海洋生物の調査研究
山本広美*1
サンゴ礁を構築するサンゴ群集には、大きく分けてハードコーラルと呼ばれる造礁サンゴ類と、ソフトコーラルと呼ばれるウミトサカ類が含まれる。造礁サンゴ類は数百種、ウミトサカ類は一千種を超す非常に大きな動物群である。しかし、ウミトサカ類は外部形態から種を特定することが極めて困難であることから、特に沖縄産のウミトサカ類の分類学的研究は未だ進んでいない。
本調査は海洋博覧会記念公園沿岸のサンゴ礁に豊富に生息するウミトサカ類の種構成や分布特性等を明らかにすることを目的としている。今年度は、平成23、24年度の野外調査によって得られたウミトサカ類の標本から、ウミトサカ科の6属について種同定を行った。
確認されたウミトサカ科の6属のうち、既往文献情報において沖縄海域で多数の種が記録されているウミキノコ属Sarcophyton、ウネタケ属Lobophytumおよびカタトサカ属Sinulariaの3属についてはそれぞれ3種を、オバナトサカ属(仮称)Aldersladum、ノウトサカ属Cladiellaおよびヤワトサカ属Klyxumの3属についてはそれぞれ1種について同定を行った。
種同定は、前年度に得られた液浸生物標本、DNA標本、永久プレパラート標本、SEM用骨片標本を使用し、生物標本及び骨片標本の解剖と計測、文献及び参考標本との照合を通して行った。
群体全体の高さ、幅、奥行き計測し、樹木状の群体の場合は、枝の計測とともに特徴的な形状、分枝様式、分枝の方向も記録した。ポリプの分布状態も観察、記録した。
八放サンゴ亜綱のポリプは小さいため、デジタル顕微鏡のモニターで形態の記録と計測を行った。ポリプが二型を示す属の場合は部位ごとに、隣接する通常ポリプ間に存在する管状ポリプの数を記録した。
骨片の形状の観察や大きさの計測は、骨片のSEM標本や、永久プレパラート標本を用いて行った。また、骨片の形状は論文等を参考にし、汎用性の高い用語で表現した。
得られたデータをもとに、既知種との照合を行った。群体とポリプの外部形態と色彩、骨片の外部形態や付属する棘などの微細な構造の違いや、大きさの違いなどで照合を行った。
2種の日本初記録種を確認した。加えて、ナガエダオバナトサカ(仮称)Aldersladum cf. jengiとセンジュノウトサカ(仮称)Cladiella australisの2種は、これまでに琉球諸島からの記録はあったが、当該調査海域からは初めての記録である。さらに、種内変異や骨片のSEM画像を含む詳細な記載を行ったことで、これらの2種に関する分類学上の知見を大幅に補強することができた。オオウミキノコSarcophyton glaucumやヤナギカタトサカSinularia flexibilisのように一般的に広く知られている種についても、これまでに刊行された論文や市販図鑑類では掲載されることの少なかった骨片のSEM画像を掲載することにより、種の特徴をより明確にすることができた。
今後も、同定に必要なさまざまな部位の標本写真および骨片のSEM写真撮影を行い採集された標本の種同定を進める。各属の代表的な種についての解説を含む属単位での図録作成に向けたデータ整理を行う。
さらに、これまでの野外調査で得ることのできた多数の標本について、形態学的および分子生物学的研究を進めることにより、各種の実体解明を図る。その成果は生体や標本の展示、図録の刊行、ホームページでの公開などを通して広く普及に努めたい。
*1研究第一課
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