海洋生物の調査研究
岡部晴菜*1・河津 勲*1
南西諸島ではこれまで全鯨種の約3分の1に相当する30種が確認されており、これらの基礎情報を得ることは鯨類に限らず海洋生態系の保護・管理を行う上で重要である。当財団では南西諸島における鯨類の生息状況や資源状態の把握を目的とし調査を行っている。ここでは本年度実施した事業について報告する。
当財団では南西諸島における鯨類相を把握するため、一般からの情報に基づき鯨類のストランディング(漂着、座礁、迷入等)した際に、種や大きさ、場所などを記録している。平成26年度の調査では、外部形態による種判別から3科7種が確認された(表-1)。
特に読谷村に漂着した体長3.6mのザトウクジラは、本種の新生仔の平均的な体長(4~5m)よりも小さく、筋肉や臓器に未発達な状態が確認されたことから、死産であったと推定された(図-1)。また、本種は一昨年にも同場所での漂着や、近隣の定置網内での混獲が確認されている。現在、沖縄近海における本種の推定来遊数は増加傾向にあるため、今後も死亡漂着や混獲事例が増加する可能性が示唆される。
ザトウクジラは夏季に摂餌のため高緯度海域へ、冬季に繁殖のため低緯度海域へ回遊を行う。しかし、その回遊経路や繁殖に関する詳細な情報については未だ不明な点が多いため、当財団では本種の来遊する1月から3月に慶良間諸島周辺及び本部半島周辺において目視調査を実施している(図-2)。
本種は尾びれ腹面の模様や後縁の形状が個体ごとに異なっており個体識別が可能である(図-3)。調査では個体識別に使用する尾びれ写真の撮影を主として行っており、平成26年度ではのべ636頭分の写真を取得することができた。これらの写真と過去に撮影された写真を比較し、個体識別された本種の尾びれ写真カタログを作成し、随時補完している。この作業によって、これまでに約1300頭分の個体識別を行ってきた。
沖縄と他海域間の回遊を調査するため、各地のホエールウォッチング関係者に尾びれ写真の提供を依頼している。平成26年度では奄美大島143頭、沖永良部島10頭、北海道5頭の尾びれ写真を提供いただき、当財団の尾びれカタログと照合したところ、それぞれ91頭、10頭、1頭が一致した。
ミナミバンドウイルカは西部太平洋からインド洋の熱帯から亜熱帯に生息し、日本では奄美大島周辺の他に天草(熊本)や小笠原(東京都)など局所的に分布している。海洋博公園のミナミバンドウイルカは海洋博開催当時に奄美大島で捕獲された個体であるが、現在の奄美個体群における基礎的な情報は皆無に等しい。
当財団では、本種の生息数を把握するため、背びれ後縁の形状の比較から個体識別を行っている。今年度は地元から62頭分(のべ3500枚)の背びれ写真を提供頂いた。これらと過去に識別されたものを照合した結果、12頭が新規個体で、現在までに113頭が個体識別できている。今後も資源状態の把握のため継続したデータの蓄積を行うともに、発見時期や移動状況についての詳細な調査を進めていきたい。
昨年の初開催に引き続き、ホエールウォッチング(以下WW)事業者を対象とした「沖縄ザトウクジラ会議2014-ウォッチングに活かせる鯨情報-」を実施した。本年度は当財団が行っている鯨類の野外調査や飼育を通して得られた情報を紹介し、WWツアーにおけるサービス内容の質向上等に役立てて頂くことをテーマに講演を行った。県内の事業者ら14社54名の参加があり、会議の場を利用して、普段顔を合わせることの無い事業者同士がそれぞれのWWの現状について情報交換する様子もみられた。
*1研究第一課
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