スマートフォンサイトはこちら
  1. 9)海洋博公園内小動物(昆虫類)等調査
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

9)海洋博公園内小動物(昆虫類)等調査

島袋 林博*1・瀨底 奈々恵*1・佐々木 健志*1

1.はじめに

海洋博公園内に生息する小動物(昆虫類)については、これまでの調査結果から18目205科850種が確認されている。平成27年度においては、小動物主に昆虫などの生息環境を把握し、昆虫生態学的側面から当公園の植栽および管理についての検討を行うとともに、園内において小動物の生息環境を活用した環境教育に関する調査を行い、今後の当公園における環境教育のノウハウ構築に必要な情報収集を行うことを目的に実施した。

2.調査期間

平成27年6月1日~平成28年3月31日

3.調査内容

(1)生息環境の把握

これまでに、公園内で実施された生物生息調査に関する既存の報告書を参考に、公園全域での主に昆虫類の生息環境調査を行い、海洋博公園内における陸生小動物の生息環境の特性を把握する。これらの結果を基に、現時点での昆虫類の観察に適した場所や今後の植栽管理等によって新たな生息環境を創造できる場所について検討を行った。
① 調査地:海洋博公園内全域
② 調査期間:夏期(8月)~冬期(1月)にかけて、合計4回の現地調査を実施した。
② 調査方法:調査は、公園全体を5つのエリア(A~E)に分け、ラインセンサス法により設定したルート(図1)を歩きながら、目視によって昆虫類の種を記録した。調査は午前中と夜間に行い、夜間の調査では主にホタル類の生息確認を行った。

(2)昆虫学的側面からの植栽および管理方法の検討

上記(1)の調査結果を基に、園内の昆虫類の種の多様性を高めるための植栽計画および管理方法についての検討を行う。
① 調査地:当公園全域

(3)沖縄の昆虫類を用いた環境教育に関する調査

熱帯ドリームセンターにおいて開催された「沖縄の貴重な昆虫展~昆虫と植物の不思議~」において、当財団所有の昆虫標本と植物類、および琉球大学博物館(風樹館)所有の昆虫標本類をもとに、「沖縄の希少昆虫」や「人と昆虫の関わり」に関する展示パネルとワークシートを作成したほか、展示に関する昆虫標本の作製と外国産および沖縄産昆虫類の生態展示を実施した。また、観覧者にアンケート調査を実施して、本展示会における環境教育の効果を検証した。

4.調査結果

1)生息環境の把握

本調査によって確認された小動物を、表1に示した。今回の調査では、ラインセンサスによって、園内での生き物観察等に利用できる昆虫類を中心に調査を行ったことから、分類群においてはチョウ目、トンボ目、バッタ目、コウチュウ目などが主な対象となった。全5エリアの調査で、12目60科138種の昆虫類が確認された。以下に、各エリアの概要を説明する。
(1)エリアA
本エリアでは、9目13科34種の昆虫類が確認され、全てのエリア中で最も確認種数が少なかった。本エリアは、水族館やオキちゃん劇場、駐車場などの大型施設が集中したエリアで、既存緑地がほとんど残されておらず、植物の植被率や多様性も低く、昆虫類が生息地とできる場所が極めて少ない。
(2)エリアB
本エリアは最も確認種数が多かった場所で、9目48科93種の昆虫類が確認された。本地域は、郷土村周辺と海岸部に残された良好な既存林地や人工的な池や川なども設置されており、多様な水生昆虫類を含む様々な昆虫類が生息している。
(3)エリアC
本エリアは、ドリームセンターとその周囲の植栽地からなる場所で、比較的植被率は高いものの下草の無い管理林地が多く植生が単純なため、昆虫類の種多様性もそれほど高くなく確認できた昆虫類は9目30科52種であった。
(4)エリアD
本エリアは都市緑化植物園を中心とするエリアで、チョウの食草園や人工的な池もあることから比較的昆虫類も多く、11目41科82種が確認された。特に、チョウ類の種数が多く、全エリアで最も多い25種のチョウ類が確認され、沖縄県の天然記念物であるフタオチョウは、チョウの食草園に植栽されているヤエヤマネコノチチにおいて繁殖が確認された。
(5)エリアE
本エリアは、当公園のバックヤードを中心とした場所で、海岸部の既存林地に囲まれてラン温室や圃場が設置されているほか、植栽によるバンコの森公園が設置されている。当エリアからは、2番目に多い11目48科85種の昆虫類が確認された。特にチョウ類は多く20種が見られたほか、海側に既存林地が広く残されているため甲虫類やバッタ類も多くの種が見られた。

