１. はじめに

琉球文化財研究室は、首里城に関する資料収集、調査研究、技術開発及び普及啓発を行うとともに、首里城公園管理部が維持管理を行う首里城公園の利用促進につながる活動を推進する。
令和元年10月31日未明、首里城は火災によって正殿をはじめ、南殿･番所、書院･鎖之間、黄金御殿、寄満、北殿等の建造物の他、美術工芸品等が焼失した。そのため令和2年度は主たる事業として、その被害調査を実施し、美術工芸品等管理委員会を運営、委員への報告を行い、今後の管理方法や修繕計画について提言を頂いた。

２．実施体制

琉球文化財研究室の体制は正職員6名、フルタイム専門員3名であった。12月からは伝承者育成事業担当として補助職員1名を採用した。
また首里城公園管理部事業課との連携は継続して実施した。

３．実施内容

１）琉球食文化に関する調査研究

琉球料理 「美榮」の料理について記録を保存した。また、王国時代の食文化に関する先行研究等を収集した他、尚家文書や琉球の役人の記録、鹿児島調査を実施し薩摩側にのこる史料から料理に関する記述を収集・抽出し、一部翻刻作業を行った。加えて、沖縄県立博物館・美術館において成果報告会「琉球・沖縄の食文化の探求」を開催した。

２）首里城関連施設における室内空間の史料調査（首里城書院･鎖之間展示検討業務より名称変更）

首里城公園内に復元された書院・鎖之間の床の間等について、再建時における空間を再現する検討を行うため、王国時代の資料や先行研究等を収集した。加えて、『沖縄文化協会2020年度公開研究発表会予稿集』へ研究結果を寄稿した。

３）修繕事業

・収蔵品修繕事業

財団所蔵絵画資料のうち、慎思九の「闘鶏図（闘鶏はなたれ之図）」の修理を行った。解体修理を行い、従来表装裂にて隠れていた部分についても見えるように裂の調整を実施した。

・染織理化学調査業務

財団所蔵染織資料のうち、今年度は、これまでの分析結果を整理した。鹿児島県の琉球関係資料を所蔵する3つの施設に機関において、実物品および文献資料の調査（資料の採寸・撮影）を行い、多くの調査データを収集することができた。

・清代中琉関係档案選編刊行助成

台湾故宮博物院・琉球大学と連携し、台湾故宮に眠る琉球関係档案の史料集刊行事業実施の調整を行った。また過年度助成の資料集『清代琉球史料彙編琉球国志略、続琉球国志略』が完成した。

・漆塗装検討業務

琉球王国時代の沈金技法の復元のため、過年度調査した財団所蔵丸櫃に加え、浦添市所蔵の丸櫃の展開写真及び透過X線写真を整理し検討を行った。
琉球産弁柄について、名護市久志集落で採取した天然BIOX弁柄を基に試作手板を作成し、屋外暴露試験の準備を行った。また、集落内にてBIOX弁柄の製造に向けた試験を開始した。今後の調査等についての事務調整を実施した。

・祭祀等に関する調査

琉球王国時代の首里城やその周辺で執り行われた祭祀儀礼について、先行研究の整理や資料収集、調査を実施した。ただ、令和2年度は、コロナウィルスの影響により、様々な年中行事が取りやめとなり、首里地域の年中行事についてのヒアリング調査を主たる事業とした。

４）受託研究

沖縄県立博物館・美術館が発注の琉球王国文化遺産集積・再興事業を㈱国建と共同企業体を組み受注した。3分野の工芸部門（木彫・漆芸・三線）で復元製作委託業務を行い、3分野5件が完成した。また伊是名村発注の銘苅家･名嘉家旧蔵品修復復元業務を受注、漆器の修理と復元製作、古文書、金工品の修復を行った。これらの受託業務は、これまでの財団の文化財復元研究のノウハウを活かし効率的に業務を実施することができた。これらの受託業務の成果は、将来、首里城公園の展示に資する復元製作研究へ応用される。また沖縄県文化振興課発注の「沖縄食文化保存・普及・継承事業」を共同企業体で受注し、ワーキングチームの運営や検討委員会へ参加した。「琉球料理担い手育成講座」については、コロナウィルスの影響により動画撮影となったため、実施協力のみとなった。新たなネットワークにより、情報の収集等、多くの知識を得て、研究を深める機会としたい。

