亜熱帯性植物の調査研究
阿部篤志*1
植物研究室は、総合研究センターの目標である「環境問題への対応」、「産業振興への寄与」、「公園機能の向上」を念頭に亜熱帯性植物に関する調査研究・技術開発並びに普及啓発事業を実施している。
平成30年度は「環境問題への対応」として、琉球列島に生育する希少植物の保全に関する調査研究、「産業振興への寄与」として、有用植物の開発・利用に関する調査研究、「公園機能の向上」として、都市緑化に関する調査研究等を実施した。普及啓発事業としては、海洋博公園において「奄美・やんばる・西表の貴重な植物展」、「熱帯果実展」を開催し、植物コレクション、標本類、及び解説パネル等の貸出を行った他、総合研究センターにおいて日本樹木医会沖縄県支部専門家講習会等を開催した。また、各種講演会等へ講師を派遣した。国際交流事業としては、沖縄国際洋蘭博覧会を開催した。
植物研究室の調査研究活動は、正職員4名、契約職員4名、調査研究補助3名、事務補助1名、熱帯植物試験圃場の栽培補助7名で実施した。
沖縄県の自生植物のうち、「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(菌類編・植物編)2018年発刊」に記載された種(絶滅危惧植物)の保全に寄与することを目的に、生育環境、生育状況、減少要因等の調査を行った。平成30年度は、座間味島における調査で絶滅危惧IB類のオキナワマツバボタンを新たに記録するとともに、40数年ぶりに再確認した絶滅危惧Ⅱ類のヒロハケニオイグサ等16種の知見を集積した。沖縄の里地・里山に生育する希少植物については、新変種オキナワソウ、沖縄県新産の外来植物コウガイセキショウモを発見した。
西表島植物誌編纂事業については、現地調査及び標本採集を行い、希少植物の位置を追加確認すると共に、同島で新たにヒメミソハギを記録した。東京大学と京都大学が所蔵する標本のデータベース化(ラベルデータ入力/標本画像取得)を行った。さらに、鹿児島大学と共同研究を締結し、琉球列島産標本のデータベース化に着手した。
また、やんばる国立公園の希少植物に関する有識者対応や、世界自然遺産候補地の推薦書に関する希少植物の資料提供、琉球地域における国内希少野生動植物種の保全対策に関する情報提供等を通した生息状況評価に取組み、琉球列島の希少植物保全に貢献した。
絶滅危惧植物リュウキュウベンケイを用いた調査(ちゅららシリーズの生産販売・商品化)では、交配、突然変異等の育種技術を構築すると共に、継続して新品種を作出できる体制を構築した。さらに、行政機関、研究機関、出荷団体等からなる検討会を組織し、栽培技術や収益性等の情報を共有することで生産振興を図った。また、ちゅららシリーズに次ぐ品目の作出のため、沖縄在来のリュウキュウコンテリギ等の育種を実施すると共に、近年、県内で生産量が増えているトルコキキョウについて、新しい育種技術(花弁培養等)を構築した。
その他、地元の小学校の空き教室を活用して植物工場を設置し、独自の有機液肥と菌根菌を用い、夏季を中心としたレタス栽培試験を行った。
沖縄県において主に使用される緑化樹木の剪定手法に関する調査が完了したことから、本調査の成果を技術書としてとりまとめ発刊することを目指し、道路や公園緑化の管理者、学識経験者等から構成される有識者検討会を実施した。また、緑化樹木のリスクマネジメントに関する調査では、γ線腐朽診断調査を実施し、公園管理者へ情報共有することで潜在的なりリスク軽減を図った。緑化樹木の病虫害に関する調査研究では、南根腐病及び穿孔性昆虫について調査を行った。
インドアグリーンとオフィスのストレス抑制に関する調査については、名桜大学と共同で調査を行った。また、沖縄に適した低管理型プランターを用いた花苗の生育評価、及び給水頻度、用土、底石の違いによる生育調査を実施した。
