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  1. 13)海洋文化シンポジウム
沖縄美ら島財団総合研究所

普及啓発の取り組み

13)海洋文化シンポジウム

泉 千尋*1

1.はじめに

(一財)沖縄美ら島財団では、平成24年10月に公益法人から一般財団法人に移行する際、定款の変更が行われ、海洋文化に関する調査研究・技術開発、知識の普及啓発事業を実施することが記載された。当財団では平成26年度より海洋文化に関する事業を推進、平成28年度は、普及啓発事業の一環として海洋文化シンポジウムを実施した。

2.海洋文化シンポジウムの実施

1)目的

海洋文化シンポジウムを実施することで、琉球列島・太平洋地域の島々に伝わる海洋文化に関する知識を社会に広く発信、また、海洋文化の担い手が相互に交流することで、沖縄・太平洋地域の海洋文化ネットワークを構築する。

2)内容

実施日:平成28年10月29日
実施場所:海洋博公園 海洋文化館
後援:国立民族学博物館、国立科学博物館、沖縄県立博物館・美術館
講演者・講演テーマ・内容は以下の通りである。(肩書は講演当時のもの)

  1. 須藤健一
    (国立民族学博物館館長・日本オセアニア学会元会長・1975年の海洋文化館資料収集団員)
    演題:「沖縄国際海洋博覧会1975・海洋文化館とオセアニアの文化復興」
    1975年の沖縄国際海洋博覧会の日本政府館であった海洋文化館の立ち上げ当初、展示資料収集団員としてミクロネシアで展示資料の収集活動を行った際のエピソードと同時期に起こったオセアニア地域での伝統文化復興についての講演を行った。
  2. 後藤明
    (南山大学教授・沖縄美ら島財団研究顧問・2013年の海洋文化館リニューアル総監修者)
    演題:「太平洋地域への人類拡散・海洋文化館所蔵カヌーの調査と建造プロジェクトの意義」
    海洋文化館所蔵資料の「タヒチの儀礼用ダブルカヌー」「クラカヌー」の建造関係者への現地ヒアリングでのエピソードと海洋文化館リニューアルについての講演を行った。
  3. 片桐千亜紀
    (沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員)
    演題:「沖縄旧石器人のチャレンジ-3万年前の航海徹底再現プロジェクト-」
    琉球列島の島々に住んでいた旧石器人は船で移動してきており、海洋適応している点についての講演を行った。
    この講演に引き続き、国立科学博物館の海部陽介氏(人類史研究グループ長)の協力を得て、旧石器人が台湾から海上ルートをたどって沖縄まで到達したことを証明するプロジェクトの映像を上映した。
  4. Ka’iulani Murphy
    (カイウラニ・マーフィー/ポリネシア航海協会)
    演題:「Hōkūleʻa: Mālama Honua ホクレア号:マラマ・ホヌア(地球を労わる)」
    ハワイのポリネシア航海協会の次世代の伝統航海士であるKa’iulani Murphy氏は、ハワイで長年途絶えていた伝統的航海術での航海の復活を目的として復元されたカヌー「ホクレア号」の歴史と復活した伝統的航海術の技術継承活動についての講演を行った。
  5. 内田正洋
    (日本レクレーショナルカヌー協会理事)
    演題:「なぜ、ホクレア号は沖縄、日本を目指したのか?-ハワイ王国と大日本帝国-」
    2007年に伝統的航海術で日本航海を行った「ホクレア号」について、日本への航海に至るまでの経緯と海洋教育の重要さについての講演が行われた。
  6. Alson J.Kelen (アルソン・J.・ケレン/Waan Aelõñ in Majelディレクター)
    演題:「Traditional Canoes of Marshall Islands マーシャル諸島の伝統カヌー」
    マーシャル諸島のカヌーの伝統文化の紹介と継承、教育プログラムの一環としてのカヌーの活用事例について講演を行った。
  7. 門田修
    (海工房代表取締役)
    演題:「チェチェメニ号とリエン・ポロワット号〜2隻のカヌーから見えてくるミクロネシアの航海術と船造り〜」
    1975年の沖縄国際海洋博覧会開催時に伝統的航海術で会場まで航海したチェチェメニ号の航海と2013年の海洋文化館リニューアルの際のリエン・ポロワット号建造プロジェクトの意義についての講演を行った。
  8. パネルディスカッション
    須藤健一・後藤明・
    高良倉吉(琉球大学名誉教授・沖縄美ら島財団研究顧問・2013年の海洋文化館リニューアル沖縄部門アドバイザー)
    演題:「太平洋地域・沖縄の海洋文化を守り、継承する海洋文化館」
    パネルディスカッションでは、須藤氏からは、本シンポジウムの意義深さ、オセアニア地域での伝統カヌーの復元・建造と伝統的航海術の復活・継承が、今後の人類と海との共生において重要であるという点、後藤氏からは、沖縄とオセアニアの基層文化の共通性を強調するためにも海洋文化館は必要という点、海洋文化館リニューアルの沖縄部門アドバイザーであった高良倉吉氏からは、リニューアルは太平洋地域の西の端にある沖縄という海からの視点で行った点等が論じられた。

3)総括

海洋文化シンポジウムは、沖縄県内からの一般参加者が多くを占め、参加者からは、講演の分野が多岐にわたる幅広さ・内容の奥深さや濃さに満足し、今後の海洋文化に関する調査研究・普及啓発事業への期待が寄せられ、沖縄と太平洋地域の海洋文化の素晴らしさを再認識する機会になった。
また、各分野をリードするパネリストを招聘・講演いただくことにより、海洋文化館を介して、ハワイとミクロネシアの伝統的航海術の従事者同士、沖縄・日本本土の人類学・考古学・歴史学・海洋スポーツ等、異分野の研究者・教育者が結び付き、多角的な視点から沖縄・太平洋地域の海洋文化についての調査研究・普及啓発を行う人的ネットワークを構築することができた。(図1~4)

  • 図-1 海洋文化シンポジウムの様子

    図-1 海洋文化シンポジウムの様子

  • 図-2 海洋文化シンポジウムの様子

    図-2 海洋文化シンポジウムの様子

  • 図-3 海洋文化シンポジウムの様子

    図-3 海洋文化シンポジウムの様子

  • 図-4 海洋文化シンポジウムの様子

    図-4 海洋文化シンポジウムの様子



*1普及開発課

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