普及啓発の取り組み
篠原礼乃*1・前田好美*1
近年、地球温暖化、生態系の危機等、様々な環境問題への対応、沖縄の自然環境、歴史風土を活かした観光及び産業の振興、地域との連携、公園利用ニーズの多様化等に対応した公園の管理運営等の課題が取り上げられている。これらの諸課題のうち、財団の設立目的にかなう社会的ニーズの高い環境問題、産業振興、公園機能の向上等に関する調査研究・普及啓発事業を拡充・推進し、社会の要請に迅速に対応するとともに、地域・社会へ貢献するため、財団の事業目的に合致する調査研究等を実施する団体、個人に対して研究費用を助成する「調査研究・技術開発助成事業」を平成20年度より実施している。
今年度は、既に研究報告を終えた助成研究者を招聘し、研究手法・成果の共有や情報交換を行うため、「亜熱帯性動植物に関する調査研究技術開発研究会」を開催した。
助成対象となる研究分野は、財団設立の目的事業である亜熱帯性動植物に関する調査研究技術開発並びに知識の普及啓発や公園管理技術の向上にかかる研究等とし、平成25年度における重点テーマは下記の通りであった。
平成25年4月11日から平成25年5月31日を応募期間とし、期間内に25件の応募があった。平成25年7月4日の本審査会において、亜熱帯性動物に関する調査研究・技術開発4件、亜熱帯性植物に関する調査研究・技術開発2件の合計6件を採用した。採用事業は表-1のとおりである。
亜熱帯性動物に関する調査研究・技術開発 | |||
分類 | 申請者 | 事業名 | 申請金額 |
調査研究 | 成瀬 貫(琉球大学 熱帯生物圏研究センター 西表研究施設 助教) | 西表島沖に広がる中深度サンゴ礁の保全を目的とした基礎的研究 | 1,000,000 |
調査研究 | 鈴木 一由(酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 教授) | ウミガメの環境汚染暴露状況をスクリーニングするための粒子励起X線分析法による血球・血漿中微量元素の多元素同時定性定量の確立と保全調査 | 1,000,000 |
技術開発 | 守田 昌哉(琉球大学 熱帯生物圏研究センター 准教授) | ミドリイシ属サンゴの精子凍結保存法の開発と応用 | 1,000,000 |
技術開発 | 一橋 和義(東京大学 生物生産工学研究センター 技術補佐員) | 沖縄産のナマコと海藻、微生物、サンゴ砂を効果的に用いた汚水浄化システムの開発及び、海洋生物育成、市民の環境教育支援 | 960,000 |
亜熱帯性植物に関する調査研究・技術開発 | |||
分類 | 申請者 | 事業名 | 申請金額 |
技術開発 | 上野 誠(島根大学 生物資源科学部 農林生産学科 植物病理学研究室 准教授) | 土着微生物を活用した沖縄産農作物の病害防除技術の開発 | 1,000,000 |
調査研究 | 福田 英昭(琉球大学 教育学部 学校教育教員養成課程 技術教育専修 教授) |
沖縄の教育機関におけるアオガンピ等の和紙材料 植物栽培と和紙抄造の教材化に関する研究 |
685,000 |
表-1 平成25年度調査研究・技術開発助成事業採用一覧
目的
助成研究者を招聘し研究会を実施することで、研究手法・成果の共有、情報交換を行い、今後の調査研究・普及啓発事業の効果的・効率的実施にむけた技術向上を図る。
開催日
18日(水)亜熱帯性動物に関する調査研究・技術開発研究会(以下、動物研究会)
19日(木)亜熱帯性植物に関する調査研究・技術開発研究会(以下、植物研究会)
場所
沖縄県男女共同参画センター「てぃるる」(那覇市西3丁目11‐1)
参加者
合計63名
動物研究会31名
植物研究会32名
平成20年度公募研究助成事業成果報告
研究者:長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科 准教授 和田実
サンゴ礁域におけるサンゴ病原細菌の迅速モニタリング技術の開発
