亜熱帯性植物の調査研究
阿部篤志*1・端山武*1・宮里政智*2
名護岳一帯に広がる名護城公園には、数多くのヒカンザクラが園内各所に植栽されおり1~2月頃の開花時期には多くの花見客でにぎわっている。しかし、公園内のヒカンザクラについて「さくらの健康度調査」等の調査記録はあるものの、公園内の開花状況等に関する調査は少なく、公園内に散在する花見ポイントの開花状況等の情報発信はうまくなされていないのが現状である。
沖縄県のヒカンザクラは、実生で増殖された株がほとんどで、株ごとに個体差があり開花時期等を予測することが困難とされている。しかし、これまでの調査で、早咲きの個体と遅咲きの個体があることが分かってきた。また、ヒカンザクラの休眠期の解除並びに開花の促進において、温度は大きな制限因子であるとの報告がなされている。その様なことから、今回は、早咲き個体を基準とした花見ポイントの見頃時期の予測方法の検討を行うとともに、各種イベント時に開花したヒカンザクラが活用できるよう低温処理による開花調整実証試験を行ったので、併せて報告する。なお、本調査は名護市商工観光局からの業務委託として実施した。
名護城公園におけるヒカンザクラの生育及び開花状況等を把握するために、2017年12月27日から2018年2月28日にかけて11地点における定点観察、早咲き・遅咲きタイプの観察、早咲き個体の開花日を指標とした花見ポイントの見頃時期予測方法の検討を行った。
定点観察は、樹勢が良いこと、複数本のまとまりがあること、観覧の動線及びポイントとして利用しやすい立地が条件であること等から、昨年と同じ11地点を選定した。調査期間は開花し始める2017年12月下旬から花が無くなる2018年3月まで行った。調査方法は、定点の写真記録と目視による記録を週1回とした。目視による記録は、調査地点の樹冠または林冠全体に占める花の量の割合が10%未満を0点、10%以上〜30%未満を1点、30%以上〜60%未満を2点、60%以上〜90%未満を3点、90%以上〜100%を5点の5段階で評価した。また、11地点の開花点数の合計が最高となる月日を、その年の開花最盛期とした。その開花最盛期の合計点数を基準に、各月日の合計点数を百分率で算出し、その相対値を用いて同公園における開花状況を「・分咲き」と表した。
今回の調査では、開花点数の合計が1月31日に31点と最高となった。開花状況は、1月24日に8分咲き、2月7日には7分咲きであった。そのため、名護城公園のヒカンザクラの見頃は1月24日から2月7日とした。各地点の開花点数が3点となる日は、1月24日 (地点7~11の5地点)と、1月31日 (地点1~6の6地点)であった。各地点の花の見頃が、地点6と7を境に山頂では早く、山麓では遅い傾向が今年度も見られた。また今年度は、各地点で5点を記録する日が例年よりも多かった。過去4年間と比較すると (表-1)、今年度の見頃と開花最盛期は、2014年度のそれに近く、早い傾向にあった。更に、今年度の開花最盛期の点数が、過去4年間で最も高い点数を記録した。遅咲き個体の開花時期が例年よりも早くなった一方で、早咲き個体の開花時期は例年通りとなったことで開花時期が重なり、咲き揃いが良くなったのではないかと考えられる。
観察対象木の選定は、樹勢・樹形の良さと生育場所が観察しやすいポイントであることを基準とし、開花が早い個体を「早咲き個体」、遅い個体を「遅咲き個体」とした。2014年度からの調査結果から、早咲き・遅咲き個体が翌年も早咲き・遅咲きの傾向であることが分かった。そのため、今年の観察対象木は昨年と同様、早咲きを計6個体、遅咲きを計8個体とした。個体調査方法は、写真撮影と目視による記録を行い、早咲き個体は「開花日」と「満開日」及び個体数、遅咲き個体は「満開日」と「花の終わりの日」を調べた。「開花日」は5〜6輪以上の花が開いた状態となった日、「満開日」は80%以上の花が開いた日、「花の終わりの日」は80%以上の花が萎れた状態の日とした。
今年の早咲き個体の開花日とその数は、2017年12月31日と2018年1月3日であり、ともに3個体であった。また、満開日とその数は2018年1月17日に5個体、1月24日に1個体であった。2014年~ 2016年度では、開花日は12月末から1月1週目、満開日は1月20日前後であった。そのため、開花日と満開日は、過去4年間同じ時期であった。今年度の開花最盛期は例年よりも早い傾向にあったが、早咲き個体は例年通りであった。一方、遅咲き個体の満開日と花の終わりの日は、それぞれ2月4日~16日、2月21日~28日となった。過去3年間と比較すると、今年度は2014年度と同様に2015年度と2016年度よりも約1週間以上早い結果であった。以上のことから、例年と比較して、早咲き個体は例年通りであったのに対して、遅咲き個体の開花時期は早くなる結果となった。
名護城公園における各花見ポイントの見頃を予測するために、4年間の観察記録から他の早咲き個体と開花時期が近い個体1個体を指標とした。その個体の開花日から各花見ポイントの開花状況のピークまでの日数(以下経過日数)と積算温度を比較し見頃を予測した。積算温度は、地点3・9・10を指標とし、地点9と10で計測した平均気温、地点3は、計測していないため気象庁の名護市の平均気温を使用した。
地点10では4年間のうち3年間は経過日数が同じ21日となり、積算温度も近い値を示した。しかし、残りの2地点の経過日数と積算温度は、2014年と2017年度、2015年と2016年度で近い値を示し、傾向が2パターン見られた(表-2)。