本調査の結果、当公園内の昆虫類を中心とした生息環境においては、エリアBの郷土村周辺が最も好適な生息環境を有していることが明らかになった。その最も主要な要因は、園内に残された既存林地の大半が本地域に集中していることに加え、海岸部の既存林地の面積も比較的広く、多様な昆虫類の生息環境が残されていることによる。また、人工的な池や河川の設置も水生昆虫の多様性を高める要因となっている。

2)昆虫学的側面からの植栽および管理方法の検討

(1)生物の種多様性を高めるための植栽と管理に関する基本的な考え方
① 昆虫類を初めとした在来生物の主要な生息場所となる既存林(自然林)は、今後の園内整備においてこれ以上減少させないように配慮する。
② パッチ状に分断化された小面積の既存林を、計画的な植栽によって拡大するとともに、エコトーン(緑の回廊)を設置することによって連結させる。
③ 海洋博公園の自然植生の特徴は、岩礁海岸部に発達した海岸植生であることから、海岸植生の維持と回復に向けた取り組みを行う。
④ 特に現存する海岸植生については、海から陸域に向かっての段階的な植生構造の変化を植栽等によって回復させ安定した植生帯を形成させる。
⑤ 内陸部の既存林については、主に本部半島の琉球石灰岩地に見られる植生を回復できるよう、各既存林地の潜在的な植生の把握と人為的な遷移誘導を行う。
⑥ 園内に植栽する在来植物については、遺伝的攪乱を防止するため、可能な限り園内の既存林地や近隣の自然林から採集した種子や実生苗等を用いて実施する(園内で植栽用の在来植物の計画的な生産体制を構築することが必要)。
⑦ 園内での環境教育を推進させるため、既存林を有効に活用するための観察路の整備や生物の新たな生息場所を創出するためのビオトープの設置も積極的に行う。
⑧ 園内に見られる外来生物の内、特に外来生物法により特定外来種に指定されているボタンウキクサやウシガエル、シロアゴガエル、カダヤシについては園内から完全に駆除を行うともに、要注意外来生物リストに揚げられ生態系へ重大な影響を与える可能性の高いアメリカハマグルマやギンネム、アカミミガメなどの外来生物についてもできる限り園内から排除する。
⑨ 特に、国際自然保護連合(IUCN)の世界の侵略的外来種ワースト100にも含まれているアメリカハマグルマは、沖縄の海岸植生に重大なダメージを与えることが指摘されているので積極的に駆除が必要である。

以下に、エリアごとの植栽計画と管理指針について記述する。

① エリアA
本地域においては、図1-①と②の海岸部に僅かに海岸植性が残されているが、アメリカハマグルマやギンネムなどの外来種植物の侵入も見られるため、早急に除去が必要である。また、海岸植生を維持するために植栽などによって植生帯の拡大を行う必要がある。また、本地域においては一部にまとまった既存林が残存しており(図1-③)、チョウ類をはじめとした小動物のレスティングサイトとして利用されている可能性が高い。しかし、林内はかなり乾燥した疎林となっているため、在来樹木の植栽によって既存林内の植物の多様性を高め安定した環境となるよう管理することが望ましい。また、本エリアにおいては、園路沿いなどにチョウ類の吸蜜源となる草花や花木を植栽し、チョウの蜜源エリアとすることが望ましい。

② エリアB
今回実施した生息環境調査でも明らかになったように、本エリアは公園の中で最も昆虫類の多様性の高い場所である。その主要な要因となっているのが、郷土村周辺に広範囲に残されている既存林の存在である(図1-④)。既存林内には、クスノハガシワやウラジロエノキ、クワノハエノキ、ハマイヌビワなどの琉球石灰岩地域に生育する在来樹木も多く、一部には植生の階層構造が見られる場所もあり、既存林内に生息する昆虫類にとっても好適なレスティングサイトや繁殖場所となっている。また、遊歩道が設置されているエリアCに続く海岸林と岩礁海岸状の海岸植物の保存状態も比較的良好である(図1-⑤)。このため、本エリアにおいては、既存林を本来の自然林へと誘導育成するための植栽計画と育成管理が必要である。また、海岸部の自然林に関しても、本来の海岸植生が維持できるよう管理していく必要がある。植栽計画においては、当地域の潜在植生を調査した上で、周辺地域から採取した種子や実生苗等による植栽材料の育成を行う必要がある。さらに、自然植生への誘導には、既存林内のモクマオウやアメリカハマグルマ等の外来植物の段階的な除去を進める必要がある。特に、郷土村周辺の園路沿いには、アメリカハマグルマが広範囲に密生しており、林床の植生を単純なものにしている。
一方、本エリアには、コンクリートで作成された人工的な池と短い川が設置されている。現在はあまり管理されていないようで、池には落ち葉などが溜まり川にはほとんど水が流れていない。しかし、これらの水辺環境は、園内の水生昆虫にとっては希少な生息場所となっており、これまでの調査でトンボ類、アメンボ類、マツモムシ類、ゲンゴロウ類などが確認されている。このため、本地域の池と川については、周囲をコンクリートで固められた池と川を改修し、本格的なビオトープ工法によって在来の湿生植物や水生植物などが生育できる自然度の高い水辺環境にすることによって、水生昆虫の多様性を高められるだけでなく、非常に質の高い自然観察エリアを創出できるものと考えられる。

