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  1. 6)有用植物の大量増殖に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

6)有用植物の大量増殖に関する調査研究

佐藤裕之*1・松原和美*1

1.はじめに

パイナップルの増殖は一般的に冠芽や吸芽を挿すことにより行われている。しかし、こうした従来の手法は増殖に時間がかかり、新品種の普及や市場動向に応じた苗生産を行う上で問題となる。組織培養による増殖法は短期間かつ大量に苗生産を行うことができるため、新品種が多いパイナップルにおいて実用化が期待されている。本研究では最も効率のよい培養条件を明らかにすることを目的として、培地組成の検討を行った。

2.材料および方法

植物材料はパイナップル ‘ジュリオスター’を用いた。1mg/L BAを添加した1/2MS固体培地にて維持された多芽体を1シュートずつに分割し実験に供試した。培地は1/2MS無機塩類、20g/Lスクロースを基本に寒天(0g/L、7g/L)、有機物(MSビタミン、ココナッツウォーター)、植物ホルモン(無添加、1mg/L BA、2mg/L BA  0.5mg/L NAA)を添加し、pH5.7に調整した。25℃16時間明記の環境で培養し、寒天を添加していない液体培地を利用した試験区では100rpmで振とう培養を行った。培養45日後にシュート数と重量を調査した。

3.結果

固体培地よりも液体培地の方が、ココナッツウォーターよりもMSビタミンを添加した試験区の方が多芽体重量、シュート数共に大きく増加する傾向にあった(図1, 2, 3)。特に植物ホルモンとして1mg/L BAを添加した試験区にて多芽体重量5.2±0.9g、シュート数14±3.4と優れた結果となった。また、植物ホルモンとして1mg/L BA を添加した試験区では正常なシュートからなる多芽体が形成された。2mg/L BA 0.5mg/L NAA添加した試験区では異常の大きいシュート様の組織が多く形成され、正常なシュート形成が少なかった。植物ホルモン無添加の試験区では正常なシュート形成が見られたものの、増殖率は極めて低く、発根が確認された。

図-1 各培地組成におけるパイナップル培養苗(多芽体)の重量 Free. 植物ホルモン無添加 1B. 1mg/L BA添加 2B0.5N. 2mg/L BA, 0.5mg/L NAA添加 a. 寒天培地, MSビタミン添加 b. 寒天培地,ココナッツウォーター添加 c. ;液体培地, MSビタミン添加 d. 液体培地, ココナッツウォーター添加


図-2 各培地組成におけるパイナップル培養苗(多芽体)のシュート数 (各記号の意味は図1と同じ)


4. 考察

パイナップルの大量増殖については過去に複数の報告があり、植物ホルモンとしてBAなどのサイトカイニンを単独で用い効果を上げた報告や、サイトカイニンとNAAなどのオーキシンと組み合わせることによって効果を上げた報告がある。本調査においては サイトカイニンであるBAを単独で用いた試験区において良好な増殖を示した。

液体培地を用いた組織培養は、固体培地を用いた場合よりも生育速度が速いと一般的に言われている。本研究においては、その違いが顕著に表れ、液体培地において極めて優れた増殖効率をみせた。MSビタミン、1mg/L BAを添加した試験区では苗重量が9.5倍、シュート数は3.4倍であった。

図-3 各培地組成におけるパイナップル培養苗(多芽体)の形態


ココナッツウォーターは植物組織培養に有効な有機物を含むほか、植物ホルモン様の作用があるとされる。ココナッツウォーターは人工的に作られた植物ホルモン(BA, NAAなど)と比較し、培養変異が起きにくいと考えられているため組織培養によく用いられる。今回の実験ではココナッツウォーターを添加し植物ホルモンを添加しなかった試験区において、多芽体形成せず発根し、植物ホルモン様の作用は確認されなかった。この原因として、パイナップルの組織培養にココナッツウォーターが適さなかったか、使用したココナッツウォーターの品質が悪く、十分な効果が得られなかった可能性がある。ココナッツウォーターは一般的に未熟果から採集された新鮮なものの方が良いとされる。今回実験に用いたココナッツウォーターは実験用に市販されている貯蔵品であり、効果が落ちていた可能性考えられる。

5. 今後の課題

今回の実験で苗を効率的に増殖する培地組成が明らかになった。今後は培養苗を養生、結実させ、各試験区で培養変異株が出ていないか確認する必要がある。


*1研究第二課

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