普及啓発の取り組み
沖縄の将来を担う人材の育成を目的に、県内の新聞社が主催する環境教育事業に共催し、実施している。自然環境や科学に興味を持つ沖縄県内の小中学生が、視察や体験学習、研究等を通して探究心を育みながら、地域の自然について学ぶ機会の充実を図るとともに、財団職員が持つ動植物や環境に関する知識や経験を活かした学習機会の提供を行う。また、大学等で学ぶ学生や教員を対象とした次世代の指導者育成にも寄与すべく事前調査及び実施計画を行う。
沖縄こども環境調査隊は、沖縄の将来を担う子どもたちが環境問題の現場を訪ね、実際に見て、聞いて、感じ学んだことを、新聞を中心としたマスメディア等での紹介より情報発信する学習ツアーである。沖縄タイムス社が主催し、当財団は共催として事業を行っており、今年度で11回目の実施となった。
(1)募集および応募状況
4月10日(水)から5月29日(水)にかけて公募を行い、総応募者数は69名であった。作文審査にて25名を選考した後、面接審査により小学生5名、中学生3名の計8名を調査隊隊員として選抜し、6月23日の認証式後に活動を開始した。
(2)事前学習
ア)親子学習会
7月7日(日)、「親子学習会」を海洋博公熱帯ドリームセンター 夕日の広場講座室において開催した。隊員及びその家族27名が参加し、3つの講演およびワークショップを受講した。佐藤寛之氏(沖縄生物倶楽部)は、「西表島の成り立ち」と題し、環境や生物の特徴、固有種などについて講演を行った。財団からは阿部篤志(植物研究室)が「西表島の多種多様な植物たち」について講演を行った。講演後、熱帯ドリームセンターで展示中の西表の貴重な植物を観察し、実物を見ながらそれぞれの植物について解説した。午後には鹿谷麻夕氏(しかたに自然案内)が「海ごみ問題と沖縄の島じま」について講演した後、グループに分かれ海ごみの実物を観察し、分類をするワークショップを行った。親子学習会終了後、沖縄タイムス社の担当者が視察日程の説明を行い、視察準備等について最終確認をした。
(3)現地視察
7月22日(月)から7月25日(木)の日程で西表島の現地視察を行った(写真-1、2)。
現地で自然環境の調査や保護活動、案内に携わる方々の協力を得て、西表島の自然環境及び動植物の特徴、保全活動等について視察した。視察日程は表-1の通り。
現地視察には、財団から山本広美(普及開発課)が同行し、隊員の健康及び安全面の管理、視察中の学習補助などを行った。また、昨年度に引き続き奄美こども環境調査隊も合同で現地視察を行った。
日付 | 内容 |
7/22(月) | 奄美こども調査隊と合流 マングローブ域での生物観察(浦内川河口) 島の自然と文化についての講義(西表島エコツーリズム協会) 夜間ミーティング |
7/23(火) | 島の環境と絶滅危惧種についての講義(野生生物保護センター) カヌーとトレッキング、及び生物観察(ピナイサーラの滝) 島のエコツーリズムの現状説明(琉大熱帯生物圏研究センター) 夜間の生物観察(琉大熱帯生物圏研究センター周辺) 夜間ミーティング |
7/24(水) | トレッキング・西表やまねこクラブの解説による生物観察(浦内川) 干立の豊年祭の説明・綱引き用縄の作成(干立公民館) 西表やまねこクラブ(小中学生)との交流会 夜間ミーティング |
7/25(木) | 島の海ごみの現状と対策について(西表島エコツーリズム協会) 海岸のごみ拾いおよび調査(中野ビーチ) 石垣島へ移動 サンゴの現状と保全の取り組みの説明(WWFしらほサンゴ村) 那覇空港到着 |
(4)企業視察
本事業に賛同・協賛をいただいた企業の環境保全活動への取り組みについて企業視察を行った。視察先は、JTA日本トランスオーシャン航空(那覇市)、沖縄海邦銀行本店(那覇市)、沖縄コカ・コーラボトリング本社工場(浦添市)、環境ソリューション(沖縄市)であった。
(5)新聞記事掲載
今年度より、調査隊の成果発表を従来のシンポジウムによる発信から特集紙面制作に変更した。掲載は9月8日(日)のこども新聞「ワラビー」4-5面。新聞社が主催である強みを最大限に活かし、隊員達が視察体験等で学んだ事を自ら記事化して新聞に掲載した。
(6)修了式
1月19日(土)、タイムスビル(那覇市)において終了式を行った。西表島視察をまとめた動画(30分)を隊員と保護者で鑑賞した。さらに“10年後の自分について、記事を書く”ワークショップを行い、自分の暮らしや未来を守ることは、周りの生物や環境を守ること、そして自身の活動が環境に大きな影響を与えていることについて改めて考える機会を設けた。最後に一人ずつ修了証書を渡し、記念撮影を行った(写真-3)。
(7)まとめ
開催11回目となった今年度は、「希少生物の今と環境保全」をテーマに西表島の視察を行った。隊員たちは野生生物のロードキルや増加する観光客への対応、海ごみに対する課題と取り組みについて、現地で活動する方々に会って理解を深めることができた。さらに西表島で環境保全活動を行う小・中学生と活動を共にし、交流を図った。新しい試みとして、成果を新聞記事として掲載し、広く周知した。これにより、多くの県民の元へ成果を届けることができ、NIEでの活用も期待された。
新報サイエンスクラブは、県内の小中学生が行う沖縄の自然や動植物に関する調査研究を対象に助成を行うものである。児童生徒の「科学の芽」を育み、環境の重要性や沖縄の自然環境への関心を高め、次代を担う人材の育成を目的として実施した。琉球新報社が主催し、当財団は共催として事業を行っており、今年度は9回目の実施となった。
(1)募集および応募状況