名護城公園のヒカンザクラは、実生苗であるため休眠打破に必要な低温が各個体で異なる可能性がある。早咲き個体が開花しても、他の個体は休眠打破されておらず低温が必要な場合があると考えられる。早咲き個体の開花日を基準とした積算温度だけでは、花の見頃の予測は難しく、休眠打破の時期の確認及びその後の気温変化、積算温度等についても考慮する必要があると考えられる。
過去4年間の12月から1月までの1日あたりの平均気温を調べると、12月上旬から1月上旬までは、2014年・2017年度は約17℃、2015年・2016年度は約19℃で推移し、約2℃の差があった。このことから、2015年・2016年度は平均気温が高かったために、遅咲き個体は休眠打破に十分な低温を経験しなかったと考えられる。一方で、地点10の経過日数は積算温度と近い傾向がみられたため、早咲き個体と近い開花特性の個体が多くあると推測される。しかし、今回の調査では、各地点で開花特性を詳細に調べていないため、今後、確認する必要がある。
4年間の調査結果から各地点の花の見頃は、地点10は早咲き個体の開花日から21日後、積算温度は約330日であった。地点3と9は1月上旬までの平均気温が約17℃であれば、早咲き個体の開花日から21~28日、積算温度は約400日、平均気温が約19℃であれば開花日から35~42日、積算温度は約650日であった。
ヒカンザクラ(鉢物)の開花日を1月上旬及び下旬にするため、低温処理による開花調整を行った。圃場で管理しているヒカンザクラを4班に分け (表-3)、平成29年11月23日から順次、冷蔵施設へ搬入した。その後冷蔵施設から搬出し圃場で管理した。低温期間は8日とし、期間中温度は3℃~10℃とした。また、対照区(Cont.)として無処理の株も同様に圃場で管理した。なお、ヒカンザクラの開花日は、5~6輪以上の花が開いた状態となった日とした。また、80%以上の花が開いた日を満開日とし、80%以上の花が萎れた状態で花の終わりの日とした。
(1)当圃場で育成管理している栽培期間6~7年のヒカンザクラ55株(開花株)を用いた。
(2)冷蔵施設内での灌水は、期間中1~2回とし鉢底から漏れない程度で、やや乾燥気味にした。
(3)圃場でも、灌水を行なった。
第1班15株は、開花を12月30日~1月5日(6日以内)に全て確認した。続いて第2班10株は1月10日~1月17日(7日以内)に、第3班15株は1月15日~1月20日(5日以内)に開花を全て確認した。また、無処理の第4班15株では、1月17日~2月5日(19日以内)に開花を全て確認した。また、8日間の低温処理後から、開花ピークに要した日数は第1班で約39日、第2班で39日、第3班は34日で、比較的近い日数となった。
各班の開花期間(図-1)は、第1班で13日、第2班で11日、第3班で13日、無処理の第4班で19日となった。低温処理した第1班、2班、3班では比較的一斉に咲き始めたが、無処理の第4班では、徐々に咲き始めた。そのため、開花期間も長くなったと推察される。次に、ヒカンザクラの低温処理後から開花までの平均積算温度を算出した。第1班で開花までに要した積算温度は、542.7~630.4、第2班で512.8~620.8、第3班で415.0~509.6であった。
今回の実証試験では、低温処理株は、処理後5日~7日以内ですべて開花が始まっていた一方で、無処理株は、1月17日~2月5日の19日以内で全て開花が始まった。比較的まとまって開花し始めた低温処理株に対し、無処理株は、まばらに開花が始まったことが推察される。
ヒカンザクラは実生から育っていること等から、個体差があり各班においてもその影響が見られたが、低温処理はヒカンザクラの開花促進には非常に有効な手段だと考えられる。
今後、花芽の休眠打破に必要な最低温度と積算温度との関係、また処理後から開花迄の積算温度との関係等を精査する必要がある。
表-1 2014年から2017年度の名護城公園の花見頃、開花最盛期
表-2 早咲き個体の開花日からの各地点の見頃ピークまでの経過日数と積算温度
表-3 処理株数及び処理日時
図-1 低温処理によるヒカンザクラ開花調整試験結果
写真-1 低温処理状況
写真-2 圃場での管理状況
参考文献
1) 上里健次 (1993)沖縄のカンヒザクラに関する調査研究琉球大学農学部学術報告第40号
2) 上里健次、比嘉美和子 (1995)ヒカンザクラの開花期とその地域差に関する研究 琉球大学農学部学術報告第42号
3) 宇根和昌 (1995)リュウキュウカンヒザクラの開花特性に関する調査 熱帯植物調査研究年報16号
4) 小杉清 (1976)花木の開花生理と栽培 博友社
5) 上里健次、安谷屋信一、米盛重保 (2002)ヒカンザクラの開花の早晩性における地域間差、個体間差 琉球大学農学部学術報告第49号
6) 川上皓史、山尾僚、盛岡耕一、池田博、池田善夫 (2009)温度変換日数法を用いたソメイヨシノの開花調節 Naturalistae13
7) 張琳、米盛重保、上里健次 (2005)ヒカンザクラの開花時期,期間、花色濃度における固体間差と花芽形成に関する調査 球大学農学部学術報告第52号
8) 村上 覚、末松信彦、中村新一、杉浦俊彦 (2008)カワズザクラにおける開花予測方法の検討 植物環境工学(J.SHITA)20(3):184-192
*1植物研究室
Copyright (c) 2015 Okinawa Churashima Foundation. All right reserved.