亜熱帯性植物の調査研究
赤井賢成*1
前報(赤井2016)に続き、2016年3月から2017年3月の1年間、与那国島、石垣島、伊平屋島、伊是名島、沖縄本島の水田とその周辺を踏査し、希少植物の生育状況を中心に情報収集を行った。本報では、各島で新産と考えられる維管束植物および特筆すべき維管束植物について報告する。前報と同様に、希少植物の自生地の地名については盗掘の危険性に考慮し、公表は控えた。また、本報で使用する学名、科名および和名は米倉(2012)に準拠した。調査方法は前報と同様である。
これまでに、各島で3~4回の概査を行い、420種類1,200点の標本を採集した。各島で新産と考えられる維管束植物および特筆すべき維管束植物としては、以下の7種類が確認された。
Najas sp.
島内の2か所の牧場内の池で各1集団を確認した(図-1)。現地で採取した生株を持ち帰り、開花結実に至るまで栽培を行ったところ、相当数結実したが、結局、雄花の存在を確認することはできなかった。種子表面に横長の模様があり、トリゲモあるいはオオトリゲモのいずれかと判断されるが、両者の区別には雄蕊の葯室の数を確認する必要があるため、イバラモ属sp.として報告する。
Dopatrium junceum (Roxb.) Buch.-Ham. ex Benth.
島内の1か所の牧場内の池で1集団を確認した(図-2)。個体数は約100個体であった。本種は沖縄県レッドデータブック(以下、沖縄県RDB)には掲載されていないが、現在、県内の自生地は数か所に過ぎず、次回の沖縄県RDB改定時には掲載されることが望ましい。
Blumea hieraciifolia (Spreng.) DC.
島内の5か所の牧場内、路傍等で5集団を確認した(図-3)。個体数は合計で約100個体であった。沖縄県全域で見ても本種の分布は局所的であり、減少傾向にあると考えられる。沖縄県RDBの次回改定時には、本種を掲載してもよいかもしれない。
図-1 イバラモ属sp.
図-2 アブノメ
図-3 タカサゴコウゾリナ
Ammannia multiflora Roxb.
島内の2か所の水田で2集団を確認した(図-4)。個体数は各集団で約50個体であった。本種は八重山諸島では初記録となる。
Najas sp.
島内の1か所の湧水が流れ込む池で1集団を確認した。個体数は約50個体であった。集団内に葉が短く固くて鋸歯が目立つタイプと、葉が長く柔らかく鋸歯が目立たないタイプが確認され、今後、両タイプの違いについて精査を行う必要がある。
Najas sp.
島内の1か所の排水升で1集団を確認した(図-5)。個体数は約200個体であった。
Bergia serrata Blanco
島内の1地区の水田内と畦畔で数千個体を確認した(図-6)。本種は長年現状不明であったが、26年ぶりに再発見されたことになる。生育状況から見て、直ちに絶滅するおそれはないと考えられるが、県内に現存する集団はここの1か所であり、今後の動向を注視する必要がある。なお、本種は沖縄本島北部の水田でも過去に採集されているが、精査したところ、現在は生育を確認することはできなかった。
金武町の1地区の水田内で約100個体を確認した(図-7)。沖縄本島では初記録の可能性がある。
図-4 ヒメミソハギ
図-5 イバラモ属sp.
図-6 シマバラソウ
図-7 ホシクサ
研究中のためここには掲載しなかったが、イバラモ属sp.以外にも、分類学的位置づけの再検討を要する種類を複数確認している。今後も調査頻度が少ない二次的自然の場所の植物相調査を継続行くと共に、これらの種類について、植物分類学的研究を展開していく。
2017年度は、北大東島、南大東島、久米島、小浜島、渡嘉敷島等において、調査を実施する予定である。
赤井賢成, 2016, 沖縄県の里地・里山に生育する希少植物の保全生物学的研究(与那国島・石垣島), 平成27年度総合研究センター事業年報, 6, 39-44.
沖縄県文化環境部自然保護課, 2006, 「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(菌類編・植物編)レッドデータおきなわ」http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/documents/06-shokubutu.pdf.
米倉浩司, 2012, 「日本維管束植物目録」, 邑田仁監修, 北隆館, pp.379.
*1植物研究室
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