亜熱帯性植物の調査研究
沖縄県の園芸では、温暖な気候をいかした熱帯性作物の生産や、熱帯花卉類を用いた観光施設運営を行う事で本土と差別化を計っている。しかし、県内の環境に適する品目は限られており、栽培に適する品目の拡充が期待されている。
本調査研究では観光・地域産業振興を目的として、未利用遺伝資源等を用いた新しい園芸植物を開発すると共に、優良品種の普及に向けた無病苗等の大量増殖を行うものである。
リュウキュウベンケイは沖縄県に自生するカランコエ属の植物である。カランコエ属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、いくつかの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイは観賞価値が高いにもかかわらず、育種素材として使われてこなかった。リュウキュウベンケイは既存の品種にない背丈の高い形質を有する事から、切花用品種の育種素材として有用であると考えられた。
そこで、千葉大学と共同でリュウキュウベンケイの育種に取り組んだ結果、沖縄の環境に適する切花用品種を開発するに至った。これらは「ちゅらら」シリーズと名づけられ、平成29年2月までに7品種を品種登録するに至った。
「ちゅらら」シリーズは新規花卉品目として地域産業への貢献が期待できることから、平成27年度より沖縄県農林水産部と共同で普及に向けた調査を開始した。普及に当たっては行政、出荷団体、研究機関等で検討会を組織し、栽培、収穫、輸送、販売等の技術体系を構築すべく戦略会議と調査を実施した。その結果、収穫物の品質が向上し、平成28年度には県外出荷をするに至った。令和元年度は今まで作出困難であった、白や赤色の優良品種の開発、前年度選抜した3品種の品種登録出願等を自主事業として実施した。また、海洋博公園における展示を行った。
白や赤色の花を咲かせる優良品種の開発のため、平成29年度に新たな親系統を導入し、平成30年度にその交配特性を調査した。平成31年度は前年度までに得られた選抜個体の形質を再確認、選抜すると共に種苗の増殖を行った。さらに、交配特性結果を受け再度交配を実施した。なお、優良品種とは、①堅い茎をもち長距離輸送に耐える、②小葉立葉で生産・出荷調整しやすい、③隙間のないスプレー咲きで草姿が良い、④八重咲で花が押し潰されにくい、⑤花しぼみが目立たない、⑥生育旺盛といった形質を有するものである。
その結果、上記条件を5つ以上満たす、白や赤色の花が複数個体選抜された。次年度はこれらについて地元農家圃場において栽培実証試験を実施する。また、白や赤以外の優良個体も得られたことから(写真-1)、これらについても継続して調査する。
前年度作出した新品種3種を利用、普及するため、‘ちゅららマゼンタ’‘ちゅららイエロー’‘ちゅららパール’と命名し品種登録出願を行った(写真-2)。また、地元の出荷団体や農業生産法人と品種利用契約を締結した。
新品種は地元の農家にて生産を行い、約2万本生産を行った(写真-2)。生産物は県外出荷を実施すると共に、海洋博公園における展示を行った。
令和2年1月25日~2月27日に海洋博公園にて実施した美ら海花まつりにて、ちゅらら新品種を展示利用した。ちゅららは切花であるため、立体的な造形物の装飾も容易であり、また、水やりが不要であることから潅水に係る労力を低減しつつ、効果的に展示を実施することができた(写真-3)。
リュウキュウコンテリギは沖縄本島の北部地域に生えるアジサイの仲間で、非常に小さい株でも花を咲かせる特徴から小型アジサイの育種親として有用であると考えられる。そこで、本種とアジサイ園芸種の交配を試みた。平成29年度は胚珠培養により多数の実生苗が得られた。平成30年度はこれらの実生苗を順化育成し、形態観察から雑種性の確認を行った。平成31年度は生育が良好な株について育成を強化、開花させ、形質確認を行った。その結果、リュウキュウコンテリギでは見られない装飾花を複数つける個体が確認された(写真-4)。次年度はさらに多くの個体について育成、開花させ形質確認を行うことで、海洋博公園内の鉢物展示等に向く品種を選抜する。
コウトウシュウカイドウの耐暑性や丈夫さを活かし、沖縄でも栽培可能な観葉ベゴニアの開発を試みた。過年度までの研究で得られた葉色の多様化や小型化した選抜個体について、ベゴニア展(5月1日~6月30日、熱帯ドリームセンターにて実施)で展示を行った(写真-5)。
ダイサギソウは白色の花を穂状に多数咲かせる沖縄県在来のラン科植物である(写真-6)。切花用の品種化を目指し、花持ち等を改善すべく、倍加(不捻化)の試験を実施した。今年度は倍加剤の種類とその濃度について調査した。倍加処理はコルヒチン及びアミプロフォスメチルを用い、処理濃度と処理期間について調査を行った。倍数性の確認はフローサイトメーターを用い、処理後6ヶ月に生育した個体の葉を調べた。その結果、4倍体だけでなく、8倍体以上の高次倍数体も得られた。また、キメラも多く確認された。得られた倍数体は馴化育成を行った(写真-6)。
今後は得られた倍数化個体を開花するまで栽培し、形質調査を実施する予定である。更に、他の種類の倍加処理薬剤を用いて倍加処理剤の比較調査を行い最適な倍加剤とその濃度及び浸漬日数を調査し、得られた倍加処理個体の園芸品種化の可能性を調査する。
ツルランは白い花を多数咲かせる沖縄県在来のラン科植物である。ツルランを含むエビネの仲間は観賞価値が高く、県内外で人気が高い。そこで、ツルランを用いたオリジナル品種を作出すべく、平成26年度より交配育種を実施した。平成31年度は実生苗の育成を行った結果、葉に模様が入る珍しい形質を持つエビネが誕生した。次年度は海洋博公園での展示を行う。
久米島はベニイモの重要害虫であるアリモドキゾウムシが根絶された県内唯一の地域であり、外部から種苗を新たに持ち込むことは検疫上厳しく制限されている。しかし、近年の需要の高まりや基腐病の蔓延による苗不足で、久米島への種苗供給が課題となっている。これらの解決策として、アリモドキゾウムシの混入を確実に防ぐことができる培養苗の利用が注目されている。植物研究室では沖縄県農林水産部糖業農産課の依頼を受け3品種計1800本、久米島町産業振興課の依頼を受け、1品種5800本の組織培養苗を供給した(写真-8)。
海洋博公園では独自性の高い展示や体験型プログラム等の実施に向け、島野菜等在来植物の園内利用を進めている。リュウキュウヨモギ(ハママーチ)は、お茶や薬草として伝統的に利用されてきた沖縄の在来植物であり、葉姿や香りが良い等の理由から、今後の利用が期待されている。そこで、病害虫に汚染されていない優良種苗を生産すべく、技術構築を行った。
リュウキュウヨモギの節培養を試みた結果、培養開始から6ヶ月で馴化可能な個体を300苗得ることができた(写真-9)。今後はリュウキュウヨモギの優良系統やリュウキュウヨモギ以外の在来植物(ボタンボウフウ、ホゾバワダン等)の増殖技術の構築を試みる。
沖縄県での生産に適した様々な植物の育種とその増殖技術の開発に関する取り組みであり、予想を上回るペースで順調に成果が得られており、今後の進展が大いに期待される。
沖縄県にとって重要なパインアップル等の栄養繁殖性果樹作物に対して、組織培養による大量増殖技術を確立すると共に、かんしょでは地域の要請に適格に答えた培養苗の生産を実施し、事業収益をあげるなど、当初の研究目標を上回る成果をあげている。(三位顧問:千葉大学名誉教授)
*1植物研究室
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