海洋生物の調査研究
岡慎一郎*1・宮本圭*1
琉球列島は魚種多様性が極めて高く、新種や日本初記録などの報告も相次いでおり、分類学的に未整理なものも多い。一方で、陸水域などの特殊な生息環境においても独特の生物相が形成されており、希少種なども多く含まれる。当事業では、琉球列島の魚類等の保全や自然史研究の発展に寄与するため、以下の取り組みを実施した。
なお、これら一連の調査研究により、平成29年度は16報の学術論文が受理された。
当財団では琉球列島の海洋生物標本の収集・管理を通し、学術研究や普及・教育活動に役立てている。
平成29年度には約320点の標本を新規登録し、その中には新称「カワウミヘビ(写真-1)」などの日本初記録の魚類も含まれた。所蔵標本の学術利用として、外部研究機関からの標本の貸出依頼14件、来訪による標本調査11件に対応した。また、これまでに貸出等で利用された標本が利用された研究論文が13報発表された。
また、沖縄県立博物館・美術館における「海のビックリ生物展」の主催者として、ミツクリザメ液浸標本やザトウクジラ骨格などを出展し、来場者約29,000人の盛況を得た(写真-2)。
海洋博公園内に生息する希少種であり、陸棲最大の甲殻類でもあるヤシガニの生態モニタリング調査を、平成18年度から継続している。平成29年度は、甲羅の模様による個体識別の効率化を目的とし、人工知能による画像認識システムを導入した(写真-3)。また、追跡履歴が10年を超える個体も発見され、長寿命の本種の生態解明に寄与する情報を得た。
これらのほか、沖縄島北部の希少淡水魚に関する調査も昨年度に引き続き実施しており、在来フナやミナミメダカなどの飼育下保護および繁殖にも挑戦している。
任意に採水した環境水中に存在するDNAの塩基配列情報から、同環境に生息する魚類を特定する革新的技術を開発するため、千葉県立博物館等と共同研究を行っている。
平成29年度には、全国500カ所以上において一斉に採水・分析する研究事業に沖縄担当として参加した。今後の分析により、全国の沿岸性魚類相を客観的に評価する画期的成果が期待される。また、久米島の海洋深層水研究所の汲み上げ水の環境DNA調査も実施している。その中で、昨年度まで問題となっていた他のDNAの混入防止の課題をほぼ解決することができ、新しい手法での分析を開始した。現在のところ少なくとも80種以上の深海性魚種が検出されている。汲み上げた水を解析するのみという手軽さで、膨大な予算と時間を必要とする深海魚の調査ができた点が特筆できる(写真-4)。
沖縄の陸水環境では、ティラピアなどの多数の外来種が在来種の生存を圧迫している。海洋博公園内の人工池においても、多くのティラピアが生息しており、在来生態系とは程遠い状況にある。これらを駆逐し、在来魚を放流、増殖させることができれば、現在危機的状況にある在来魚の避難場所が創出できる。さらに、この取り組みは、園内における在来生態系の創出といった価値を公園に付することができる。
当財団では、これまでの研究で、遺伝子操作をすることなくティラピアの不妊オスを生産する技術を確立している。これら不妊オスを野外に放流し、正常な雌と交配させることにより、生息数を減らし、最終的に根絶できる可能性がある。そこで、海洋博公園の人工池(約1000m2)を対象として、不妊オスの放流によるティラピア駆除の有効性を検証するための実験を開始した。平成29年度には、採集調査による生息数減と資源の現況把握と、不妊オスの放流(写真-5)を行うとともに、効果の検証も試みた。
採集では約15,000尾を駆除し、当初の群集構造を大きく改変させた。不妊オスの放流区では繁殖縄張りの大半が不妊オスとなっており、繁殖の阻害が起こっている可能性が示唆された一方、放流後に算出された稚魚の数に明白な減少は認められず、現在のところ効果の検証は十分にできていない。平成30年にはその効果の検証と生息数減にむけた各種条件の模索に注力する。
*1動物研究室
Copyright (c) 2015 Okinawa Churashima Foundation. All right reserved.