4月13日(土)から5月31日(金)にかけて募集を行った。応募総数は48件(小学生39件、中学生9件)で、6月13日(木)に行われた審査会により、全30件(小学生26件、中学生4件)が採択された。
(2)事前講演会
5月12日(日)、自然や動植物の不思議さや実験を通した科学の楽しさを伝えることを目的に総合研究センター職員(動物研究室・植物研究室)が講演を行った。
講演内容
笹井隆秀(動物研究室):「研究って楽しい!沖縄のウミガメ研究最前線」
鈴木愛子(植物研究室):「植物の不思議~旅するタネ~」
(3)オリエンテーション、見学会、中間報告会
ア) オリエンテーション 6月22日(土)、オリエンテーションを開催し、事業の概要、スケジュール等について説明を行った。また、野中正法(総合研究センター統括)から、野外観察の注意点に関する講演を行った。
イ) 沖縄科学技術大学院大学(OIST)見学会 7月23日(火)、沖縄科学技術大学院大学(恩納村)の施設見学を開催した。
ウ) 研究レクチャー・フォローアップセミナー&総合研究センター施設見学、沖縄美ら海水族館バックヤード見学
8月10日(土)、当財団総合研究センターと沖縄美ら海水族館において開催した。助成対象者は、事前に記入した進捗報告書を基に財団職員に対して進捗状況の報告を行い、研究を進める上で困っていること等を相談した(写真-4)。セミナー終了後には、総合研究センターの施設や標本庫等を見学した(写真-5)。また今年度初めて、水族館のバックヤード見学を実施した(写真-6)。
エ) 研究のまとめ方セミナーおよび風樹館見学会
11月2日(土)、琉球大学資料館(風樹館)(西原町)において研究のまとめ方セミナーおよび見学会を開催した。佐々木健志氏(琉球大学資料館(風樹館)学芸員)が研究のまとめ方に関する講義を行った後、施設内の見学を行った。
(4)フォローアップ制度
本事業では、単に研究費用の助成を行うだけでなく、研究を進めていく中で疑問に思ったことや悩んでいることなどを解決するため、専門家に相談することができる「フォローアップ制度」を設けている。フォローアップについては、当財団職員や各分野の専門家が対応にあたっている。今年度は昆虫に関係する質問が9件あったため昆虫類の専門家の佐々木健志氏(琉大)に対応を依頼した。
(5)研究発表会
1月26日(日)、琉球新報本社3階ホールにて発表会を開催した。調査研究に取り組んだ全30個人・団体が、研究成果をまとめたポスターを会場に掲示し、それぞれ12分の持ち時間で発表を行った(写真-7、8)。発表会では、研究者全員が発表者及び質問者となり、活発な意見交換が行われた。ポスター発表終了後、全員に修了証と記念品が手渡された。
(6)まとめ
今年度は例年フォローアップセミナー開催時に行っていた「野外活動の注意点について」の講演をオリエンテーションで行い、研究前の安全管理について保護者を含めた助成研究者へ周知を行った。また、フォローアップの時間を長めに設けることで、研究の相談や不安解消に努めた。
研究発表終了後は昨年度に引き続き、特別協賛であるNTT西日本のNTT武蔵野研究所見学ツアーへの参加者選出抽選会により中学生2名が選出された。後日、見学ツアーを行う予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から見学ツアーは中止となった。
大学等で学ぶ学生や教員を対象に、次世代の指導者を育成することを目的とする。平成31年度は、観光業等に携わる社会人を対象とした講演会や地域の海岸に生息する生き物調査を企画・開催した。
(1)ゆんたく講演会
12月18日(水)、「もとぶの海~今昔ものがたり~」と題した講演会を当財団本部1階視聴覚室にて開催した。本講演会では、本部町で長年にわたり漁業に従事してきた仲村茂夫氏(もとぶつりぐ)に、本部町の海の生物相や漁業の移り変わりをご講演いただいた。また、通常の講演会とは異なり、座談会(ゆんたく)のような形式での試みを実施した。水族館職員など自然環境や動植物に従事した職業の方やそれらに興味のある方、30名が参加した。(写真-9)
(2)海洋博公園周辺海岸における生物調査
本事業は海洋博公園周辺海岸において、一般の参加者とともに生物調査を実施するものである。さらに、調査結果を基に、指導者が効果的に野外調査を行うための「生き物観察マップ」等の開発を目指す。今後は海洋博公園の自然環境を利用した生物調査を企画立案し、各部署との調整を行った。
(3)まとめ
ゆんたく講演会は参加者に好評であったことから、今後も本部町周辺で専門的に活動されている方にご講演いただく予定である。さらに、講演内容を記録し、残していくことが重要であると考え、記録のまとめ方等も検討していく。海洋博公園周辺海岸における生物調査は、次年度の実施に向けて、調整をすすめる。
多くの若手人材に動物、植物、生態系各分野に目を向けてもらうことが重要であり、サイエンスアウトリーチは極めて重要な役割を果たすと考える。理系・文系を問わず、地球温暖化対策による植物体系の変化やエネルギー問題、食料の確保等、沖縄という特殊環境を若い世代が理解するためには、学校教員による指導のみならず、特別授業や実験実習など、専門家によるサイエンス・アウトリーチが極めて有効である。
長期的な視点に立った、視野の広い、持続性のあるアウトリーチは、未来の研究者を育てる効果も期待できるので、県外からの児童も受け入れる工夫をし(修学旅行生による訪問等)、強化していくことが望ましい(輿水顧問:(公財)都市緑化機構 理事長)。
*1普及開発課
Copyright (c) 2015 Okinawa Churashima Foundation. All right reserved.