生育域外保全を目的とした希少植物や研究で用いる有用植物を管理するとともに、海洋博公園での展示、外部の展示会や研究用としての貸出や提供を行った。また、栽培試験の成果としてドリアンを人工交配により、国内では2例目、県内では初の結実を成功させ、海洋博公園(熱帯ドリームセンター)で展示しマスコミの取材を多数受けた。
調査研究で得られた成果を一般の方々へ広く普及することを目的に、総合研究センターが主催する「美ら島自然教室」や、国立科学博物館、環境省やんばる野生生物保護センター等の関係機関からの招待を受け、沖縄の希少植物等に関する観察会や、シンポジウムで講演した他、琉球大学及び名桜大学で財団が実施した寄附講座へ講師を派遣した。
海洋博公園において、「沖縄の貴重な昆虫展(昆虫と植物の不思議)」では、ワークショップの開催及び昆虫標本の貸出しを行った他、独自に製作している剪定技術書を活用し、緑化樹木の剪定技術に関する講習会を開催した。
2019年2月には33回目となる「沖縄国際洋蘭博覧会」を開催し、国外出展は11ヶ国1地域、国内出展は25都府県より出展があった。
また、「春の緑化推進運動」及び「秋の都市緑化月間」では、海洋博公園で実施された苗木の無料配布で用いる苗や、沖縄市で開催された沖縄都市緑化祭における配布用苗を合計800鉢生産し提供した。
平成30年度は、環境省那覇自然環境事務所、沖縄県等より下記事業を受託し実施した。
(1)平成30年やんばる地域希少植物生育状況調査業務【環境省那覇自然環境事務所】
(2)平成30年度熱帯果樹優良種苗普及システム構築事業【沖縄県】
(3)沖縄県かんしょ奨励品種の節培養による苗増殖及び発送に関する業務【沖縄県】
(4)平成30年度希少野生植物の生息域外保全検討実施委託業務のうち種子保存に関する検討に関する業務【(公社)日本植物園協会】
(5)平成30年度寄託管理事業(ワシントン条約に基づき空港等で没収された植物の管理を行う)【(公社) 日本植物園協会】
(6)平成30年度奄美大島に生育する着生ランの野生復帰事業 【(一財)自然環境研究センター】
平成31年1月11日に外部評価委員会を実施し、植物研究室において実施した調査研究・技術開発、普及啓発事業についての評価及び助言を頂いた。
委員からは、希少植物の保全については「ラン類共生菌に関する研究対象を、着生ランだけでなく、共生菌に依存する種類が多い地生ランにも取り組むべき」、また、有用植物や都市緑化については「野菜栽培や植物管理においては農薬不使用、生物農薬、化学合成農薬不使用に積極的に移行すべき」、「沖縄独自の素材を活かした研究活動を今後も進めてほしい」等の指摘を受けた。これらのご指摘や提案を踏まえ、今後の研究・技術開発事業での取り組みを検討する。
過年度より成果の学術的成果等を指摘されているが、今年度は、論文7報、学会発表11題、品種登録8品種(更新)等、より多くの成果をあげた。
調査研究の成果をアウトプットするため、論文投稿、品種登録や特許取得、技術書や図鑑等の書籍の発刊、展示コンテンツの制作等、より活発に成果の公表に努めたい。
また、総合研究センターの目的である「環境問題への対応」、「産業振興への寄与」については、調査研究・技術開発事業並びに普及啓発事業を実施し、成果を着実にあげているところである。「公園機能の向上」については、当財団が担う中心的な事業である国営沖縄記念公園等施設の維持管理、運営に還元していくため、調査研究を加速的に推進する必要がある。平成30年度に専門の研究員が着任したことから、今後は、これまで以上に都市緑化に関する調査研究、並びに熱帯・亜熱帯植物を活用した展示・栽培技術の開発事業の強化を図りたい。
*1植物研究室
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