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  1. 6)水生哺乳類の繁殖及び健康管理に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究センター[美ら島研究センター]

海洋生物の調査研究

6)水生哺乳類の繁殖及び健康管理に関する調査研究

植田啓一*1,*3・中村美里*3、中島愛理*3・比嘉 克*2・池島隼也*2・瀬戸沙也加*2・河津 勲*1,*2

1.はじめに

イルカをはじめとした水生哺乳類の持続的飼育のためには、飼育下での繁殖を推進することや、健康管理技術の向上が必要である。本事業では、イルカ等の自然繁殖および人工授精技術、CT等の画像機器を用いた診断技術や治療技術、外科的処置や麻酔技術、理学療法等の調査を実施し、動物福祉の向上に資するとともに、野生動物の保全に寄与することを目的とする。

2.繁殖に関する調査

オキゴンドウの繁殖の取り組みとして、雄の精液性状をモニタリングし、繁殖期の特定を行っている。生存精子が多く採取される時期に雌と同居させたところ、交尾を確認し雌の妊娠を確認した。またアメリカマナティーについても、雌雄同居を試み、雌の妊娠が確認された。両個体ともに超音波画像診断検査により、母獣や胎仔の成長等を定期的にモニタリングした。
人工授精の取り組みとしては、雄バンドウイルカ2頭から定期的に精液を採取し、精液性状のモニタリングを行うとともに、人工的(プロゲステロン製剤を用いた発情同期)および自発的に発情した雌、計2頭に人工授精を実施し、血中性ホルモンからその後の受精の確認を行った。
また、2018年3月31日に世界で初めて飼育下での出産に成功したマダライルカの妊娠期間や分娩等の繁殖生態を取りまとめ、論文がMammal Studyに掲載される予定である。
また、種の保存や繁殖技術の向上のため、飼育イルカ精子の凍結保存に着手している。今年度は、ミナミバンドウイルカ、オキゴンドウおよびバンドウイルカ3種5頭から採取された精液をストロー法(0.25ml/本、精子濃度約1.5-4.5億/ml)で,ミナミバンドウイルカ464本、バンドウイルカ108本、オキゴンドウ60本を凍結保存した。2020年度までの総凍結保存数の合計は、3,084本となった。また香港オーシャンパークで凍結保存しているミナミバンドウイルカの総凍結数は2020年度までで367本であった。

3.動物福祉に関する調査

オキゴンドウの社会性に関する調査のため、鳴音や行動の記録を行ったほか、シワハイルカの自傷行為や雄バンドウイルカの攻撃行動等の問題行動の要因分析に着手した。また、他個体に対して攻撃的であったユメゴンドウにおいて、行動変容法に基づいた遊具投入を反復する方法は、本種の攻撃行動の抑制に有効であることが明らかとなった。本結果は日本動物園水族館雑誌に掲載する予定である。

4.治療に関する調査

2018年に口腔内扁平上皮癌を発症したミナミバンドウイルカ(推定年齢50歳)に対し、抗菌薬ブレオマイシンを患部に局所投与を実施した結果、腫瘍部の改善および縮小化が認められた。また、本症例の細胞学的特徴についてとりまとめた論文が、Veterinary Clinical Pathologyに掲載される予定である。
また、シワハイルカ等の骨折の治癒過程を明らかにするため、鎮静処置を伴うCT画像診断を定期的に実施した結果、肋骨骨折の治癒期間は約1年であることが判明した。また骨折時に発生する気胸の治癒には、約半年を要することも明らかとなった。

琉球大学との共同研究により、クジラ型パラコクシジオイデス症(以下PCM-C)の発生状況を調査している。今年度は国内の水族館3園館(イルカ41頭)を対象に、PCM-Cの発生状況をした水族館1館、および発生していない水族館2館で飼育されているイルカ総計41頭についてPCM-C原因菌Paracoccidioides spp.に対する抗体保有率を調査した結果、61%の個体が抗体を保有していた。またヒト以外の哺乳類からの第3例目となるParengyodontium album が、PCM-Cの治療経過観察中のカマイルカの皮膚より分離され、生理学的性状と遺伝子型との関係が既報とは異なっていた。本結果についての論文はMycopathologiaに掲載された。

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    写真-1 オキゴンドウ胎仔エコー
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    写真- 2 精液採取
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    写真-3バンドウイルカ精子
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    写真-4 口腔内扁平上皮癌(左)抗癌剤治療風景(右)
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    写真-5 肋骨骨折の治癒経過(左:発症時、右:約1年後)

5.外部評価委員会コメント

調査研究目的の達成に向けて順調に計画が進行していると思われる。イルカ類の人工授精による繁殖は、国内の水族館において急務なため、美ら海水族館においても技術確立と本技術を用いた継続的繁殖による飼育下個体群の維持を期待したい。学術成果の公開については問題ない。(村田顧問:日本大学特任教授)


*1動物研究室 *2海獣課 *3動物健康管理室

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