サンゴの感染症は各地で進行するサンゴ礁の衰退要因の一つである.多くの場合,感染原因微生物は未解明だが,サンゴ表面の細菌群集構造は,サンゴの健康状態を反映して変動すると考えられている.本技術開発では,ミドリイシサンゴにおけるRapid Tissue Necrosis(RTN)の発症とサンゴ組織および周辺海水中の細菌群集構造の関連を明らかにし,RTN原因細菌を検出するための技術開発を目指した.2009年9月から2011年7月にかけて,沖縄美ら海水族館のサンゴ展示水槽とサンゴ蓄養水槽において,コエダミドリイシサンゴとトゲスギミドリイシサンゴの枝,および水槽の海水を採取した.目視によりRTN発症部位を確認した後,健全部位と分けてDNA抽出をし,真正細菌群集構造をrITS領域の断片長多型解析(Ribosomal Intergenic Spacer Analysis = RISA)および塩基配列解析を行った.ミドリイシサンゴの細菌群集構造は,健全部位とRTN発症部位で大きく異なっていた.さらに発症部位の細菌群集構造は,採取月が近い試料の間でグループ化する傾向を示し,トゲスギミドリイシサンゴでも同様の結果が得られた.海水の細菌群集構造は,展示水槽と蓄養水槽の間で異なり,展示水槽では同じ採水月の試料ごとにグループ化する傾向を示した.また,RTNを発症したミドリイシサンゴから感染症の指標となるITSフラグメントを検出した.
このITSフラグメントの塩基配列解析から,GammaproteobacteriaやFirmicutesに含まれる種がRTNに関連すると判明した.以上のように,RISA法と塩基配列決定手法を組み合わせることで,効率的にサンゴの病原性細菌を検出できる基礎技術を開発した.
本事業で確立した16S-23SリボソーマルRNA遺伝子間のITSフラグメントパターンの解析技術(RISA法)は,簡便,迅速かつ高い再現性で,サンゴの感染症と関連する細菌群を検出,判別することができる.一般に,RISA法によるITSフラグメントのシグナル強度は,その由来となる細菌の存在量と正の相関があることから,今後,この技術を用いることで,美ら海水族館におけるコエダミドリイシサンゴの感染症原因細菌の動態,すなわち,水槽内における数的な変動を容易に監視できると期待される.また,この手法の簡便さを活かして,水槽内の全常在細菌群集モニタリングをルーチン的に実施できるため,水質の変動や,他の病原微生物の監視にも役立つと期待される.さらに,水族館だけでなく,野外のサンゴ生息環境にも,本技術を適用することにより,サンゴ礁生態系における細菌群集の動態を把握することが容易になり,細菌によるサンゴ感染症の予防や保全対策に貢献するものと期待される.
平成20年度公募研究助成事業成果報告
研究者:京都大学 瀬戸臨海実験所 諏訪僚太
環境変動が造礁サンゴ類の成長に与える影響に関する調査研究
人間活動に伴う二酸化炭素ガス(CO2)排出量の増加は海水温上昇や海洋酸性化という地球規模での環境変動を引き起こしている.海洋酸性化に対する個体や生態系の応答について調べることは,CO2増加関連の環境問題対策に必要な情報を提供し,CO2排出の削減や社会の意識改革に繋がると考えられる.
高海水温と高CO2濃度が造礁サンゴの成長に与える影響の評価を目的として室内における酸性化曝露実験を実施したところ,海水のCO2濃度が現在よりも低かった産業革命以前の状態に戻すとコユビミドリイシの稚サンゴの成長が早まることが確認され,現在の海洋環境はサンゴの成長に既に負の影響を及ぼしている可能性が分かった.さらに,2100年よりも早い段階で到達されると考えられている現在よりも僅かにCO2濃度を上昇させた実験条件においても,稚サンゴの骨格成長にマイナス影響がみられる可能性も分かった.また,2100年に想定されている海の高CO2濃度が稚サンゴの成長に負の影響を及ぼすことが示唆されたが,高海水温は稚サンゴの骨格成長を促進するという相反する結果となった.これらの結果は,産業革命以前の稚サンゴの成長が現在よりも速かった可能性や,将来の高水温化と酸性化の稚サンゴへの影響は相殺される可能性を示唆するものである.
