亜熱帯性植物の調査研究
赤井賢成*1
平成29年度は、主に当財団以外の植物標本庫に収蔵されている西表島産の既往標本の調査と一部の分類群について再同定を行った。本報では、これらの結果について報告する。
西表島植物誌編纂事業の開始に先立ち、予め学識者にヒアリングを行ったところ、西表島で採集された標本は、国内では主に国立科学博物館(TNS)、東京大学総合研究博物館(TI)、京都大学総合博物館(KYO)、鹿児島大学総合研究博物館(KAG)、琉球大学理学部(RYU)及び琉球大学教育学部(URO)に収蔵されていることが判明した。各植物標本庫における標本データベースは構築中であり、各植物標本庫に収蔵されている西表島産の標本点数を正確に知ることはできなかったが、ヒアリングの結果から少なく見積もっても総計で数万点に及ぶことが推察された。
今後、既往標本の調査において、各植物標本庫に収蔵されている西表島産の標本を閲覧または借用する必要がある。西表島産の標本は他の産地で採集された標本と同じジーナスファイルに保管されているため、閲覧はもとより借用のための既往標本の抜き出しにも多くの労力、時間と経費を要する。
平成29年度は、京都大学総合博物館(KYO)、鹿児島大学総合研究博物館(KAG)及び(一財)沖縄美ら島財団(OCF)に収蔵されているカヤツリグサ科及びサルトリイバラ科の西表島産の標本の再同定を行った(実務は研究顧問の小山鐡夫氏による)。再同定の結果は現在取りまとめ中であるが、これらの中には新種と考えられる種類や日本初記録と考えられる種類も含まれている。カヤツリグサ科及びサルトリイバラ科については、平成30年度も引き続き、東京大学総合研究博物館(TI)、琉球大学理学部(RYU)及び琉球大学教育学部(URO)の標本を借用し、同定を進める。また、カヤツリグサ科及びサルトリイバラ科以外の植物についても、順次、標本の閲覧、借用による同定を行っていく。
学識者へのヒアリングの中で、京都大学総合博物館(KYO)に、当時、安田恵子氏(当時、総合地球環境学研究所西表プロジェクト研究室に在籍)が西表島で採集したまとまったコレクションが収蔵されていることが判明した。しかし、これらの標本は新聞紙に挟まれたままの状態であり、標本のデータベース化(ラベルデータの入力及び標本画像の取得)と標本の台紙への貼り付けを行う必要があった。そこで、京都大学総合博物館において、2名のアルバイト職員を雇用してこれらの作業を行った。その結果、平成30年3月末月の時点で、1,000点以上の標本のデータベース化と台紙への貼り付けを完了した。
平成30年夏には、(一財)沖縄美ら島財団総合研究センターの西表支所(仮名)が完成し、供用が開始される。拠点施設が整備されることにより、現地調査や標本収集の頻度が増え、これまでよりも作業効率が上がることが期待される。
平成30年度には、早々に編集委員会を立ち上げ、工程表の作成、科別の専門家の決定と再同定の依頼、調査不足の分類群や未調査の地域の補足調査を開始して、5年後の植物誌編纂に向けた具体的な取り組みを加速させていく。
*1植物研究室
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