1. 1)琉球食文化に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

琉球文化の調査研究

1)琉球食文化に関する調査研究

久場まゆみ*1・勝連晶子*1

1.はじめに

琉球文化財研究室では、琉球・沖縄の伝統的な食文化の保存・継承や産業振興、首里城公園等の管理施設における展示解説等に資することを目的として、琉球・沖縄の食文化に関する調査研究を行っている。

2.調査研究の概要

写真-1 美榮の料理工程記録保存(クーリジシ盛り付け)
写真-1 美榮の料理工程記録保存(クーリジシ盛り付け)

1)琉球料理「美榮」に関する調査研究
当財団の関連会社である(株)琉球食文化研究所が経営する「琉球料理 美榮」(以下「美榮」とする)と連携し、料理の保存継承を目的として、レシピの記録を実施している(写真-1)。
令和3年度は「ソーキ骨(あばら肉の骨付)の吸物」や沖縄の旧盆料理である「クーリジシ」などの汁物、沖縄の野菜を使用した「ヘチマ炒め」、「ごえくいりち(ゴボウ炒め)」、「田芋ジュース」など9品の調理を記録撮影した。うち一品「豚肉ともやしのピーナッツ和え」は、創業者・古波藏登美氏ののこしたレシピノートに記録された料理から再現試作したものである。今後も美榮と協力し、保存されてきたレシピ等の資料から伝統的な料理の再現を試み記録したい。

2)文献資料に記録される食文化情報の調査
琉球王国時代の食文化を歴史的側面から解明するため、古文書の調査を行っている。今年度は尚家文書60号「辨之嶽御遊覧之時御次第」を翻刻した。
本史料は道光18(1838)年の、第二尚氏王統第18代国王尚育の冊封に関する記録である。尚育冊封のため来琉した冊封正使:林鴻年と副使:高人鑑の両勅使と阿口通事(通訳官)ら冊封使一行の「辨之嶽」(弁之御嶽)見物および御取持=接待に備えた次第書である。
この史料によると、遊覧当日は辨之嶽だけではなく、琉球の摂政・三司官宅における招請が通例となっていたようである。同年も先例に倣い、当日の朝、冊封使一行はまず三司官の與那原親方宅にて王府高官らが出迎え、お茶や「御料理十二碗」(随行の使節には「八碗之料理」)が供されることになっていた。その後14時頃には辨之嶽へ向かい、到着するとお茶や「御攢盆」、お酒が振舞われる。「御攢盆」は琉球のもてなしの際に使用される器「東道盆」のことと考えられる。これに加えて相伴の役人らは提重も用意することになっていた。
さらにその後、摂政の浦添王子宅にてお茶、お菓子、「御料理十六碗」、「御攢盆」、お酒が振舞われ、その間には躍りも披露された。およそ一日がかかりの饗応であったことがわかる。
冊封使節の饗応というと、崇元寺や首里城で執り行われる首里王府主催の七宴がよく知られているが、上述のように、王府高官による接待もあった(「小宴」と呼ばれる)。本史料は残念ながら、献立の記載は含まれず、どのような料理が振舞われたのか詳らかではない。しかし、琉球の人がどのように客人をもてなしたかを提示することのできる事例であると言える。

3.ヒアリング調査・意見交換会

首里の食文化調査のため、12月16日、戦前から首里当蔵にお住いのH氏(昭和10年生)にご協力いただき、ヒアリング調査を行った。本調査では、まず、かつて首里で食され、販売されていた琉球菓子「ティーサーアン」について、H氏による古老への聞き取り内容:菓子の色・形状・食感、それを基にした再現・試作、作り方等を伺った。また、戦前食されていた野菜「ウクマーミ(フジマメ)」についてもお話を伺った。ウクマーミはかつて、中身の吸物の具材として欠かせないものであったと言われているが、その調理方法については不明な部分が多かった。H氏は戦前、祖母と首里城の赤田御門の石垣の外側に生えていたフジマメを収穫した経験があること、調理については、(生の)莢の場合は青い豆を取り出して、出し汁で豚の中身(胃や腸)や肉、椎茸と一緒に煮たこと、乾燥した豆の場合は(H氏の母の教えによると)豆を茹でたのち、皮を剥いて中の豆を取り出し吸物に入れたことなど、ご教示いただいた。
加えて、昭和14年頃から首里城・二階御殿の中にあった城内食堂について伺った。H氏の祖母が食堂で調理を担当しており、自身も頻繁に食堂へ出入りしていた経験から、首里市役所による開業の経緯、建物内の配置、食器は古伊万里といった上質な物が用意されたことなど、思い出も交えてお話してくださった。
12月25日には、当室の研究顧問である西大顧問・安次富顧問、琉球料理美榮の女将・古波藏氏、料理長の平川氏とともに、当調査研究業務に関する意見交換を行った。過年度に翻刻した尚家文書498号「百浦添御殿御普請日記」に掲載された、首里城で振る舞われた祝儀の料理献立(一部)の情報を共有し、研究顧問や美榮の協力を得ながら、今後、料理の再現に向けて始動することを確認した。

4.普及啓発

以下の大学・小学校における講座・授業において、講師を務め、沖縄の歴史と食文化、財団の食文化調査研究業務の内容について紹介・解説した。
・2021年7月1日 琉球大学寄附講座(第12回)「琉球・沖縄の食文化」
・2022年2月17日 名護市立大宮小学校・5年生「沖縄の食文化」
・2022年2月18日 名護市立緑風学園・5年生「沖縄の歴史と食文化」

また、令和4年2月19日(土)~3月13日(日)に首里城で開催された「琉球の華みぐい」の関連イベントとして「琉球お菓子作り体験」が2月19・20・23日の3日間行われた。沖縄県認証の琉球料理伝承人とともに、ちんすこう作りの講師を務め、琉球王国時代より伝わる菓子の紹介、歴史背景について解説した。

5.外部評価委員会コメント

・琉球食文化を資源化する事業であり、その活用可能性に期待が持てる取り組みである(高良顧問:琉球大学名誉教授)。
・王国時代の料理の再現は社会に還元する力は大きい。成果が急がれる。美栄料理の記録保存資料の活用方法について具体的な検討が必要。料理に使用されてきた食材の研究はセンターならでは今後の活動に期待(西大顧問:生活文化研究所 西大学院学院長)。
・尚家文書60号の翻刻。高官宅における小宴の事例などの研究が進み、より具体的に表現され、公園催事などで具現化されることを望む。
比嘉文子さんや首里人文化研究会のメンバーの聞き取りを行ったほうがよい(安次富顧問:安次富順子食文化研究所所長)。


*1琉球文化財研究室

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