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  1. 2)ウミガメに関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

2)ウミガメに関する調査研究

河津 勲*1

1.はじめに

ウミガメ類は、乱獲や混獲、護岸工事などにより産卵地である砂浜が消失したことにより、その資源状態は悪化している。ウミガメ類の保全のためには、その資源状態を把握するとともに、飼育下における繁殖や生態に関する知見を集積するとともに、繁殖の推進を図る必要がある。本事業ではこれらの問題に対応するため、以下の取り組みを実施した。なお、今年度の成果として、10編が学術論文や出版物に掲載された。

2.産卵調査

図-1 救出卵の人工孵化の様子(孵卵器)
図-1 救出卵の人工孵化の様子(孵卵器)

図-2 救出卵から孵化したアオウミガメ
図-2 救出卵から孵化したアオウミガメ

沖縄本島では、調査ボランティアの方々が主体となり産卵状況の把握に努めている。当財団は沖縄県の北西部に位置する本部半島(本部町、今帰仁村、名護市)等での調査を担っている。平成27年度の本部半島では、アカウミガメとアオウミガメの産卵が、それぞれ35回、11回程度確認され、特にアカウミガにおいては過去最も少ない結果となった。この劇的な減少は全国的にも、同様にみられ一致する結果であったが、要因については不明である。今後も引き続き産卵状況のモニタリングを行う必要がある。
大宜味村喜如嘉での産卵状況は、調査ボランティアの一人である米須邦雄氏によってモニタリングされている。この砂浜は同個体によるタイマイの産卵が定常的に確認されることで知られている。この詳細な結果については、うみがめニュースレター103号に掲載されている。
一方で、この砂浜では、2015年8月16日に産卵にやってきたアオウミガメが誤って砂浜後背の国道に侵入し、自動車に引かれて死亡するという事故が発生した。当財団ではお腹の中にあった卵を救出し(図-1)、20個体の人工孵化に成功し、こえは世界で初めての事例となる。また、孵化した個体は喜如嘉の砂浜から放流した(図-2)。この詳細についてはマリンタートラー第21号に掲載された。

3.漂着、混獲調査

当財団は沖縄県一般からの情報を元に、海岸に死亡漂着するウミガメ類の調査を行っている。調査では現場に出向き、種の同定、解剖および計測などを行った。平成26年度にはアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイ、計60例ほどの死亡漂着を確認した。
琉球大学のウミガメ調査サークル「ちゅらがーみー」と連携した混獲調査では、読谷村の定置網に混獲されるウミガメ類に標識を装着後に放流する、いわゆる標識放流を行っている。この調査から、交尾期に繰り返し混獲される雄の成熟したアカウミガメがいることを明らかにし、定置網周辺がアカウミガメの交尾海域として利用されている可能性を指摘した。この結果の詳細は、うみがめニュースレター103号に掲載されている。

4.遺伝子調査

地球規模で分布するウミガメ類のような動物を効果的に保全するためには、独立した繁殖集団を識別しておくことが重要である。これによって、適切な地域での保全管理を行うことができる。当財団では日本全国の調査ボランティアや研究機関等と共同で、日本でのアカウミガメの個体群構造を明らかにするため、日本国内12箇所の産卵地から555個体のサンプルを集めたミトコンドリアDNAの分析を行った。その結果、日本国内の中でも、琉球列島、屋久島、本土の3つの集団に大きく分かれ、特に琉球列島の集団には、南太平洋(オーストラリア)特有の遺伝子型(ハプロタイプ)が多く含まれていることが明らかとなった。詳細な結果はEndangered Species Research誌30巻に掲載された。
一方で、アオウミガメの幼体は、しばしば日本の沿岸で確認されることがあるが、これらの幼体がどこで生まれた個体かはわかっていない。日本で生まれたアオウミガメが幼体期にどこで生活しているかも不明である。これらの課題を解決するため、アオウミガメの幼体における同様の遺伝子分析を、日本各地の調査ボランティアや研究機関と共同で実施した。その結果、日本近海で確認された幼体は、日本の砂浜で生まれた個体であることが推測された。この結果は日本で生まれた個体は、日本近海で幼体期を過ごす可能性を示唆するもので、結果はPacific Science誌70巻1号に掲載された。

5.飼育下における研究

図-3 雌アカウミガメ生殖腺の超音波画像
図-3 雌アカウミガメ生殖腺の超音波画像
上:卵胞、下:卵胞と卵殻卵
Kawazu et al. (2015) から引用

当財団は海洋博公園の管理運営を行っており、公園内にあるウミガメ館で飼育研究を行っている。ウミガメ館では毎年のようにアカウミガメが産卵しており、その産卵生態に関する研究成果が2編の国際誌に掲載された。
ウミガメ類は約2週間毎に産卵することで知られているが、この産卵から産卵までに日数である産卵間隔は、水温が高くなる産卵終期に向かい短くなる。当財団では約6年間にわたって、産卵期間中のアカウミガメにおいて超音波画像診断(図-3)を行い、水温と卵形成過程の関係について調査した。その結果、卵形成は個体が経験する温度が高くなるにつれて速くなることを明らかにし、結果はHerpetological Review誌46巻3号に掲載された。また、1例であるが、産卵期間中に毎日の採血を実施し、血液中の性ホルモンやカルシウムなど5種の変動を明らかにし、詳細な結果はCurrent Herpetology誌34巻1号に掲載された。
その他の飼育研究について、当財団が開発した電気刺激による精液採取を行ったタイマイへのダメージを生理的に評価した。精液採取後は軽い筋肉痛のような状態に陥るが、約1週間程度で回復することが示唆され、電気刺激によるダメージは経度である可能性が示唆された。詳細な結果はうみがめニュースレター102号に掲載された。また、アカウミガメ幼体の皮膚や口腔内に形成された膿瘍の細菌叢を明らかにし、Vibrio alginolyticusが原因菌の一つとして考えられた。この結果はうみがめニュースレター102号に掲載された。

 

*1研究第一課

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