亜熱帯性植物の調査研究
西表島(沖縄県八重山郡竹富町)は、その亜熱帯特有の生物相と島嶼環境がもたらす希少性から奄美大島、徳之島、沖縄島北部とともに2021年に世界自然遺産に登録され、注目されている地域の1つである。西表島の植物相に関しては、登録に際しても様々な希少種が生育することが示されているが、植物相に関する情報は、各種の情報が断片的に報告されているにとどまる。これまでに島全体の植物相に関するまとまった調査・研究は行われてきておらず、その全貌が明らかになっているとは言い難い。そこで当財団では、琉球大学、鹿児島大学などの研究機関とともに平成29年度より本事業を開始し、西表島全域の野外踏査を実施している。さらに過去に採集された西表島産標本情報を集積すべく鹿児島大学、京都大学、琉球大学において標本調査を進めている。令和3年度に実施した現地調査及び標本調査の結果を中心に報告する。
1) 現地調査
調査は、昨年度と同様に全島をくまなく踏査するように実施した。また令和元年度、令和2年度に引き続き、琉球大学のトランセクト調査へも参加した。採集標本は沖縄美ら島財団総合研究センターの植物標本室に(トランセクト調査での採集標本は、琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設に)収蔵した。
2) 標本調査
鹿児島大学総合研究博物館 (KAG)、京都大学総合博物館 (KYO)について令和2年度に引き続き共同研究契約を締結し、琉球列島産標本の画像取得・データベース化を行った。東北大学(TUS)においても西表島産標本のデータベース化と画像取得を行った。国立科学博物館(TNS)のホームページ上で公開されている画像付き標本データベースからも西表島産の標本を抽出し、画像から同定をチェックした上でデータベースに加えた。
1) 現地調査
現地調査は、令和3年4月~令和4年2月までの間の延べ21日間実施し、約300種、370点(重複標本を含まない)の標本を採集した。この間、琉大のトランセクト調査には全部で4地点参加した。(トランセクト調査において採集された標本は琉大のコレクションとして扱われるため原則として上記の数字には含まれない)。
西表島産の外来植物についてまとめた「沖縄県西表島における外来植物目録」(梶田ほか、2022)が2022年3月に掲載予定である。 今年度は、島中央部や西南部などアクセスが困難な地域での調査を実施したため、調査に時間を要した。今後も同様に、アクセスが困難な地域での調査が中心となるが、既調査の場所においても時期を変え再訪し、補完的な調査を行うとともに開花・結実時期の確認など植物季節の解明にも努める。
2) 標本調査
当財団所蔵の標本の整理、貼付とデータベース化を進め、令和4年3月末段階で西表島産1,468点をデータベースに登録した。KAG、KYOとの共同研究の結果、西表島産標本に関してそれぞれ2,208点(KAG)、1,398点(KYO)の画像取得、データベース化が完了した。東北大学においても琉球列島産標本を抽出してデータベース化を行い、現段階で2,425点をデータベース化した。TNSの標本画像データベースからも西表島産外来植物標本の抽出を行い、その成果は上記の「沖縄県西表島における外来植物目録」にも反映させている。
コロナウイルス感染症の蔓延のため、令和3年度に予定されていた西表植物誌編纂委員会は延期となった。リモートで編纂委員会を行える体制の構築が急務である。
コロナ禍にも関わらず、良くfield調査をされて評価する。フロラの調査は時間との兼ね合いもあり、余りモノグラフ的に寄りすぎず、それは後に補完し、現状ではfield調査と標本蓄積を重点的にされたい。学術活動で、公園関係及び産業関係とのからみは少ない(小山顧問:高知県立牧野植物園 顧問)。
殆ど手つかずの島の植物相の全容が解明されれば、保全や利用に資するところ多大である。研究が予定通り進捗し、植物誌の出版がみられるのが楽しみである(唐澤顧問: ラン研究家)。
*1植物研究室
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