５）伝承者養成事業

文化庁からの助成を受け、琉球建造物漆塗及び琉球赤瓦製造について、技術者養成事業を行った。関連する専門家を招いた座学や製作実習を実施したが、コロナウィルスの影響により県外修復現場等への視察は中止した。

６）普及啓発事業

・首里城収蔵品パネル展

首里城の火災から1年が経過、これまでの被害調査の経過や、今後の修理計画について県民の皆様に解説するパネル展を実施した。併せて被災した資料の展示を実施した。

・国宝尚家文書複製本製作事業

那覇市歴史博物館所蔵の、琉球王国時代の士族の家譜をスキャニングし、デジタル化（CD-ROM）を継続予定であったが、首里城火災及びコロナ禍による事業の見直しのため、今年度は事業を見送った。

４．外部評価委員会

当室の事業概要報告及び23件の課題管理シートに基づき評価を踏まえて、研究顧問より多くの意見をいただいた。
委員：高良　倉吉（座長・琉球大学名誉教授）
西大八重子（フィニシングスクール西大学院院長）
安次富順子（安次富順子食文化研究所所長）
喜名　盛昭（中国民族音楽研究家）
評価すべき点として、
・琉球料理美栄で実施した友の会のコンパクト講座では参加者の反応も大きかったとのこと、上質の食事と食の歴史的背景について少人数で学ぶことのできる豊かな時間は、客単価は高くとも求める方はいると思われる。今後は伝統芸能も加えた事業に発展させてほしい。
・「収蔵品修繕業務」は、美術工芸品の修理・復元プロジェクトに寄与する財団の役割を発揮する事業である。
・「被災資料調査・修繕・複製品製作」は、財団の役割や存在意義を発揮する取り組みであり、特筆すべき事業である。
・「県博別途受託 琉球王国文化遺産集積・再興製作事業」は財団の蓄積や人材を発揮できる重要な事業であり、今後の方向性が示された。
・「琉球建造物塗装及び古瓦製造伝承者養成事業」は伝統技術の解明と人材育成の必要性が強調されているが、その先行的取り組みとして特筆できる。
見直すべき点としては、
・「琉球食文化の調査研究」について、首里城にある衣（装い）食（料理）住（美術工芸品）音楽（伝統芸能）はそれぞれがつらなりとなって一つの空間に存在している。今後は映像技術などを生かして臨場感のある展示方法の開発に力をいれてほしい。

５．今後の課題

琉球文化財研究室における調査研究事業は、公園機能の向上、文化環境の保全・継承、首里・沖縄地域の文化・産業振興、財団の発展の４つの方向性から見ると、これまでの首里城公園の運営面から派生した復元研究の実績により、公園機能の向上や文化環境の保全・継承、首里・沖縄地域の文化・産業振興に力を入れた事業内容となっている。
今後とも、首里城及び琉球王国の歴史文化に関する調査研究をさらに深化させながら、地域の自治体や事業や地域振興に貢献する活動を行っていきたい。
令和3年度も沖縄県立博物館・美術館や伊是名村から復元製作業務、県の沖縄食文化の保存・普及・継承事業を受注した。これまでの当財団の復元製作のノウハウが外部から評価されたことと思われる。これからも首里城公園の維持管理だけでなく、文化・産業振興の発展に大きく寄与できるよう、室員全員で調査研究に励んでいく所存である。
また首里城火災により被災した美術工芸品について、本格的な修理が開始されるため、適切に実施していくほか、沖縄県立博物館・美術館にて被災関連の展覧会を開催し、首里城復興への普及啓発を行っていく。

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*1琉球文化財研究室