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  1. 動物研究室

動物研究室

植田啓一*1

1. 方針

図-1 動物研究室の研究テーマ相関図
図-1 動物研究室の研究テーマ相関図

動物研究室では、琉球列島における熱帯・亜熱帯性の海洋生物に関する研究成果を、自然環境保全、地域振興、水族館事業といった様々な社会的要求に貢献することを目的とした調査研究活動を展開している。本年度は特に水族館管理運営事業への寄与に重点を置いた。また、地域振興の一環として水産業振興に関する調査研究や、公衆衛生上も問題となっている外来毒蛇であるタイワンハブの駆除に関する技術開発も実施している(図-1)。

2.実施体制

平成31年度の研究活動は、定席研究員9名に加え、水族館事業部との兼任職員4名で実施した。また、研究内容によっては水族館事業部職員と随時連携した。昨年度より運営を開始した動物実験倫理については、当財団の動物実験規定に基づく委員会により、3件の動物実験について承認を行い、その内容についてはHP上で情報公開を行った。

3.研究内容

1)鯨類に関する調査研究

本研究事業では、冬季に沖縄周辺海域に来遊するザトウクジラの生態調査を長年継続している。今年度は過年度に引き続き野外調査、尾びれ照合による個体識別を実施し、これらの情報をもとにザトウクジラの様々な生態的側面が明らかになりつつある。また人工知能を組み込んだ尾びれ写真の照合作業の効率化システムの開発、国内外との調査・情報共有のネットワークの構築、地元ホエールウォッチング業者との情報交流等の新たな取り組みも活発化している。また、当事業ではザトウクジラのみならず、野生鯨類の漂着、迷入への対応、水族館での飼育鯨類の生態に関する調査等も随時実施している。

2)ウミガメに関する調査研究

本研究事業では、野生ウミガメの生態把握および飼育個体の安定的繁殖技術開発を主な目的としている。野外調査では過年度に引き続き、地元ボランティア等と連携して沖縄県北部におけるウミガメの産卵状況を調査した。また死亡あるいは衰弱状態で漂着したウミガメへの対応も随時行った。
水族館飼育個体については、各種ウミガメの産卵に成功しているほか、適正な孵化条件の解明や、人工授精の成功に向けた研究を実施した。

3)在来希少種の保全に関する調査研究

琉球列島には多くの在来希少種が生息している。当事業ではこれらの生息実態の把握と実践的な保全活動を目的としている。本年度は、在来淡水魚の生息域外保全の可能性を検証するため、海洋博公園内の池に複数種の在来淡水魚を放流し、定着および再生産を確認した。さらに、固有種のヒョウモンドジョウの飼育下繁殖に関する技術開発等を実施した。また、海洋博公園に生息するヤシガニやクロイワトカゲモドキの生態調査、外来種のティラピアやグッピーの駆除に関する技術開発も実施した。

4)大型板鰓類の生理・生態・繁殖に関する調査研究

当事業では、世界的な保護対象となりつつある大型板鰓類の保全および水族館での持続的な展示に資する知見と技術の獲得を目的としている。本年度はジンベエザメやナンヨウマンタなどの血液サンプルに基づく生理学的モニタリングやエコーによる診断などを過年度に引き続き実施した。さらに血液サンプルの遺伝子診断によって成熟状態を把握する技術開発、エコー診断を応用したジンベエザメの心拍や循環系に関する研究、早産胎仔救命のための人工哺育器の開発等を実施した。

5)造礁サンゴ等の生態系基盤モニタリング調査

造礁サンゴ類は高い生物多様性を支える重要な生態系の基盤であり、当財団では長年にわたり地先サンゴ群落のモニタリング調査を実施している。本年度は過年度の調査に加え、新たに魚類相の調査を追加し、より広い視野で対象地区の生態系を評価しうる方向性を追加した。

