1. 3)資料収集・修繕事業
沖縄美ら島財団総合研究所

琉球文化の調査研究

3)資料収集・修繕事業

鶴田 大*1 安里成哉*1

1.はじめに

写真1
写真-1 闘鶏図(闘鶏早房之図):
首里王府の絵師・毛長禧(1806~1865)が1843年に
描いたとされる。画像は修復を終えて表装裂を本紙に付
けて仮貼りした状態(左)と修復を終えた本紙(右)。

本事業は、当財団所蔵の「闘鶏図(闘鶏はなたれ之図)」(以下、本資料という)の修繕事業である。財団には琉球王国時代の「闘鶏図」が本資料を含めて3点あり、三幅対として同一の桐箱に収納されてきた。3点とも経年の劣化損傷が著しく、早期の修繕が必要であったため昨年度から3カ年事業として「闘鶏図」3点の修繕事業が開始された。本資料の修繕はその第2回である。修繕に当たっては掛軸の解体を伴うため、科学調査も同時に実施した。
今回の解体修理・科学調査および関連調査により新たな知見も得られた。「闘鶏図」3点は元々は別々の作品であること、表装裂の素材の詳細などである。こうした知見は本資料の修繕と共に今後の展示等にも有効なものとなる。

2.解体修理と科学調査

写真2
写真-2 次年度修理予定の「闘鶏図(闘鶏花房之図)」の
詳細を観察している箭木氏(墨仙堂)


写真3
写真-3 蛍光X線調査の様子

1)解体修理および関連調査
解体修理は表具店・墨仙堂(京都市)が担当した。解体により明らかになったのは、これまでに大規模な解体修理が1回以上実施され、表装裂が改められていること、破損部分の修繕(本紙の欠損部分の補紙など)も古い時期に実施されていることなどである。

表装裂については本資料の制作当時のものでないとみられるが、一定の歴史性があることを考慮し、元表装の裂地・形式を用いることとした。
本資料の修繕は全面的な解体修理を実施した。本紙については汚れの除去・損傷箇所への補修・補彩を実施。折れの箇所には折れ伏せ紙を入れた。裏打ち紙は薄美濃の楮紙(肌裏)・美栖紙(増裏・中裏)・宇陀紙(総裏)を新たに打ち直し、四層の裏打ちを施した。また従来の表装裂により隠れていた描写部分もみえるように裂の付け廻しを修正した。
表装裂は先述の通り、歴史性を重んじ、元表装の裂を用い、裂地を整えつつ本紙同様に四層の裏打ちを施した。
また将来的な損傷を最小限に抑えるために太巻添軸を誂え、掛軸を太めに巻くようにした。桐箱については従来の三幅対一箱を改め、1点ごとに一箱とした。これは3点が元々独立した作品であると判明したためでもあり、また1点ごとに展示・貸し出しを行う便宜等、保管上の利点を考えたためでもある。
本作品が毛長禧作の「闘鶏図(闘鶏早房之図)」としたのは鎌倉芳太郎であり、その根拠は①本作品は画風が毛長禧の基準作「闘鶏図(闘鶏花房之図)」と同一である ②毛長禧の家譜に「闘鶏図(闘鶏花房之図)」と同年に描かれたとある「早房御鶏一枚」がこれに当たると考えられる という2点である。毛長禧の基準作「闘鶏図(闘鶏花房之図)」の画賛には「1843年に尚育王の命により佐渡山安健(毛長禧)が『花房』という名の闘鶏を描いた」という内容が明確に記述されている。しかし作者の特定については、上記の通り、根拠が明示的でないので今後、詳細を検討していく必要がある。

2)科学調査
本図の色材については蛍光X線調査(仲政明氏 嵯峨美術大学)・分光色材調査(佐々木良子氏 京都工芸繊維大学)を実施し、本紙料紙については繊維組成試験(高知県立紙産業技術センター)を、また表装裂については繊維鑑別及び染料部属判定試験(京都市産業技術研究所)を実施した。
本図の色材調査についての詳細な分析結果はとりまとめ中であるが、白色部分の複数箇所から鉛白が検出されるなど琉球王国時代の絵画の特色がうかがえる。
本紙料紙の試験では、青檀繊維・稲藁繊維の混合と判明。素材に合わせた補修・補紙作業を行った。表装裂の試験では経糸が絹、緯糸が木綿と判明。また藍色は直接染料によるものであり20世紀初頭以降の裂であること、つまり作品制作当時のものでないことが確認された。
これらの科学分析結果については佐々木氏を研究代表者として2022年度6月の文化財保存修復学会で発表報告される予定である。

3.まとめ

本年度の修繕業務により本資料が十全に修復され、安心して展示ができるようになった。また解体修理を機に実施された様々な調査により、本資料についての知見は飛躍的に高まった。作者同定という新たな研究課題についても取り組んでいきたい。集約された作品情報は展示業務の際の企画・キャプションにも有効に活用されることが期待される。
次年度は3点目の闘鶏図の修繕業務が進められる。次年度以降も調査による知見を深め、「闘鶏図」の絵画史的な位置づけや美術作品としての魅力を把握し、展示業務に活かせるよう、業務を進めていきたい。


*1琉球文化財研究室

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