今回得られた成果は,本調査研究事業において飼育方法を確立できた稚サンゴを用いた実験系によるものであるが,親サンゴや初期ポリプ世代以外の初期生活史段階についても酸性化暴露実験も行うことでサンゴの生活史全体における環境変動の影響を評価できるようになることが期待される.特に,サンゴの長期飼育の難しさのため,環境変動が親サンゴの生殖に与え得る影響は本研究では未解明であり,今後の研究が必要である.
また,稚サンゴを用いた酸性化暴露実験においては,海洋酸性化の生物への影響評価を行った研究としては過去の報告と比して最も低レベルの酸性化条件が用いられているため,これらの成果は海洋酸性化の生物影響についての新たな情報であると言える.
また,これまでの実験に用いた稚サンゴは産卵後間も無い共生藻(褐虫藻)を持たない個体であるが,共生藻は高温に対して比較的耐性が低いと考えられているため,共生藻を取り込んだ稚サンゴ共生体への高海水温の影響を調べることも今後は必要であると考えられる.
平成21年度公募研究助成事業成果報告
研究者:琉球大学 理学部 准教授 立原一憲
ダム建設後に中卵型ヨシノボリは生き残れるか?-アオバラヨシノボリとキバラヨシノボリの生活史戦略と大規模な人為的環境改変の影響-
沖縄島には河川陸封型のキバラヨシノボリ(キバラ)とアオバラヨシノボリ(アオバラ)が生息している.ダム建設は,両種に壊滅的ダメージを与えると考えられている.そこで本研究では,ダム建設後の大保川(アオバラ)と建設予定の数久田川(キバラ)で両種を採集し,年齢と成長,成熟と産卵期,稚魚の遡上能力を解析し,以下のことを明らかにした.
年齢と成長:寿命はキバラ6歳,アオバラ5歳であり,両種の成長曲線は次式で示された.
キバラ雌:SL = 52.03(1- exp [-0.48{ t +0.76}]),雄:SL =52.42(1-exp[-0.48(t+0.76)])
アオバラ雌:SL= 34.95{1- exp [-1.3( t +0.51)]},雄:SL= 39.79 {1-exp [-1.16 ( t +0.5)]}
成熟と産卵期:両種の最小成熟体長と産卵期は,キバラが31.8㎜,1-9月,アオバラが26.9mm,4-9月であった.
稚魚の遡上能力:キバラ稚魚は,日齢45と日齢60では遡上せず,日齢90に5個体(25%),日齢120に1個体(5%)が遡上した.アオバラ稚魚は,実験期間を通じ1個体も遡上しなかった.これらは,キバラとアオバラの祖先種であるクロヨシノボリとアヤヨシノボリに比べ,著しく低い値であり,陸封種の遡上能力の低さが証明された.
今回の結果から,河川陸封型ヨシノボリの産卵期がキバラ1-9月(最小成熟体長31.8mm),アオバラ4-9月(26.9mm)であることが明らかとなった.この時期は,河川工事や河川環境の人為的撹乱を極力避ける必要性があり,今後の河川改修工事時期の目安となる.両種の寿命はキバラ6歳,アオバラ5歳であり,人為的環境変化の影響がこの期間以上にわたって継続すると両種の地域絶滅が生じる可能性が極めて高いことが示唆され,今後の河川工事期間の指針として利用できる.また,両種とも祖先型の両側回遊型ヨシノボリに比べ,遡上能力が著しく低いことから,ダム建設後にこれら両側回遊型の陸封個体群が生じた場合,遡上能力に勝るクロヨシノボリなどがダム湖の流入河川全域に優占し,河川陸封種が絶滅するシナリオが強く示唆された.ダム建設時にクロヨシノボリなどの遡上を妨げる構造物(仮称:クロヨシノボリ返し)の併設を義務付けるデータ的裏付けとなる.
