2水族館事業部 魚類課
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