6)海洋生物に関する自然史研究

当事業では、世界有数の多様性を誇る琉球列島の海洋生物相の研究および技術開発を充実させ、国内外の研究活動や普及啓発活動に寄与することを目的としている。本年度は新たに約6,000点の標本を新規登録したほか、ホホジロザメ全身液浸標本の展示といったイベント等への所蔵標本の活用、国内外への学術目的の標本貸与なども行った。また、琉球列島各所での採集調査、新種や国内初記録種に関する研究、環境DNAに関する技術開発なども実施した。

7)水生哺乳類の繁殖及び健康管理に関する調査研究

本事業は、水族館への野生からの導入が困難になっている鯨類の持続的な展示および飼育下繁殖を目的としている。本年度は過年度に引き続き、CTやX線検査による各種傷病の診断の確度向上に関する技術開発、真菌感染症に関する調査、人工授精に向けた精液凍結試験を実施した。さらに、国内外の関連機関と連携した人工授精やブリーディングローンに関する取り組みを推進した。

8)水産業振興に関する技術開発

本事業では衰退しつつある地元水産業の復興を目的とし、水族館事業で培った技術の活用および新たな技術開発を推進している。養殖技術の開発としては、水族館の飼育槽で得られた受精卵を孵化させて養殖種苗とする親魚養成を必要としない新たな事業形態を目指した技術開発を実施した。さらに養殖魚の餌料調整による品質向上に関する調査に加え、カツオ一本釣り用の活き餌確保に関する特許技術の実践的応用の取り組みも開始した。

9)タイワンハブ駆除技術開発

本事業では現在沖縄島北部を中心に分布が拡大している外来毒蛇タイワンハブの効率的駆除技術の開発を目的としている。今年度はモデル施設を用いた侵入防止策の効果検証を行い一定の効果が認められたほか、捕獲サンプルを用いた生態研究も実施した。さらに駆除作業の省力化を目的とした疑似餌トラップの開発やIOT化に向けた検討も開始した。

4.研究成果

図-2 動物系論文数の推移(2004年~2020年3月)
図-2 動物系論文数の推移(2004年~2020年3月)

平成31年度は30報の科学論文が受理・掲載された。論文数は歴代2位の実績となり、その大半が英文誌である。またこれまでは一定の分野に偏りがちであったものの、特に本年度は各分野で成果があがり、偏りは解消傾向である。令和2年度は更なる増加が見込まれ、依然として論文投稿は活発である。
また、マスコミ等への積極的な情報提供も実施し、16件のプレスリリース、40件の各種メディアの取材を受けた。昨年度に引き続き、研究成果は活発に外部発信されている。
今年度は特に、今までの研究成果をもとに強靱材料の開発(ヤシガニ研究)、次世代液晶の開発(魚類の光沢物質の活用)などといった新たな研究側面が異分野との共同研究によって広がりをみせた。また昨年度と同様に、水族館における鯨類、大型板鰓類、ウミガメの長期飼育・繁殖に関する技術向上や標本等展示物の提供、研究活動の報告、各種イベントでの講師派遣等を行い、最新の研究成果を来館者に提供している。更に水族館のサメ展示ブースにおいて、動物研究室が中心となった化石等を用いた進化をテーマとしたリニューアルを行うなど、本年度は水族館事業への直接的な貢献が活発になされたと評価できる。

5.外部評価委員会

令和2年3月3日に研究活動に対する外部評価委員会が開催された。委員からは、非常に多くの研究成果だけでなく、特に野外と飼育個体の相互フィードバック体制が高く評価された。また社会的要求に対する応答として、鯨類の持続的な展示生物の確保および種保存技術のための繁殖施設の設置の必要性が指摘された。

6.今後の課題

今年度より当財団における第Ⅳ期中長期計画が開始され、それに従い水族館との連携をより一層強化し、調査研究・技術開発に努める。また共同研究等の連携事業等への取り組みも強化し、環境保全や地域振興などの社会的要求にも柔軟かつ適切に対処しうる知識と技術を持つ組織構築を目指す。


*1動物研究室

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