平成21年度公募研究助成事業成果報告
研究者:琉球大学 熱帯生物圏研究センター
教授 竹村明洋
光で操るサンゴ礁性魚類の成熟と成長
本研究は光がサンゴ礁魚類の繁殖開始におよぼすメカニズムを明らかにすると共に,環境を利用した省エネ繁殖技術を開発することを目的とした.発光ダイオード(赤色,緑色,青色,白色)を利用した長日条件(14時間明期・10時間暗期)で非繁殖期のルリスズメダイを1ヶ月飼育した結果,雌個体の卵巣に卵黄形成を誘導でき,成熟誘起効果は赤色>緑色>青色であった.特に,赤色では全ての個体で成熟を誘導できた.対照群(自然条件飼育)と白色発光ダイオード飼育群では成熟を誘起できなかった.眼球を切除したルリスズメダイを蛍光灯での長日条件下(14時間明期・10時間暗期)で飼育した場合,卵発達を誘導できたことから,眼以外の光受容器官が生殖腺の発達に関与している可能性が考えられた.脳から光受容体遺伝子のクローニングを試みた結果,Exo-rodopsinとVertebrate ancient long (VAL) opsinを得ることができた.RT-PCRで解析した結果,これらの遺伝子が脳で発現していることを確認できた.
今回得られた結果は,非成熟期にあるサンゴ礁魚類に適度な環境条件を与えることによって成熟を誘導することができることを示している.今回実験に利用したルリスズメダイの場合,赤色(次に緑色)に反応し,成熟が開始されることが判明した.一般に,赤色は水中では吸収されやすく,水生生物にとっては利用しづらい波長帯であると考えられるが,本研究で得られた結果は,浅海で生息するルリスズメダイが生息環境にあわせた波長帯を繁殖に利用していることを示している.水槽内で繁殖(成長)を人為的に誘導する場合にはそれぞれの生物の生殖環境を考慮した光を選択する必要があろう.また,本研究では発光ダイオードを利用して魚類の繁殖を誘導することができた.このことは蛍光灯を利用した従来型の方法よりも電気エネルギーを節約することができる.
生物にあわせた波長帯を発光ダイオードで作り出すことにより,効率的な海洋生物の繁殖を人為環境下で行うことができる.また,インフラ整備の進んでいない発展途上国でも導入しやすい技術であろう.
平成22年度公募研究助成事業成果報告
研究者:神戸大学 内海域環境教育研究センター
村上明男
カーに依存する希少藻類チョウチンミドロの培養技術の確立と光合成生態の調査
国内では沖縄県だけに自生し絶滅危惧Ⅱ類に指定されている淡水産緑藻チョウチンミドロの保存培養株を作成することを目的に,沖縄島と与那国島の湧水域におけるチョウチンミドロの自生地を調査した.沖縄島の湧井戸3地点(アナラキガー,スニンガー,カキノハナヒージャー)と与那国島の田原川湧水域1地点,計4地点で採集した藻体を用いて,顕微鏡による形態観察,各種分光装置や高速液体クロマトグラフィーによる光合成色素の解析,葉緑体遺伝子による分子系統解析,などを行った.これらの解析結果では,4産地間で有意な差異は見いだされなかったが,与那国島での生育状況(日照条件,底質など)は沖縄島3ヶ所とは大きく異なっている.光合成色素分析からは,新規のカロテノイドが存在することも見いだした.微細藻等の混在は完全に除去できていないものの,4ヶ所全ての自生地の培養株を1年半〜3年間にわたり維持することに成功している.特に,スニンガーと田原川の培養株は,状態が良く成長が速いため,長期間の維持も可能であると思われる.また,培養実験からはチョウチンミドロの生育限定要因についての情報も得られている.
