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  1. 7)園芸品種作出に関する調査・研究
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

7)園芸品種作出に関する調査・研究

佐藤裕之*1・Ratchada Sangthong*1・端山武*1・松原和美*1・具志堅雪美*1・大城健*1

1. はじめに

沖縄県では温暖な気候を利用した熱帯性作物の生産や出荷期の調整を行う事で本土と差別化を計っている。しかし、沖縄県の環境に適する作物は限られており、県内生産に適する品目の拡充が期待されている。
本調査・研究では、新しい育種技術や未利用種の可能性を調査することで、沖縄県の環境に向く新品種の開発を行う。なお、実施に当っては沖縄県の在来植物、絶滅危惧植物の保全活動と関連付ける事で、産業と自然保護の両立を意識するものとした。

2.リュウキュウベンケイに関する調査

リュウキュウベンケイは沖縄県に自生するカランコエ属の植物である。カランコエ属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、いくつかの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイは観賞価値が高いにもかかわらず、育種素材として使われてこなかった。リュウキュウベンケイは既存の品種にない背丈の高い形質を有する事から、切花用品種の育種素材として有用であると考えられた。
そこで、千葉大学と共同でリュウキュウベンケイの育種に取り組んだ結果、沖縄の環境に適する切花用品種を育成するに至った。これらは「ちゅらら」シリーズと名づけられ、平成29年度までに7品種を品種登録するに至った。
「ちゅらら」シリーズは新規花卉品目として地域産業への貢献が期待できることから、平成27年度より沖縄県農林水産部と共同で普及に向けた調査を開始した。普及に当たっては行政、出荷団体、研究機関等で検討会を組織し、栽培、収穫、輸送、販売等の技術体系を構築すべく戦略会議と調査を実施した。その結果、収穫物の品質が向上し、平成28年度には県外出荷をするに至った。平成29年度は育種技術の向上に向けた研究のほか、収益活動、普及に向けた体制構築、広報活動に取り組んだ。

2.リュウキュウベンケイに関する調査
写真-1 2次選抜中のちゅららシリーズ

2.リュウキュウベンケイに関する調査
写真-2 花弁培養の様子

2.リュウキュウベンケイに関する調査
写真-3 変異原処理株の様子

2.リュウキュウベンケイに関する調査
写真-4 プロトプラスト培養の様子

1)育種技術に関する調査・研究

(1)交配育種

平成29年度は過年度までの交配記録を基に、形質的に優れた実生を生む組み合わせを明らかにし、これを重点的に交配した。また、新たな交配親を導入し交配を試みた。その結果、約500交配分の果実を得る事ができた。また、平成27年度に交配した実生より2次選抜を行い、品種登録候補を約10個体選抜した。さらに、平成28年度に交配した実生より1次選抜を行い、優良個体20個体を選抜した。平成30年度は品種登録候補の形質を吟味した上で品種登録を行うと共に、平成29年度までの交配記録を解析し再度交配育種を行う。

(2)突然変異育種

ア)花弁培養
「ちゅらら」シリーズを営利生産する中で、枝変りで花弁の一部分の色が変化した株が度々発見された。この組織から植物体を再生する事ができれば、花色の多様化につながる。そこで、平成28年度は花弁培養に最適な培地条件を研究し、これを明らかにした。平成29年度は花弁の色に変化が生じた組織から植物体を再生し、順化できるサイズまで育成した。平成30年度はこれを開花させ、形質の確認を行う。
イ)変異原処理
枝変わりは花色の変化のほか、様々な形質に変化をもたらす育種上有益な現象であるが、通常の栽培環境下では発生率が低い。そこで、突然変異による育種を加速化すべく、化学物質や紫外線を利用し人為的に変異を誘発する技術の構築を試みた。平成28年度に行った研究の結果、通常とは異なる形態の植物体を得ることに成功した。平成29年度は変異原処理条件を精査すると共に、再生した植物体を育成し、順化できるサイズまで育成を行った。平成30年度はこれを開花させ、形質の確認を行う。
ウ)プロトプラスト培養
上記変異原処理はシュートを対象に行ってきたが、この場合キメラ(変異が起きた細胞と起きていない細胞が混在している状態)を生む可能性が高い。これに対して、プロトプラスト(細胞壁を取り除いた裸の細胞)から植物を再生することが出来れば、キメラの発生を防ぐ事ができる。そこで、「ちゅらら」シリーズの様々な組織からプロトプラストを単離し、植物体を再生させる技術の構築を試みた。平成29年度はプロトプラスト単離条件と培養条件を研究する事により、葉と花弁からプロトプラストの単離に成功した。また、不定胚を形成すると思われるカルスが形成されるまでに至ったため、平成30年度は植物体を再生させる条件を検討する。

2)収益活動・評価

平成28年度の本部町農家における生産・販売実績を基に、経営費、所得等を明らかにした『ちゅらら技術体系・収益性事例』を策定した。このデータをキク類(小ギク、輪ギク、スプレーギク)の事例と比較した結果、「ちゅらら」シリーズの事例の方が高い所得値を示した。本結果は「ちゅらら」シリーズの産業化の可能性を示すものであるが、キク以外の一般花卉は類似品目の市場流通量等により価格が大きく変動するため、複数年にわたる調査の積み重ねが不可欠である。

3)ちゅらら普及に向けた体制構築

平成28年度に実施した栽培実証試験の結果を基に『ちゅらら技術体系・実証マニュアル』を作成した。本マニュアルを関係団体に配布する事で栽培技術の向上に努めた。
また、ちゅららシリーズ開発者である当財団と千葉大学、生産流通に係る出荷団体等の間で品種の適正な利用方法について定めた『品種利用契約』を締結した。

4)広報活動

広報活動として、海洋博公園「美ら海花まつり」にて約1万本の花を展示したほか、広島市植物公園「カランコエと冬の鉢花展」への出展協力、「日本フラワー&ガーデンショー」での展示ブース設置、テレビ番組への花材提供等を行った。
また、今後のPR展開のため、宣材写真を約30点獲得した。

3.そのほかの植物に関する調査

ちゅららシリーズに次ぐ品目を開発するため、リュウキュウベンケイ以外の沖縄県の在来植物を用いた育種を行った。

3.そのほかの植物に関する調査
写真-5 コウトウシュウカイドウを用いた新しい雑種

3.そのほかの植物に関する調査
写真-6 リュウキュウコンテリギから得られた実生<

1)コウトウシュウカイドウ関する調査

コウトウシュウカイドウの耐暑性や丈夫さを活かし、沖縄でも栽培可能な観葉ベゴニアの育成を試みた。平成28年度までの研究で、コウトウシュウカイドウの近縁種3種との交配で葉色の多様化や小型品種の作出に成功した。また、更なる育種を進めるため、10品種の親系統を導入、選抜した。平成29年度はこれらと交配を行い、このうちタイから導入した1種から雑種が得られた。

2)リュウキュウコンテリギに関する調査

リュウキュウコンテリギは沖縄本島の北部地域に生えるアジサイの仲間で、非常に小さい株でも花を咲かせる特徴から小型のアジサイの育種親として有用であると考えられる。そこで、アジサイ園芸品種との交配で雑種の作出を試みたところ、複数の実生苗が得られた。平成30年度はこれらの雑種性を確認した上で、更なる交配と実生苗の育成を行う。


*1植物研究室・*2株式会社ツドイカンパニー・*3琉球大学

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