海洋生物の調査研究
世界有数の生物多様性を誇る琉球列島だが、その全容はいまだ解明されておらず、近年でも新種や日本初記録などの報告が相次いでいる。一方で、琉球列島の自然環境は急速に変化しており、生物相を簡便に把握する技術開発が求められている。当事業では、琉球列島の海洋生物相の記録・解明に寄与するため、以下の取り組みを実施した。
なお、これら一連の調査研究により、令和2年度は9報の学術論文を発表した。
当財団では琉球列島産海洋生物の標本を収集し、自然史研究の発展や教育・普及活動に活用している。令和2年度には約200点の標本を新規登録した。その中には沖縄島から数を減らしている稀少淡水魚ヒョウモンドジョウやタウナギ等が含まれており、変わりゆく沖縄の自然を記録する他に類をみない標本群へと成長している。
また、沖縄美ら海水族館の深海コーナーには学術的にも貴重なミツクリザメの全身液浸標本(写真-1)を展示した。本種は顎が突出した奇妙な外観から「ゴブリンシャーク」の異名をもつ深海性のサメで、全長2mを超える大型個体の展示は全国的にも珍しい。その他にも、水族館の淡水魚コーナーや新種・初記録種の展示コーナーへの展示標本を提供し、普及・教育活動にも貢献した。
沖縄美ら海水族館は展示生物の多くを飼育スタッフ自ら採集しており、その過程で学術的に貴重な海洋生物標本を入手する機会も多い。
令和2年度には水族館の近海から採取される「アカタマガシラ」という魚が、実は2種類に分かれる ことを発見し、アカタマガシラParascolops akatamae(新種)とエンビアカタマガシラP. eriomma(日本初記録種)(写真-2)として発表した。また、両種は青色光を照射すると緑色に蛍光する特徴を持つが、その蛍光パターンが種間で異なることを明らかにした。これは生物蛍光を分類形質として利用した世界で初めてのケースである。ほかにも、国頭村安田で採集され日本初記録となった「アダヒメオコゼ」(写真-3)や、南大東島で採集され、新和名提唱につながった「ナンゴククロハギ」など、沖縄の魚類相解明につながる発見が相次いだ。アカタマガシラ属の2種とアダヒメオコゼは現在沖縄美ら海水族館にて飼育・展示されている。
もう一つ特筆すべき成果として、仔魚の同定に関する新手法を開発したことがあげられる。
従来、仔魚の固定にはホルマリン固定法(形態保持に優れるが、DNAが破壊される)か、エタノール固定法(DNAが保存されるが、形態が損なわれる)を用いるのが一般的であり、研究者はジレンマを抱えながらもどちらかを選択せざるを得なかった。この問題を解決するため、両手法のハイブリッドとも言える新手法を開発し、1個体の仔魚に対して形態観察とDNA解析の両立を可能とした。具体的な手法は以下のとおり。
1)採集した仔魚を短時間(24時間以内)10%ホルマリンで固定
2)70%エタノールに置換
3)右眼球を摘出しDNA解析に供する
短時間のホルマリン処理であればDNAが完全に破壊されることはないようである。解析するDNA領域を150bp程度の比較的短い領域に設定することも成功率を上げるうえで重要かもしれない。
本手法を用いてハゼ科仔魚の同定を試みたところ、従来手法を上回る13種(うち2種は初めて仔魚の形態を明らかとした)を同定することができ(写真-4)、本手法の有効性が示された。
環境水中に存在するDNAの塩基配列情報から、同環境に生息する魚類を特定する革新的技術を開発するため、千葉県立博物館等と共同研究を行っている。
本年度は地元のサンゴ礁池におけるわずか11Lの水サンプルから約300種の魚類を検出した研究成果が論文化され、さらにその研究を発展させる継続調査を実施している。また、海洋深層水などの深海の環境DNAに対応した解析方法や機材などの開発を行った。
特に評価できる点は、1)標本整理を完了させたこと、2)タマガシラ属の新種記載したこと、3)生物蛍光の研究を開始したこと、4)各種の独自の観測システムや、ハブクラゲの検出プライマーを開発したこと、5)研究成果を多くの論文として公表したこと、などである。特に生物蛍光に関する研究は世界でも始まったばかりなので、センターでの研究の進展を期待する。(仲谷顧問:北海道大学名誉教授)
*1動物研究室
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