亜熱帯性植物の調査研究
沖縄県の健康長寿は、工芸品を利用した生活様式や伝統的に用いられる島野菜等の有用植物に支えられているとされ、その要因にはこれらの機能性の関与が示唆されている。一方、生活スタイルの変化に伴う伝統工芸の衰退や食の欧米化などでそれらの利用は減少、多くの島野菜も喪失の危機にある。そのため、沖縄県は島野菜として28種の植物を定め、その利活用を促進し、生産振興を推進しているが、広く普及されるまでには至っていない。従って、遺伝資源の早急な保全は急務であり、島野菜などの収集は重要課題となる。そこで今年度、主に沖縄本島北部地域及び離島を収集調査の対象に設定し、収集活動、現場調査および対象地域へのアンケート調査等を行った。
令和元年10月から令和2年3月の期間で遺伝資源の収集を行い、主な対象地域を沖縄本島北部および離島(図-1)とし、本島中部の一部地域についても収集を実施した。
有用植物アンケート調査を遺伝資源収集対象の市町村農林水産担当課(16市町村)にアンケート用紙を用いて依頼し、地域における栽培状況および栽培品目等の情報収集および聞き取り調査を担当課職員、農業改良普及員、各区長または農家へ実施した。
遺伝資源収集の主な対象地域についてアカナー※、ハマゴボウ、マーナおよびハママーチの分布状況を把握するため、生育または栽培状況の調査を行った。
沖縄本島北部および離島における遺伝資源として、102地点より53品目が収集され、うち島野菜として16品目が収集できた(表-1)。これらは有用植物(島野菜等)の遺伝資源として保存するとともに、栽培試験や機能性成分分析等に供する予定である。
遺伝資源収集対象の本島北部および離島の16市町村中9市町村より回答を得ることができた。多くの地域では、在来の島野菜を主に栽培している農家が現在ではほぼ無く、既存の栽培種から新しい導入種に置き換わっている状況が散見された。栽培方法の継承や後継者問題など次世代に遺伝資源を継承するための課題がみられた。一方、今帰仁村のメーオーパや名護市の屋部ダイコンなど、小規模ながら昔からの自家採種で継続的に栽培されている地域も確認することができた。
本島北部および離島を中心に、有用植物の生育または栽培状況を調査した(図-2)。ハマゴボウは、本島北部西海岸および東海岸いずれでも確認され、伊平屋島には広く分布していることが把握された。マーナは、伊江島で春の訪れを告げる植物として知られているが、本島北部西海岸や石垣島などの離島でも確認された。しかし、本島東海岸では確認することができなかった。アカナーは、主に、本島北部でも名護市より北側で多く確認することができた。また、伊平屋島では、アカナーがシマナーに混ざり栽培されている状況が確認され、島民の話では、アカナーのみで利用することは特にないとの情報を得た。ハママーチは、本島および離島で確認され、ほとんどが自家用栽培であった。しかし、石垣島の大浜では自生を確認することができた。
本調査の結果を踏まえると、今後も分布の推移状況を継続して調査する必要があると考えられた。今後、調査対象の品目の追加も検討する。
遺伝資源収集では55品種の成果を上げている。これらの有用性を明らかにできれば、保存栽培及び増殖栽培が期待される。島野菜16種の特性調査の成果や島野菜の組織培養での成果が実用化に発展することも期待できる。公園に植えられる5種の島野菜は、県民への正確な情報の伝達に有効であると期待される(佐竹顧問:昭和薬科大学薬用植物園 研究員)。
これまでの研究を発展させる内容であり、今後の進展が楽しみである。しかし、財団で機能性研究が取り組めるようになったのであれば、これらの有用植物の栽培にあたっては化学肥料や化学合成農薬を使用する近代農法を導入するべきでないことに気づいていただきたい。この農法では島野菜及び伝統的工芸植物が本来持つ機能成分を失う、あるいは著しく減少するので、菌根菌とそのパートナー細菌(PB)等の有益微生物による自然のメカニズムを活用した栽培法を必ず導入するべきである。これらの有益微生物を活用した栽培法ではフラボノイド等の抗酸化物質、GABA等のストレス緩和物質等の様々な機能性成分が近代農法と比べて高まることが明らかになっているからである(石井顧問:徳山高等工業専門学校 研究員)。
表-1 収集された遺伝資源としての有用植物
科名 | 学名 | 品目名 |
アブラナ科 | Brassica juncea (L.) Czern. | アカナー※ |
Brassica rapa L. ssp. | インリーデークニ※ | |
Raphanus sativus L. var. hortensis Backer | 島ダイコン※ | |
Brassica juncea (L.) Czern. | シマナー※ | |
Raphanus sativus L. var. hortensis Backer f. raphanistroides Makino | ハマダイコン | |
