亜熱帯性植物の調査研究
佐藤裕之*1・松原和美*1・大城健*1
沖縄県産のトロピカルフルーツは贈答用や観光土産用の需要が高まっており、生産量の増加が求められている。そのため、近年、沖縄県農業研究センターにおいて品質や食味の優れた熱帯果樹の優良品種が育成されており、沖縄県は速やかな普及をめざしている。
しかし、熱帯果樹は種苗の増殖に時間がかかり、増殖効率も低いことから、優良品種の普及が進みにくいのが現状である。また、永年作物の品目が多く、1度植えてしまうと十数年更新しないため、植え付ける際には優良種苗(健全苗)であることが重要である。
そこで、低コストで優良種苗の大量増殖技術の開発を行うことで、優良品種の普及を加速させ、産地力の強化とおきなわブランドの確立を図る。(本調査は沖縄県より受託した平成28年度熱帯果樹優良種苗普及システム構築事業の一環として実施した。)
沖縄県農業研究センターが開発したパインアップルの新品種‘沖農P17’について、メリクロン増殖技術の構築とウイルスフリー化に向けたバックグラウンド調査、先進地調査(台湾)を行った。
メリクロン増殖技術の構築は当財団の自主事業で実施したパインアップル‘ゴールドバレル’等の増殖業務で得た知見や技術を活かし、‘沖農P17’にも応用できるか試験を行った。その結果、‘沖農P17’の増殖に成功した。
ウイルスフリー化に向けたバックグラウンド調査では、県内7地点の圃場で栽培されているパインアップル5品種(‘沖農P17’含む)のウイルス罹病状況を調査した。その結果、ほぼすべての株がパインアップルコナカイガラムシ萎凋病関連ウイルス(以下、PMWaV)に感染している事が明らかとなった。
先進地調査では台湾の農業試験場等を視察し、パインアップルのメリクロン増殖やウイルスフリー化に関する情報収集と意見交換等を行った。
平成27年度に実施したバックグラウンド調査の結果検出されたPMWaVは植物体の成長阻害や果実の品質低下を引き起こす萎凋病の原因とされている。植物に感染したウイルスは薬剤では取り除くことができないことから、ウイルスに侵されていない組織(成長点)から植物体を再生させる技術の構築が不可欠である。平成28年度は、ウイルスフリー化に用いる植物材料や培地条件の検討を行い、植物体の再生率が高い手法を明らかにした。成長が早いものについてはウイルス検定も実施し、ウイルスフリー苗を1系統獲得した。平成29年度は再生した植物体すべてについてウイルス検定を行い、最適なウイルスフリー化条件を明らかにすると共に、さらなる技術の向上に努める予定である。
当財団では順化直前の培養苗を、1フラスコ当たりの植付密度を下げ、かつ、土に近い素材の培地に植え付けた状態で出荷していた。しかし、平成27年度に実施した先進地調査の結果、台湾のある機関では1フラスコ当たり植付密度を上げ、かつ、水分を多く含む寒天を支持体とした培地に植え付けた状態で出荷していることが分かった。台湾の手法は労力をかけずに省スペースでの苗生産が可能であるが、高密度かつ根域の水分量が多い培養条件であっため、順化苗が貧弱になる可能性があった。順化はフラスコ内の環境から屋外環境に慣らす作業であり、苗に対するストレスが大きいことから枯死率を下げるためには順化直前の培養苗の状態を良くする必要がある。そこで、平成28年度は順化直前の培養苗の植栽密度と支持体を検討することで、低コストかつ枯死率の低い順化技術を構築した。
図-2 順化技術の構築に向けた試験の様子
図-2 順化技術の構築に向けた試験の様子
メリクロン増殖技術によりパインアップル ‘沖農P17’の迅速な苗生産が可能であるが、計画的な種苗普及に当ってはその増殖率と生産コストの算出が不可欠である。そこで、メリクロン増殖技術と比較対象としての既存増殖技術(輪切り増殖)、それぞれの手法の増殖率と、人件費、資材費、高熱水費の試算を行った。その結果、メリクロン増殖技術は既存増殖技術と比較して増殖率が圧倒的に高かったが、1苗当たりに要するコストは同程度であった(設備費は考慮せず)。
世界的なパインアップルの生産地であり、日本国内のパインアップル青果輸入量の大半を占めるフィリピンについて、種苗生産から収穫までの実態を調査した。調査に当っては、ネグロス島とルソン島の代表的なパインアップル生産地を視察し、地域住民や有識者からのヒヤリングを行った。また、関係者を通してミンダナオ島で大規模なパインアップル生産を行う企業の実態について調査を行った。
山形県ではイチゴやキク、果樹等のウイルスフリー苗生産の実態について調査し、その技術や培養手法について情報収集を行った。
*1植物研究室 *2営業推進部
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