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  1. 8)美ら島自然学校の利活用
沖縄美ら島財団総合研究所

普及啓発の取り組み

8)美ら島自然学校の利活用

前田好美*1・伊藝 元*1

1.はじめに

写真-1美ら島自然学校(旧嘉陽小学校)全景
写真-1美ら島自然学校(旧嘉陽小学校)全景

総合研究センターでは、名護市より委託を受け、平成21年に閉校した旧名護市立嘉陽小学校の跡地利用事業者として「美ら島自然学校」の管理運営を行っている。平成27年に運用を開始した当施設は、沖縄本島東海岸に位置し、学校正面を太平洋、後方を山々に囲まれた自然豊かな環境にある。普及啓発を目的とした各種催事の開催場所、および東海岸の動植物・歴史文化の調査拠点としての活用を図るとともに、地域住民と連携した事業展開を行った。

2.実施結果

「太平洋を望む豊かな環境で 誰もが学べる自然学校」を目指し、幅広い年齢・知識層の方を対象とした事業展開を図った。主な事業は(1)一般向け事業、(2)調査研究利用、(3)学校向け事業の3つに分かれている。平成31年度の施設利用およびプログラム利用者の総計は8,269名(H30年度比111%)であった。
1)一般向け事業
沖縄の動植物や歴史文化を題材とした講座やガイドツアー、主に親子を対象とした草木を用いた工作室などを開催し、幅広い年代・知識層の方へ学習機会を提供した。特に、地域の自然や伝統行事を活かしたプログラムは、参加者の評価も高く、施設の立地や環境の良さをうまく活用した事例となった(写真-2、3)。年間32件の催事を開催し、1,020名の参加者が得られた。また、常設プログラムとして設置した工作体験およびウミガメ学習などの利用者は20件356名、施設見学の案内対応は1,943名であった。

  • 写真-2地域の環境を活かした講座(嘉陽層の褶曲)
    写真-2地域の環境を活かした講座(嘉陽層の褶曲)
  • 写真-3地域の行事を活かした講座(嘉陽の綱引)
    写真-3地域の行事を活かした講座(嘉陽の綱引)

地域連携を目的とした大型イベント「ウミガメまつり」を昨年度に引き続き開催した。内容を大幅に変更し、嘉陽海岸で観察できる海の生物の生体展示(写真-4)やタッチプール、漂着種子をはじめとした植物標本の展示、オリジナルゲーム「ウミガメ危機一髪」などを設置したほか、構内でのクイズラリーを行った。また、地域青年会による地域農作物や軽食の出店、「ALLやんばるまなびのまちプロジェクト」で連携を組むGODACの協力による体験プログラムの開催など、地域や周辺団体との連携を強化した開催が実現した。沖縄本島中南部を中心に463名(前年比308%)の来場者が得られ、地域住民との交流が図られた。このほか、毎年恒例となっている、周辺地域の海岸におけるビーチクリーン大会を開催するなど、住民との協力体制強化を図った。

  • 写真-4ウミガメまつり 展示の様子(実験室)
    写真-4ウミガメまつり 展示の様子(実験室)
  • 写真-5ウミガメまつり 地域青年会による出店
    写真-5ウミガメまつり 地域青年会による出店
  • 写真-6ビーチクリーン大会in嘉陽
    写真-6ビーチクリーン大会in嘉陽
2)調査研究利用

平成31年度は、環境省、自然環境研究センターとの連携による沖縄県内に生息する絶滅危惧陸産貝類の生息域外保全に関する調査と域外保全を目的とした飼育を開始した。校内にて、南北大東島から搬入した絶滅危惧種である陸産貝類を飼育し、繁殖技術の向上を試みた。また、構内に設置したウミガメ飼育施設では、海洋博公園ウミガメ館生まれのウミガメ類幼体を飼育し、飼育下での調査を行った。摂餌不良のウミガメ幼体を短期間低塩分で飼育すると改善する傾向を把握し、現在、長期的な影響について追跡中である。6月末から7月末にかけては前年度生まれの幼体を標識放流し、回遊調査に供した。このほか、ウミガメ類の産卵痕跡調査、ストランディング調査、環境DNA調査、地域の伝統行事の聞き取り調査等を行った。調査結果は、一般向け催事などの資料として随時活用した。
また、外部研究者による利用を促すため、県内外大学関係者への周知を図ったほか、施設見学の受入れにより利活用の検討を促した。

3)学校連携事業

県内北部地域の小学校や教育委員会等と連携し、年に3回以上の学習を継続する「通年学習プログラム」および1~2回完結型の「短期学習プログラム(出前授業)」を、県内各地の学校を対象に展開した(詳細は「やんばる環境学習」参照)。美ら島自然学校での実施および関連授業での利用は2,329名であった。

3.その他

嘉陽小学校当時から残る施設には老朽化が見られ、校舎壁面や外周のブロック塀などの利用者の安全にかかわる箇所については随時、修繕等を行った。今年度は、渡り廊下の天井部に、塩害による爆裂が影響したコンクリート片の剥落が見られたことから、応急処置として斫り作業を実施した。今後、斫り部を再塗装するなどの補修を行う予定である。
また、長期休暇中を中心に、学生アルバイトの雇用を開始した。地域宿泊施設や共同売店等の利用により地域活性を図るとともに、地域住民との交流を促した。

4.外部評価委員会コメント

本施設を開設して数年が経過するが、そろそろ方向性を決める時期ではないかと考える。ヤンバル東地区の公民館的な役割、生物・文化の基礎情報の収集・保管・研究、環境学習の拠点などの役割が考えられるが、重点化するための順位を共有する必要がある。ただ、地域の住民と利用者の交流の場となっていることは評価できる(亀崎顧問:岡山理科大学 教授)。


*1普及開発課

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