Brassica rapa L. Oleifera Group | マーナ※ | |
イネ科 | Zizania latifolia (Griseb.) Turcz. ex Stapf | マコモ |
ウリ科 | Cucurbita moschata Duchesne | 島カボチャ※ |
Momordica charantia L. | ゴーヤー※ | |
Sicyos edulis Jacq. | ハヤトウリ | |
Coccinia grandis (L.) Voigt | ヤサイカラスウリ | |
キク科 | Lactuca indica L. | アキノノゲシ |
Artemisia japonica Thunb. | オトコヨモギ | |
Lactuca sativa L. var. angustana L.H.Bailey | カキチシャ | |
Artemisia capillaris Thunb. | カワラヨモギ | |
Cirsium brevicaule A.Gray | シマアザミ | |
Crepidiastrum lanceolatum (Houtt.) Nakai | ニガナ※ | |
Gynura bicolor (Roxb. ex Willd.) DC. | ハンダマ※ | |
Luffa acutangula (L.) Roxb. | ヘチマ | |
Lactuca sativa var. asparagina | メーオーパ※ | |
Artemisia indica Willd. | ヨモギ※ | |
Artemisia morrisonensis Hayata | ハママーチ※ | |
クズウコン科 | Maranta arundinacea L. | クズウコン |
コショウ科 | Piper retrofractum Vahl | ヒハツモドキ |
サトイモ科 | Colocasia esculenta (L.) Schott | サトイモ |
Colocasia gigantea (Blume) Hook.f. | ズイキ | |
ショウガ科 | Zingiber officinale sp | 島ショウガ※ |
Zingiber zerumbet (L.) Roscoe ex Sm. | 白ウコン※ | |
ススキノキ科 | Aloe vera (L.) Burm.f. | アロエベラ |
Hemerocallis fulva L. | クワンソウ※ | |
スベリヒユ科 | Portulaca oleracea L. | スベリヒユ |
セリ科 | Foeniculum vulgare Mill. | ウイキョウ |
Peucedanum japonicum Thunb. | サクナ※ | |
Glehnia littoralis F.Schmidt ex Miq. | ハマゴボウ※ | |
トウダイグサ科 | Manihot esculenta Crantz | キャッサバ |
トチカガミ科 | Ottelia alismoides (L.) Pers. | ミズオオバコ |
ナス科 | Capsicum frutescens L. | 島トウガラシ※ |
ハマミズナ科 | Sesuvium portulacastrum (L.) L. | ミルスベリヒユ |
ヒガンバナ科 | Allium sativum L. | 島ニンニク※ |
Allium chinense G.Don | 島ラッキョウ※ | |
Allium tuberosum Rottler ex Spreng. | ニラ | |
Allium macrostemon Bunge | ノビル | |
Allium x wakegi Araki | ワケギ | |
ヒユ科 | Beta vulgaris L. var. cicla L. | フダンソウ |
ヒルガオ科 | Ipomoea aquatica Forssk. | エンサイ |
Ipomoea batatas (L.) Poir. | カンダバー※ | |
マメ科 | Pisum sativum L. | 赤エンドウ |
Vigna unguiculata (L.) Walp. | ササゲ | |
Psophocarpus tetragonolobus (L.) DC. | シカクマメ | |
Glycine max (L.) Merr. | 島ダイズ※ | |
Lablab purpurea (L.) Sweet | フジマメ | |
Arachis hypogaea L. | 落花生 | |
ヤマノイモ科 | Dioscorea alata L. | ヤマイモ※ |
※品目名で方言名等の地域の呼び名があるものはそれを示した
*1植物研究室
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