本研究で確立したチョウチンミドロ培養株について大量培養法などの開発などを引き続いて行うことで,学術研究用および絶滅危惧種の保全用に供することも可能になる.チョウチンミドロに特異的な細胞形態や光合成色素組成に着目した細胞学的,生理学的,発生学的などの基礎研究にも利用価値がある.また,水質変化に敏感なチョウチンミドロを湧井戸(カー)の水質環境の「指標生物」として活用できるものと思われる.さらに,本研究で得られた成果はチョウチンミドロと同様に絶滅が危惧されている沖縄特産の淡水産紅藻シマチスジノリなど,湧井戸(カー)に依存して生育している希少動植物の保護や保全の参考になるものと思われる.
平成23年度公募研究助成事業成果報告
研究者:沖縄生物学会 新納義馬
国指定史跡 今帰仁城跡,座喜味城跡,知念城跡の現状調査
今帰仁城跡,座喜味城跡,知念森城跡の現存植生について,平成23年12月~平成24年12月までの1年間,調査を実施し以下の結果を得た.
①今帰仁城跡
今帰仁城跡では,45科162種の維管束植物を記録し,沖縄県,国指定の絶滅危惧種6種が確認された.現存植生は,植生調査の結果,琉球列島の植物社会学的分類体系の中でリュウキュウガキ-ナガミボチョウジ群団の標徴種を含む同群団域の林分である.
②座喜味城跡
座喜味城跡では,73科183種の維管束植物を記録し,その中から4科4種の絶滅危惧種が確認された.城郭周辺は公園として整備されているが,接続する林分の植生は,林内にコバンモチ,ヒメユズリハ,アデク,ノボタン,ヒサカキ,クチナシ,フカノキ,ギーマキキョウランなどを含み,これまで琉球列島の常緑針葉樹林二次林として報告されているノボタン-リュウキュウマツ群落に属する林分と考えられる.
③知念森城跡
知念森城跡は,今帰仁城跡と同遷移系域に属する林分であった.絶滅危惧種が3科3種確認された.以上3城跡の調査結果について報告したい.
①今帰仁城跡
城郭内には,着生ラン(ボウラン)を付けた老木が生育している.その他,重要な植物である常緑のクスノハカエデが生育している.楓は、一般に葉は掌状に深裂し,落葉性であり,紅葉して落葉すると考えられているが,沖縄に自生するカエデ科のクスノハカエデは(主に石灰岩地域)は,葉は掌状に深裂せず,名の示す通り単葉,紅葉して落葉することはない.しかし実は楓の特徴を示す翼実である.このように城郭内には沖縄が亜熱帯性地域であることを示す植物が生育していることから,これらに樹名板(名前と分布域)を付け,生育する植物をとおし沖縄が亜熱帯性地域であることを紹介していただきたい.
今後の調査の必要性としては,今帰仁城跡は,他の城跡に比べ観光客数が多いことから,衣類などに付着した帰化植物の種子がもちこまれる可能性があるため,帰化植物の侵入,増加を懸念し,5年に1度は帰化植物にも注目した調査を行うことを提案したい.
②座喜味城跡
城跡周辺には見事な琉球列島の固有種のリュウキュウマツが優占するリュウキュウマツ群落が見られる.これ程見事なリュウキュウマツ群落が成立する公園状景観に整備された地域はおそらく座喜味城跡だけと考えられる.その他,座喜味城跡の石垣(城壁)の岩隙には重要植物のトキワトラノオが生育しているといわれているが,今回の調査では生育は確認できなかった.
今後の調査の必要性としては,公園状景観に整備された本城跡のリュウキュウマツ群落は,下草を定期的に刈り取る作業を行っていることで,見事なリュウキュウマツ群落が維持されていると考えられる.そのため、これまで同様に下草の管理(刈り取り)を行うことを要望する.また,松くい虫の被害が想定されるため,管理の際は松くい虫の被害についても注意して観察を行うことをお願いしたい.その効果を確認するため,5年1回の調査を行うことを提案したい.
③知念森城跡
周辺にはノロ殿地,イネ発祥地などもあり一連の観光地としての紹介を提案したい.また,城郭に続く丘陵地に成林する森林については,状態のよい森林であることから,伐採等の管理は行わず自然状態のままにし,森林の生長および極相林への回復をめざしたほうがよいと考えられる.その森林の生長および回復の確認を行うことを目的とし,5年1回の調査を行うことを提案したい.
