海洋生物の調査研究
当財団では鯨類の保全と地域産業振興、公園管理事業への貢献を目的に、南西諸島周辺に生息する鯨類の調査研究を継続的に実施している。今年度は、当事業において以下の取り組みを実施した。
ザトウクジラは、夏季は摂餌のため高緯度海域へ、冬季は繁殖(交尾、出産、育児)のため低緯度海域へ回遊する。沖縄周辺は、本種の繁殖海域として知られ、冬季に来遊が確認されている。またザトウクジラは、尾びれ腹側の特徴が個体毎に異なり、個体識別が可能である。当財団では、本種の保全に貢献することを目的として、30年以上に亘り来遊状況について調査を継続している。
令和2年度の調査では、慶良間諸島、本部半島周辺で、のべ230頭分の尾びれ写真を撮影し、今年度までに約1800頭分の写真を識別、登録した。また、他組織と共同開発した尾びれ自動照合システムを用いて、沖縄と国内他海域間(北海道、小笠原、奄美)の交流に関する研究を実施した。その結果、沖縄に来遊する集団と他海域の集団とは密接に関係しているが、海域毎に交流の頻度に差があること等がわかった。同結果は、各研究機関と連携し学会にて公表した。次年度、学術論文での公表を計画している。本種の鳴音の日周変動に関する研究成果については国際学術誌に掲載、鳴音は昼に比べ夜間により活発に発せられること等を報告した。
また、ハワイ、メキシコ、オーストラリア等の研究機関と協力し、ドローンを用いたザトウクジラの行動解析に関する共同研究を実施した(写真-1)。ザトウクジラは広く世界中の海を回遊することから、本種の保全のためには、引き続き国内外の組織と協力して広範囲での調査研究、保全活動の実施が必要不可欠である。
南西諸島周辺に生息するシワハイルカは、世界的に知見が乏しく情報の拡充が求められている。今年度、県内の定置網に本種の混獲が確認されたため、漁協と連携して放流作業にあたった。放流後の生存確認と生態学的情報の収集を目的に、所定の手続きを経た上で放流個体の背びれに衛星標識タグを装着した(写真-2)。その結果、放流後10日間に亘る同個体の生存、移動状況を確認するとともに、シワハイルカの分布、行動に関する情報を収集した。今後も本種の保全および飼育鯨類の飼育技術向上への貢献を目的に、本種を含む鯨類の調査研究を継続する。
また当財団では、南西諸島周辺における鯨類ストランディング(漂着、迷入、混獲等)調査を継続的に実施し、学術研究や普及教育活動に役立てている。令和2年度は、計5科9種の鯨類のストランディングが確認され、種や場所等の記録、標本の収集を実施した。また2011、2020年に漂着した希少鯨類タイヘイヨウアカボウモドキの県内初確認および世界初の本種新生児の漂着に関する報告をそれぞれ国際学術誌に公表した。また海洋博公園(以下、公園)内施設において、本種の全身骨格標本の展示を実施した(写真-3)。
公園内で飼育中の鯨類の繁殖、飼育技術の発展に寄与することを目的に、飼育鯨類を対象とした調査研究を実施している。今年度は、他大学と共同でミナミバンドウイルカの消化速度に関する研究およびシワハイルカの社会行動に関する研究を実施した。また昨年度より継続しているオキゴンドウの社会行動に関する調査についても引き続きデータ収集した。
当財団では、調査研究事業で得られた成果を広く一般へ公表するため、教育施設での講演や公園内での展示を実施している。令和2年度は、県内外の大学、専門学校への講演を計3件実施した。また水族館にて「ザトウクジラ特設展」を座間味村と一部共同で実施し(写真-4)、園内施設にてザトウクジラ観察会や洋上目視調査船との中継映像を利用した講演会等を実施した(写真-5)。これらの観察会、講演会は、来年度以降も継続的に実施し、今後も園内関連施設における展示物の充実と一般への鯨類調査成果の教育普及を目指す。
地域産業振興への貢献を目的として、県内外のホエールウォッチング事業者を対象に講演会等を実施してきた。今年度は、沖縄北部ホエールウォッチング協会からの依頼講演を実施し、ザトウクジラの基礎知識および調査研究から得られた情報を還元した。今後も地元ホエールウォッチング事業者の方々とザトウクジラ調査における連携を継続するとともに地域産業振興への寄与を目指す。
野外の鯨類目視調査、研究は大変よく実施されている。今後更に小型鯨類の域内・域外保全の促進を目指した研究を実施することが望まれる。遺伝学、生理学的分野の研究にも力をいれ、野生個体の健康状態の評価に関しても研究を実施してはどうか。野生個体群への理解をより深め、得られた情報を飼育個体の管理分野へ生かすことが可能となる。また講演等を通じて、研究成果を来館者に伝えている取り組みも素晴らしい。 (Abel顧問:シアトル水族館館長)
*1動物研究室
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