海洋生物の調査研究
岡慎一郎*1
南西諸島の生物多様性を支える構成要因として,造礁サンゴ類や海草・海藻類といった生態系の基礎生産者があげられる。とりわけ造礁サンゴ群集は,水産業や観光業などの産業とも関わりが深い一方で,白化などの不安定要素もはらんでいることから,その変動の傾向や要因を明らかにするため,当財団では1988年から海洋博公園周辺のサンゴ群集のモニタリング調査を実施している。
加えて浅海域の基礎生産者の一翼を担う海草・海藻類においては,比較的知見の蓄積した造礁サンゴ類に比べるときわめて断片的な情報に限られており,全体像の大まかな把握すらできていなかったことから,沖縄島北部の標本目録調査を平成18年度から開始し,平成27年度からは経年変化を追跡するためのモニタリング調査に転換した。
このような生態系の基盤生産者のモニタリング調査は,生態系の理解だけでなくその管理や変動の予測にきわめて重要な情報となる。
洋博公園地先のイノーは「沖縄県の重要サンゴ群集」として指定されたエダコモンサンゴ群集が存在し,礁斜面のサンゴ群種は沖縄本島内では優れた回復力を持っているとされ,沖縄県の貴重な自然環境といえる。平成30年度も引き続き,これらサンゴ群集の現況把握を目的としたモニタリング調査を実施した。
調査対象範囲は海洋博公園周辺の図-1に示した範囲とし,各区において計10本のトランセクトラインに沿って一定の間隔で40cm×60cmの枠内を撮影し,サンゴの被度と構成比率を定量的に検討した(フォトトランセクト調査:写真-1)。近年増加傾向であったサンゴ被度は平成30年も同様の傾向を示し,特にミドリイシ科は全地点で増加していた。また,浅い場所では2006年の白化以降の増加が顕著であり,深い場所ではハナヤサイサンゴ類が緩やかに増加している傾向にあった。
また,サンゴの加入状況を把握するため,3区域に定着版(タイル)を設置し,約1か月後にそれを回収し,着底した稚サンゴ骨格から平成30年における加入状況を検討した結果,稚サンゴの数はいずれの地点も過年度調査の変動の範囲内にあり,特筆すべき変動は認められなかった(写真-2)。
沿岸海洋生態系の基礎生産者として重要な生物群である海藻・海草類の経年変化の把握を目的として調査を実施した。調査海域は造礁サンゴと同様の海洋博公園地先(備瀬地区:図-1)と,名護市嘉陽海岸とした。調査方法は方形枠内における出現種の数や被度の記録により行った(写真-3)。本調査は4ヶ年計画であり,平成30年度の調査は最終年に相当する。ここでは,4ヶ年の調査結果を総合して概説する。
4ヶ年の調査で確認された海藻類は計130種,海草類は9種であった。地点別にみると,備瀬で海藻類94種,海草類4種,嘉陽で海藻類60種,海草類7種であった。備瀬地区における海藻類はイノー内部(図-2の「2-1」)が多く,イノー外縁(図-2の「2-3」)には少なく,その傾向は4年間共通していた。また,各方形枠における年変動も不明瞭であった。
イノー内に海草群落がよく発達する嘉陽地区では,海藻・海草類の被度は全域で40~60%程度で,リュウキュウスガモが優先していた。また,岸よりはウミジグサ,リュウキュウアマモが目立ち,沖側ではベニアマモやホソバウミジグサが出現した。各方形枠とも種構成は類似しており,海藻・海草類は比較的安定していると考えられた(図-3)。
造礁サンゴ調査は,来年度以降魚類なども調査対象に加え,サンゴ群集を加えた生態系を広くとらえたモニタリング調査へと移行する。
海藻・海草調査に関しては,4ヶ年の追跡で目立った変化はなく,出現種も概ね把握できたことから毎年の調査は休止し,複数年に1度程度の追跡により長期的な変動を捉えることとする。
調査結果の取り纏め及びデータ解析について具体的な方法及び計画を示す必要がある。予報的にでも本調査結果とその成果について具体例を示すと良いだろう。
*1動物研究室
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