1. 2)琉球染織資料の調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

琉球文化の調査研究

2)琉球染織資料の調査研究

宮城奈々*1

1.はじめに

平成30年度より継続中の本調査研究は、近世琉球の苧麻布および芭蕉布の糸・布の製作技法と品質に着目、実物資料の糸の形状・製法、布地の密度・質感を目視し、調査で収集したデータを比較・分析することで、製作技法・品質について検証し、その特性を明らかにしていくことを目的としている。併せて、琉球国に産する植物繊維ではないが、現存する衣裳類に多く見られる「桐板」も、上記繊維との比較資料として研究対象とした。
近世琉球における苧麻布および芭蕉布は、対外交易における進易品、毎年の定納布、国王王家の諸注文、江戸立の使者による諸注文等々の公的な用途向けに国内で製作されてきた。苧麻布および芭蕉布は、膨大な数量と多種類の織技法、そして高い品質が求められており、それらに対応し得る糸・布の製法が近世琉球に完成していたことを示しており、琉球国の重要な産物として位置づけられていたことが近世琉球の文献史料に窺える。
近世琉球に製作された染織品類が、沖縄県内・県外・国外等の文化財をコレクションする公的機関(個人所蔵もある)に保管されており、現在まで沖縄県教育委員会文化財課はじめ、染織研究者、大学研究室、当財団等による調査研究が行われている。これまでの主な調査研究では、染織品の模様や色等の織物デザインに焦点を当てた調査研究は報告されているが、繊維に関する調査研究は十分とは言えない状況である。本研究では、近世琉球の公的な用途に使われた苧麻布と芭蕉布の糸・布製法、品質の特性を明らかにするため、県内外に保管される中でも、高品質の実物資料の目視調査データを収集する計画である。
本年度は、琉球関係資料を所蔵する鹿児島県日置市に所在する旧外相東郷茂徳記念館、鹿児島市所在の鹿児島県立図書館と鹿児島県歴史・美術センター黎明館において、近世琉球に関係する古文書史料および実物資料の調査を実施したので、概要を以下に報告する。

2.鹿児島県における調査実施

1)玉山神社の伝来資料

日置市美山の玉山神社に伝来する資料(18-19世紀)は、現在同市教育委員会の管理の下、旧外相東郷茂徳記念館に寄託されている(写真1、写真2)。その伝来資料の内、近世琉球と薩摩藩との関係史料かと思われる芭蕉布幟と麻布幟の調査を行った。芭蕉布幟には「奉寄進 元治元年子八月吉日 朴姓 匡達」(1864年)、麻布幟には「奉寄進 安永九子 朴□長 八月吉祥日」(1780年)と墨書きによる銘記があることから、年代が明確な資料である。18-19世紀の中で、薩摩藩下の琉球国から何らかのかたちで薩摩藩に献上された芭蕉布・上布類(苧麻)であると想定し、糸の形状・撚りの有無と撚り方向、糸製法・布密度・布地の質感等のマイクロスコープによる観察を行った(写真3、写真4、写真5)。

2)鹿児島県立図書館(写真6、写真7)

同館では、主に冊封使の来琉に備えるための食品類や染織品類を含む様々な物品類が記される「支那冊封使来琉諸記」上巻・下巻、近世琉球の士族や百姓の服装・服飾品等がスケッチされた「沖縄人物図」等をはじめ、合計11点の貴重文献資料の書誌調査撮影を行った(写真8)。郷土資料室では、明治期の沖縄県で使用された植物染料に関する文献資料の閲覧・複写を行った。

3)鹿児島県歴史・美術センター黎明館(写真9、写真10)

同館では、文献資料8点と実物資料(着物)5点の調査と写真撮影を行った。文献資料は江戸立関係資料および琉球士族から薩摩藩に宛てた書状等を採寸・写真撮影(写真11)、実物資料は芭蕉布製・苧麻布製等の着物を写真撮影し、マイクロスコープを使用して観察調査を行った。同館に所蔵される実物資料の中でも最も重要な芭蕉布製衣裳資料が、民俗分野常設展示室のケース扉が開けられなくなっている状況のため、展示ケース越しの目視のみとなり、次回の再調査を希望したい。

3.まとめ

本年度は、鹿児島県の上記3機関が所蔵する琉球関係資料の書誌調査と実物資料調査を行ったが、近世琉球の奄美大島で製作された上質な芭蕉布製ノロ衣裳、琉球と薩摩に関係する実物資料については情報収集できず、今後の課題としたい。
本調査で収集した画像データの整理・分析については次年度に実施、報告する。

4.外部評価委員会コメント

琉球染織の技術を解明すると同時に、今後の修理にも応用できる取り組みである。(高良顧問:琉球大学名誉教授)。

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    写真1 旧外相東郷茂徳記念館正面出入口
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    写真2 日置市職員による染織資料の出し入れ
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    写真3 マイクロスコープで調査
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    写真4「芭蕉布幟」拡大(×55)
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    写真5拡大(×220)

  • 写真6 図書館構内の説明版「鶴丸城二之丸跡」

  • 写真7 図書館正面出入口

  • 写真8 館内で職員立会(1名)のもと資料調査

  • 写真9 黎明館出入口前に設置された碑「史跡 鶴丸城跡」

  • 写真10 黎明館出入口の「鶴丸城 御楼門」(複製)

  • 写真11 センター内で職員立会(1名)のもと資料調査

*1琉球文化財研究室

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