平成24年度公募研究助成事業成果報告
研究者:東京工業大学大学院生命理工学研究科 研究員 木原久美子
「観光客と地元住民と研究者」の三者協同による「研究とアウトリーチ」の相乗的共益産出ロールモデルの確立
科学イベントでの参加者間の双方向性コミュニケ―ションについて盛んに議論されているが,科学イベントが研究者と一般市民の両者に共益的でない現状がある.本研究では,研究と科学イベントの両者が互いに互いを利用して成長する仕組みを試行し問題点の抽出改善からロールモデルの確立をめざした.
研究は一般市民と研究者を対象に南西諸島地域で行い,科学イベントの実行に必要な条件である,テーマ,実施場所,実施方法,集客方法,科学研究の継続などの各項目について設定を変えながら必要条件を探った.
その結果,科学への低関心層にも基礎科学の重要性を伝えるのは可能で,実施場所と参加者層にあわせたイベント構成に工夫が必要,視認性の良い所での実施は効果的な事,予約なしでは参加しやすいが落ち着かない弊害がある事,科学とは無関係なきっかけが参加者の能動的な参加を促す事,生活の様々な項目の話題が双方向コミュニケーションに重要である事,能動的な科学活動は参加者には敷居が高い事などが明らかとなった.
今後は,ロールモデルの完成と実現に向けて,参加者の能動的科学活動の継続と,観光客をより多く取り込む場所での活動に基づく分析が必要である.
本研究では,通常実施される事がない場所での科学イベントで,科学とは無関係なきっかけが,科学への低関心層を惹き込む事が明らかとなった.この事から,低関心層の生活範囲に科学イベントを持ち込む事は,科学を一般市民に浸透する為の方法として,今後のさらなる実施が推奨される.
また,このような科学イベントでの参加者と研究者の双方向コミュニケーションは,科学のみではなく生活での多彩な出来事が源となって成立するので,研究者は場を読みうまく振る舞うマルチタレントが要求される.科学コミュニケーション活動に向いている研究者の活躍が今後のぞまれるとともに,その活躍の正当な評価方法が確立される必要がある.また,一般の研究者には,才能のあるサイエンスコミュニケーターによる補佐が非常に有効と考えられる.
一般市民による科学活動への能動的かつ継続的な参加にはまだ高い障壁が存在するため,これをどうやって取り除くのかという研究が望まれる.
平成20年度公募研究助成事業成果報告
研究者:琉球大学名誉教授 池田孝之
民間団体による公園管理活動の実態とあり方に関する研究 ―那覇市の公園愛護会、里親制度を事例として―
これまでに住民参加の公園管理を取り上げた研究として,地域の公園管理に参加している住民の実態を把握し,持続的な公園管理方法の考察をした研究はあるが,行政の支援がある公園管理制度に登録する活動団体を扱ったものはない.また,公園管理制度に登録する団体の活動実態を把握し,今後の活動団体への支援策を考察した研究はあるが,公園管理制度における現行の支援の利用実態や重要性の把握までには至っていない.そのため公園管理制度に登録する団体の活動実態と,現行の公園管理制度の運用実態の把握が重要となっている.本研究では,那覇市で実施されている市民参加の公園管理制度である公園愛護会,里親制度(まとめて「公園管理制度」)に登録している団体の活動実態や公園管理制度の運用実態を把握し,公園管理制度の意義と今後の課題を明らかにした.
公園管理制度登録団体の現在の活動としては,清掃等の軽作業が一般的に行われており,参加者の交流を深めるために公園の植栽やイベントを行いたいとする団体もあるが,人材不足や専門知識がないため出来ていない.活動参加者の意識としては,公園環境美化の向上だけでなく,活動を通して地域の人との交流が深まったことも評価されている.
公園管理制度は活動を始めるきっかけになり,公園の美化に対する意識の向上にも繋がるということで多数の団体が必要としている.また,行政の支援は活動の継続や参加者間の交流に寄与している.
*1 普及開発課
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