③ エリアC
本エリアは、熱帯ドリームセンターを中心としたエリアで、海岸側には比較的大きな既存林地が残されている(図1-⑥)。既存林地の一部にはミカン類が植栽されているが、何れも生育状態は良くなく枯損した木も見られる。本既存林は斜面地にあるため自然観察などで利用するにはかなりの整備が必要であるが、隣接するエリアBの既存林とコリドーで連結させるとことによって、園内でも主要な昆虫類の生息場所になるものと思われる。また、現在、ミカン類が植栽されている場所は、下部の密な林によってある程度防潮効果も確保されていると考えられるため、ミカン類、ゲッキツ、タブノキ、アカメガシワ、シマトネリコなどを植栽することによって樹液に集まる昆虫類の観察場所として利用できるとものと思われる。また、道を挟んだ海側には、エリアBから続く岩礁上に海岸植生が広範囲に残されている(図1-⑤)。岩礁上には遊歩道と砂浜に降りる道も整備されていることか、岩礁上の在来植物を選択的に育成することによって、海岸植物や海浜動物の観察に好適な場所となる。

④ エリアD
本エリアは都市緑化植物園を中心とするエリアで、園内には緑化木として導入されたな外来樹種が疎らに植栽されているだけで、昆虫類が生息できるような林や草地などは園内にはほとんどない。しかし、当地域の陸側には、墓地を囲むように林が残されており、また、海側には園内で最も広い海岸林が帯状に残されており、これらの林には様々な昆虫類が生息している(図1-⑧)。本エリアの南端には、オオゴマダラ、ツマベニチョウ、フタオチョウ、ジャコウアゲハなどのチョウ類の食草や蜜源植物が植栽されているため、周辺の林に生息するチョウ類などが多数園内に飛来するため、単純な植生環境のわりには比較的多くの昆虫類が確認されている(図1-⑦)。
本エリアの都市緑化植物園に関しては、都市部における新たなエコアップ方法を提案する場所として、①様々なビオトープの見本園(水辺ビオトープ・草地ビオトープ・コンテナビオトープなど)、②チョウを初めとした昆虫類の食草や吸蜜植物の見本園、③鳥類の餌樹木園、④クワガタムシなどが集まる樹液樹木園、⑤剪定木チップや枯損木、ほだ木などを活用したカブトムシやクワガタムシの繁殖場所見本園、⑥陸生ボタル繁殖見本園、などを備えた都市のエコアップ方法を提案する場所として再整備すれば園内全体としての生物多様性の向上にも繋がるものと考えられる。

⑤ エリアE
本エリアはバックヤードを中心とする場所で、植物管理センターと多数の温室、バンコの森が設置されている(図1-⑨)。海側には広い海岸林が残されており植生も多様であるため確認された昆虫類の種数も多かった。本エリアについては、バックヤードへの防潮効果も高いと思われるこれらの海岸林をできるだけ減少させないように維持することが必要である。

