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  1. 11)沖縄に適したプランターの開発~スマートカダンの性能試験~
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

11)沖縄に適したプランターの開発~スマートカダンの性能試験~

鈴木愛子*1

1.はじめに

沖縄のプランター栽培において、従来問題になっている台風や高温による乾燥などから、植栽を健全に維持管理するために開発されたのが、ローメンテナンス底面給水コンテナ(以下スマートカダン)である。スマートカダンの特徴は、大型プランターであること、プランター側面に水を溜めることが可能なため大容量の水を貯水できることなどである。また、1ポット毎に1苗を植え付けるため、傷んだ株を入れ替えることができ、観賞期間中のメンテナンスが容易である。
そこで本試験では、スマートカダンの普及を図ることを目的に、花材の生育調査を行い、課題点を抽出するとともに、スマートカダンの栽培に好適な植物の選定を検討する。

2.材料および方法

1)給水頻度の測定

一般的な花壇苗である、ビオラ、ベゴニア・センパフローレンス (以下ベゴニア)を用いて、スマートカダン各3基を使った栽培試験を行った。栽培期間は2017年12月25日~2018年4月5日までの約3ヶ月間とし、期間中の給水回数及び水位変動を計測し、冬季期間中に必要なスマートカダンの給水頻度を測定した。

2)生育調査

(1)花被率の計測

ビオラ、ベゴニアのポット苗 (以下苗)を用いてスマートカダンで栽培試験を行い、花の繁り具合を測定した。測定は地上110cmの高さから、花壇を2週毎に撮影し、Photoshopを用いてプランターの面積及び株の広がり、花の広がりについて其々の面積を測定した。プランターの面積に対する株の広がりを繁茂率とし、株の広がりに対する花の広がりを花被率としてその変化を観察した。

(2)根の観察

試験期間の終わった苗の根の状態を観察し、良、普通、不良の3段階に分けた。また、根の張りがビオラとベゴニアで違うため、ビオラについてはポットから抜き取り根鉢を振っても土が崩れないものを良とし、5割以上落ちるものを不良、それ以外を普通とした。ベゴニアはビオラに比べて細根が少なく、根鉢が崩れやすいことから、ポットから根が出ているものを良とし、ポットから抜き取り根鉢を振った際に6割以上落ちるものを不良、それ以外を普通とした。試験期間中の土壌水分については、土壌水分センサーを用いて計測した。

3)スマートカダンの栽培に好適な植物の選定

スマートカダン1基を用いて数種類の花壇苗を栽培試験し、成長を観察した。使用した花壇苗はロベリア、キンギョソウ、ダイアンサス、アキランサス、マリーゴールド、サルビア、メランポジウム、シラー・ペルビアナの8種類を各3ポットずつ用いた。

3.結果及び考察

1)給水頻度の測定

ビオラを使用したスマートカダン3基の給水までの平均日数は84日間、ベゴニアでは90日間となった (図-1)。気象庁本部観測所のデータを参考にした期間中の降雨は、降水量1mm以上を記録した日数は20日間で、そのうち1時間以上降雨が続いた日数は15日間となった。冬季は比較的降雨日数が多いことも影響していると思われるが、ビオラ、ベゴニア共に全てのスマートカダンで1月から3月上旬まで水位の変動は緩やかになっており、気温の低い冬季期間におけるスマートカダンの給水頻度は3ヶ月に1回程度であった。

2)生育調査

繁茂率は、スマートカダンではビオラ、ベゴニア共に緩やかながらも増加していた (図-2)。花被率は、ビオラでは栽培開始から徐々に増加し、3月上旬に減少するものの試験終了時まで十分に観賞するに堪える状態であった(写真-1)。期間中生育不良を起こした株はスマートカダン3基、計72株のうち4株であった。

ベゴニアは栽培開始から徐々に減少し、3月の気温上昇と共に花被率も増加している。ベゴニアの花被率は栽培開始時に上昇したがその後2月9日前後に急激に減少した (図-3)。急激に減少した理由として2月9日前後は前週までの平均気温が約3℃低下していることから (図-4)、低温による花の傷みが考えられる。また、その後気温上昇とともに花被率も上昇していることから(写真-2)、厳冬期でのベゴニア使用は不向きといえる。期間中生育不良を起こした株は72株のうち1株であった。

