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  1. 6)空き教室を利用した植物工場の活用に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

6)空き教室を利用した植物工場の活用に関する調査研究

松原智子*1

1.目的

沖縄県では気象条件に左右されず、化学合成農薬を使わずに野菜等を安定生産できる植物工場の導入が期待されている。しかし、その運用にあたっては設備投資に係る初期コストが制約となるため一般には普及していない。
植物工場には、環境調整のため、電気・水道設備が整った気密性の高い空間が必要となる。我々はこれらの条件を満たした既存の施設が利用できれば植物工場は普及しやすくなると考え、学校の空き教室に着目した。空き教室は近年少子化に伴って増加しており、活用方法が課題となっている。植物工場として活用できれば教育活動と農産業の両面から地域振興に繋げることができると考えられる。
本研究では空き教室を活用した植物工場の普及を目指し、地元の小学校の空き教室に設置した植物工場でレタスおよびシソの栽培試験を行った。

2.植物工場の概要

写真−1 空き教室に設置した植物工場
写真−1 空き教室に設置した植物工場
1)設置場所

本部町立上本部小学校(沖縄県国頭郡本部町北里1317)の空き教室(67.5 m2)に植物工場を設置した(写真-1)。35 m2を栽培スペースとし、残りは作業場とした。栽培スペースと作業場の間は0.4 mm目の防虫ネットで区切った。

2)栽培条件

(1)高温対策
室温の上昇を抑制するため、教室の東西各2か所の窓に0.4 mm目の防虫ネットを設置した上で暴風雨時以外は常時開放した。また、栽培スペース内に工業扇を設置した。
(2)光条件
光源として植物工場用白色LEDを栽培用コンテナ1台あたり2本使用し、明期は午前5時から午後9時までの16時間とした。光合成光量子束密度は光源からの距離が5 cmのとき369.20 μmol m-2s-1、20 cmの場合は224.36 μmol m-2s-1になるように設定した。
(3)栽培用コンテナおよび栽培棚
栽培用コンテナは、液肥を3 ℓまで貯水でき、野菜の生育に必要な量がしみ出る構造の底面給水型コンテナ「e-ファーム」を使用した。
栽培棚として、5段スチールラックを30基用いた。スチールラックの最上段を除く4段に1台ずつe-ファームを配置し、120台を用いて栽培試験を行った。

3.栽培試験と結果

写真−2 植物工場産のレタス(8月)
写真−2 植物工場産のレタス(8月)
写真−3 植物工場産のシソ
写真−3 植物工場産のシソ
1)レタスの栽培試験

リーフレタス1品種、サニーレタス2品種およびロメインレタス1品種について、露地での栽培が困難な夏季(6~9月)に栽培試験を行った。いずれも播種後1週間目に定植し、以後5週間目に収穫を行うまで週に1~2回液肥を追加した。
収穫時の草丈は30 cm、根を除いた生体重は20g程度であった。同時期に市販されている県外産の水耕栽培リーフレタス(1株あたり80g程度)と比較すると生体重が少なかったが、病害虫の発生もなく良質の収穫物が得られた(写真-2)。

2)シソの栽培試験

シソはハスモンヨトウ等の害虫に食害されやすく、露地では無農薬生産が困難である。そのため侵入を防止できる植物工場の強みを生かせると考え、アオジソ1品種について栽培試験を行った。
播種から1週間目に定植を行い、週に1~2回液肥を追加した。2週間目から長さ10 cmに達した葉を切り取って収穫し、以後株が衰弱して収穫不可能になるまで同じ株から収穫を続けた。
播種から5週間目までに、市販品と遜色のない品質の葉を1株あたり平均10.6枚収穫することができた(写真-3)。

4.今後の取り組み

本研究では空き教室を活用した植物工場での、夏場のレタス生産およびシソの無農薬生産について、いずれも可能であることが示された。今後はコストの削減について検討した上でこの知見を活かし、海洋博公園における活動(栽培展示や収穫体験等)と連携を図り、教育活動と農産業の両面から地域振興を図っていく。
また、本研究では栽培に化学液肥を使用したが、より安心・安全かつ環境にやさしい方法で生産された農産物を求める機運が高まっていることや、化学液肥の原材料として使われているリン鉱石は今世紀のうちに枯渇する可能性が指摘されている(Cordellら、2009)ことから有機液肥を用いた栽培に切り替えることも目指している。
有機水耕栽培では、有用な土壌微生物であるアーバスキュラー菌根菌(AMF)およびそのパートナー細菌(PB)等を野菜の苗に接種(石井ら、2016)、もしくは液肥中に繁殖させる(篠原、2006)ことで肥料成分の吸収が促進され、化学肥料の場合と同等またはそれ以上の収量を得ることができる。

5.外部評価委員会コメント

植物工場の実用化の成果は評価できる。空き教室の利用は、意義深い試みである(佐竹顧問:昭和薬科大学薬用植物園 研究員)。

廃校等を利用した植物工場においても、AMFおよびPB等の有益微生物を活用した有機養液栽培技術による安心・安全で持続可能な野菜生産及び展示・普及の進展を期待している。こうすることで現状の化学合成農薬及び高濃度の化学肥料使用の養液栽培による健康被害や使用養液の廃棄による環境破壊を克服できる(石井顧問:徳山高等工業専門学校 研究員)。

参考文献
1) Cordell, D., Drangert, J. O., & White, S. (2009). The story of phosphorus: global food security and food for thought. Global Environmental Change 19(2), 292-305.
2) Ishii, T., A. Shano and S. Horii (2016). New organic hydroponic culture using arbuscular mycorrhizal fungi and their partner bacteria, and newly developed safe plant protectants. Proc. QMOH 2015 - First Int. Symp. Qual. Mngmt. Organic Hortic. Prod. 680-690.
3) 篠原信 (2006) 有機肥料の養液栽培〜並行複式無機化法による養液内微生物生態系構築法.農業および園芸81(7), 753-764.

*1植物研究室

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