3)沖縄の昆虫類を用いた環境教育に関する調査

(1)昆虫展の概要
① 名称:沖縄の貴重な昆虫展〜昆虫と植物の不思議〜
② 実施期間:平成27年7月26日(日)~9月30日(水)(66日間)
③ 実施場所:熱帯ドリームセンター 常設展示室・催物展示室
④ 昆虫展入場者数:12,343名
ドリーム入館者数:19,194名 (前年度同時期入館者数:22,213名)
⑤ 取材件数:ラジオ沖縄、RBCラジオ、エフエム沖縄;3件(全年度;4件)
⑥ 展示内容
本企画展は、昨年に続く熱帯ドリームセンターでの昆虫をテーマにした展示会で、琉球大学博物館(風樹館)との共催により、国内希少野生動植物に指定されている「ヤンバルテナガコガネ」のパラタイプ標本や沖縄県版レッドデータリストに掲載されている貴重な昆虫標本を中心に、沖縄の農業害虫や沖縄の在来カイコなどの有用昆虫類なども含め、約270種、300点余りの標本と関連資料約120点を展示した。さらに、本年度は沖縄に生息するクモ類やサソリ類の標本と生体の展示を新たに追加した。これらの展示については、詳細な解説パネルを設置し、会場で配布したワークシートとリンクさせながら効果的に学習が行えるようにした(写真1)。
また、本年度は初の試みとして、ドリームセンター内にある常設展示室を利用して、小規模なバタフライファームを設置して、海洋博公園内に生息するオオゴマダラ、カバマダラ、リュウキュウアサギマダラ、シロオビアゲハ、ウスキシロチュウ、ツマグロヒョウモン、ルリタテハの7種のチョウ類を室内に飛ばすとともに、世界最大種のヘラクレスカブトムシ、アトラスオオカブト、ネプチューンオオカブト、サタンオオカブト、エラファスゾウカブト、マルスゾウカブト、ギラファノコギリクワガタ、マンディブラリスフタマタクワガタ、ニジイロクワガタ、ハナカマキリ、マダガスカルオオゴキブリなどの12種の昆虫類と熱帯を演出するエボシカメレオンのハンズオンによる生体展示を実施した。さらに、バタフライファーム内には海洋博で栽培しているラン類やチョウの食草と蜜源植物を鉢植えにしてデイスプレー展示を行った(写真2)。
このほか、関連イベントとしてワークショップ「沖縄のカイコに関する講演会と蚕の繭から作るランプシェード工作教室」と美ら島自然教室「沖縄のカブトムシ・クワガタムシの秘密を探る」を熱帯ドリームセンター内で実施し相乗効果による誘客増を図った。

(2)ワークシートの配布
今回の昆虫展は、見学者への環境教育を意識した展示会であり、沖縄の自然環境や希少な昆虫類の現状を理解してもらうとともに、人と昆虫との関係についても展示を通して考える機会を提供したいと考えた。さらに、昆虫展開催が夏休み期間中でもあることから、本展示会を夏休みの自由研究に役立ててもらいたいとの希望もあった。そのため、今回の展示会では、展示内容に沿ったやや専門的な質問を含むワークシートを作成して会場で自由配布を行った。

(3)アンケート調査の結果
今回の昆虫展における見学者の関心の程度や興味の内容等に関する情報を得るため、アンケートを実施した。期間中に回収できたアンケート数は557枚(県内:222枚,県外:192枚,海外4枚,不明:139枚)、で回収率は昨年と同様の約3%であった。以下に、各質問項目におけるアンケート結果を示した。

<アンケート結果の考察>
・沖縄の自然保護や生物について関心があるかとの質問に対しては、約60%の人が「大変関心があるまたは関心がある」と答え、これに「少し関心がある」を加えれば、昨年とほぼ同様に全体の98%の見学者が関心を持っていた。また、どのような自然環境に関心があるかとの質問に対しては、「海とサンゴ」と答えた方が31%、「やんばるの森」と答えた人が28%あり、ほぼ同数であった。次いで多かったのは「動植物」で生き物に対する関心も高いことがうかがわれる。このほか、「家の周りの身近な自然」と答えた方が11%、また「川や池」と答えた方が同数の11%あり、身近な自然にも関心が高いことも分かった。
・本年度も「生きている昆虫をもっと見たい」や「触れられる昆虫をもっと増やしてほしい」、「展示会の規模をもっと大きくしてほしい」などの感想もあり、展示会の開催規模についても検討が必要である。

5.今後の課題

今回の調査結果を踏まえ、海洋博公園の小動物(昆虫類)の生息環境に配慮した公園管理に努め、希少種の保全や生物多様性を維持することで、環境学習プログラムのフィールドとして積極的な活用が見込める。また、沖縄の昆虫類を用いた環境教育に関する調査のアンケート結果からも分かるように、見学者の殆どが沖縄の自然に高い関心を示していることから、今後も海洋博公園の豊かな自然環境を活かした公園運営に努めていきたい。

園内の各エリアで確認された昆虫類

写真1昆虫展催事会場の展示状況

  • 昆虫の特徴についての展示

  • 沖縄の希少昆虫類の展示

  • ダーウィンが存在を予言したキサントパンスズメガ

  • クモの仲間の展示

  • 食用昆虫の展示

  • 沖縄の在来カイコ品種のハンズオン展示

写真2.昆虫ふれあいコーナーの展示状況

  • バタフライハウスの入り口

  • ハウス内のレイアウト展示の状況

  • 熱帯のジャングルをイメージしたラン類の展示

  • チョウ類のエサ皿(吸蜜場所)

  • ハンズオン昆虫類の展示状況

  • ヘラクレスをハンズオンしている状況


植物管理チーム*1・琉球大学博物館*2

ページTOPへ