次に、試験終了後にポットから株を抜き取り根の状態を観察した。ビオラ苗は根の状態が良及び普通の株は72株中39株で全体の54%となった(写真-3)。不良とした株のほとんどは、根が鉢底まで伸びていないか、伸びていても本数が少なく張りが無い状態であった。ベゴニアでは良及び普通の株は44株となり、全体の61%であった (表-1)(写真-4)。土壌水分は期間中ほぼ変化がなく、ビオラで平均29.2%、ベゴニアで34.4%であった。一方で土壌温度は気温に比例して変化するが、低温時は気温に比べて低い傾向にあった (図-5)。底面給水式による栽培では常に水の供給があるため、土壌水分は保たれるが、一方で常に水が停滞しているため気温に対して敏感となり、根茎に影響を与えるのではないかと考えられる。

3)スマートカダンの栽培に好適な植物の選定

生育が良好であったものから順に、ロベリア、ダイアンサス、アキランサス、キンギョソウ、シラー・ペルビア、サルビア、マリーゴールド、メランポジウムとなった(写真-5)。ロベリア、ダイアンサス、アキランサス、キンギョソウは、試験後の根の状態も良く、株張り、花付きも良好であった(写真-6,7)。春に開花する球根植物のシラー・ペルビアナについて、試験期間中の開花は見られなかったが、生育不良は起こしていなかった。一方、サルビア、メランポジウムは試験開始1ヶ月後で、各1株が根元付近から枯死するなど全体的に生育不良を起こした。試験後の根の状態では、マリーゴールド、メランポジウムで、ポットから抜き取ったところ根鉢が崩れ落ち、根の成長が著しく悪かった。これら2種は元々春から夏にかけて生育旺盛となる花であることから冬季の気温低下により株が衰弱したと考えられる。サルビアでは気温の低下により1株が枯死、残り2株も冬季は成長が止まり花付きも十分とはいえなかった。以上のことから、冬季スマートカダンに使用する植物として低温に強いロベリア、ダイアンサス、アキランサス、キンギョソウが望ましいといえる。


  • 図-1 降雨日及びスマートカダンの水位変動


  • 図-2 試験苗の繁茂率


  • 図-3 試験苗の花被率


  • 図-4 2週間毎の最高気温・最低気温の平均
    (気象庁本部観測所)


  • 写真-1 ビオラ苗の約3ヶ月間の生育過程の様子


  • 写真-2 ベゴニア苗の約3ヶ月間の生育過程の様子


  • 表-1 根の状態


  • 写真-3 ビオラの根鉢の状態
    (左から不良、普通、良)


  • 写真-4 ベゴニアの根鉢の状態
    (写真左:良、写真右:普通)


  • 図-5 10日間の気温と土壌温度の推移


  • 写真-5 各種花壇苗の約3ヶ月間の生育過程の様子


  • 写真-6 根・株の状態(左からロベリア、ダイアンサス、アキランサス、キンギョソウ)


  • 写真-7 根・株の状態(左からサルビア、マリーゴールド、メランポジウム、シラー・ペルビアナ)

4.今後の課題

冬季スマートカダンでは、低温に強い苗であれば概ね観賞に堪える状態であったが、根の状態は良好とは言えなかった。底面給水コンテナの弱点である停滞水の影響が最も大きく出ていると考えられるため、夏季の状態を見ると共に、鉢内資材の改善を図る必要がある。また、スマートカダン本体では、水位計に藻が付着しやすく、水位が読み取りにくいという問題点があり、浮きをつけるなどの改善が必要である。さらに、種類により不向きな植物があるため、今後も試験植物を変えて検討が必要である。

参考文献
1)底面給水コンテナの課題と対策,2016
2)底面給水コンテナ調査(内容器からのアプローチ),2017


*1植物研究室

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