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  1. 5)希少水生生物に関する調査
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

5)希少水生生物に関する調査

岡慎一郎*1

1.リュウキュウアユ

図-1 放流直後のリュウキュウアユ(全長約3cm)
図-1 放流直後のリュウキュウアユ(全長約3cm)

図-2 リュウキュウアユの潜水観察
図-2 リュウキュウアユの潜水観察

リュウキュウアユは琉球列島固有亜種であり、環境省および鹿児島県のレッドリストでは絶滅危惧種に指定されている。沖縄島では1980年代初頭には河川環境の悪化等を原因として絶滅した。その後、地域住民等の活動により河川環境は改善され、かつては多くのリュウキュウアユが生息していた名護市源河川には1992年からほぼ毎年稚魚の放流がなされている。しかし、放流後の追跡調査は少なくとも近年は行われておらず、現在の再生産の有無についても明らかでなかった。

当財団では、平成24年から源河川における放流アユの動態に着目した調査を実施しており、産卵場および産卵行動の確認に加え、ふ化後に海域での生活を終えた稚魚の遡上もわずかながら確認できた。

平成25年度は、4月に源河川で放流した約2700尾の産卵期までの河川内での動態の把握を目的として、リュウキュウアユの全分布範囲を対象に潜水観察によるアユの分布調査を実施した。

その結果、放流1週間後における河川内の生息数は約400尾に激減し、5月以降は150尾前後で概ね安定した。特に放流直後の激減については、この間に生じた2度の増水によって、遊泳力の乏しい稚魚が流されたものと考えられた。また、この激減は下流域の放流地点付近で著しく、下流域は放流地点として不適である可能性が考えられる。従って、今後の稚アユ放流は、中~上流域を中心に行い、降雨等の気象条件にも十分配慮する必要性が指摘できる。

5~9月のアユの分布は、中~上流域に偏っており、中流は個体数が少ないものの魚体が大きく、一方で上流域は数が多くサイズが小さい傾向が認められた。また、中~上流域の境界にある高さ約5mの砂防堰堤の上琉における個体数は、月を経る毎に増加しており、当堰堤の魚道が機能していることも確認できた。

産卵期直前の12月になると、大半の個体が全長15cm以上に成長しており、その分布も産卵場近くの下流域に集中していた。その中には婚姻色を呈した個体も多く、このとき確認された約140尾の大半は産卵に参加する可能性が高いと判断された。なお、産卵場付近の親アユの個体数は、平成24年度とほぼ同数であり、平成25年度も同等規模の産卵が行われたと推察される。

2.ヤシガニ

図-3 調査で発見されたヤシガニ
図-3 調査で発見されたヤシガニ

図-4 ヤシガニの調査状況
図-4 ヤシガニの調査状況

陸棲最大の甲殻類であるヤシガニは、分布域である熱帯~亜熱帯諸国において乱獲や生息地の現象のために資源が減少傾向にあり、本邦においても環境省および沖縄県のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている(図3)。海洋博公園に生息する個体群は、本種のまとまった生息域としては北限に相当する貴重な個体群であり、当財団では平成18年度から生態把握を目的とした調査を展開している。

平成24年までに、主な生息環境、繁殖期や成長などの陸域生活史の概要が概ね明らかにされた。平成25年度は、確認個体の増加によって既存情報を補足するデータを得ることと、主な活動時間を把握することを目的とし、ヤシガニ頻出期の6~9月に定期的に日没前から日出後の夜間踏査による調査を実施した。

その結果、合計64個体のヤシガニが確認され、このうち甲殻の模様から識別された再捕個体はのべ25個体であり、従前調査を含めた再捕例は合計121例となった。これらの情報に基づき、現在、成長・移動・個体数推定に関する各種解析を行っている。

また、ヤシガニの発見は日没直後から日出までに限られており、特に日没直後から午前4時の間には徘徊する個体を多く確認した。したがって、ヤシガニの行動はこの時間帯に活発であることがわかり、今後ヤシガニの観察会などを実施する場合に有益な情報となり得る。

これらの研究成果は、公園管理への有益情報としての活用を視野に入れるとともに、学術論文としての成果公表にも注力している(平成24年度は2報が受理・掲載)。本年度までの調査で公園内における生態情報は概ね把握できたと判断し、毎年の調査は平成25年度で一旦休止する。しかし、貴重な北限個体群の保全上の観点から、5年に1回程度のモニタリング調査は実施する予定としている。


*1研究第一課

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