1. 1)琉球食文化に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

琉球文化の調査研究

1)琉球食文化に関する調査研究

久場まゆみ*1・勝連晶子*1

1.はじめに

琉球文化財研究室では、琉球・沖縄の伝統的な食文化の保存・継承や産業振興、首里城公園等の管理施設における展示解説等に資することを目的として、琉球・沖縄の食文化に関する調査研究を行っている。

2.調査研究の概要

写真-1
写真-1 美榮の料理手順の記録保存
1)琉球料理「美榮」に関する調査研究

平成28年度より、当財団の関連会社である(株)琉球食文化研究所が経営する「琉球料理 美榮」(以下「美榮」とする)と連携し、料理の保存継承を目的として、レシピの記録を実施している。
令和2年度は「イカのすみ汁」、「大煮(うーにい)」や沖縄の年中行事の際に作られる「ムーチー」や「フチャギ」などの菓子も含めた6品の調理を記録撮影した(写真-1)。
また、新たに美榮関係資料を収集した。昭和33年創業の美榮は、昭和35年に久茂地の現在の場所に店舗を新築した。その建築・移転にかかる写真や創業者の古波藏登美氏に関する写真等を追加収集し、電子化・整理中である。

2)文献資料に記録される食文化情報の調査

琉球王国時代の食文化を歴史的側面から解明するため、琉球、薩摩の史資料の調査を行っている。今年度は宮古および八重山に関係する資料にも焦点を当てて以下の史料の調査を行った。
尚家文書483号「両先嶋御検使日記」(原本は那覇市歴史博物館所蔵)より、料理献立・食材等の情報を抽出・翻刻した。同史料は、咸豊6(1856)年に首里王府より両先島(宮古・八重山)へ行政監察官としての役割を担った検使が派遣された際の記録である。同文書中には、同時代に王府より宮古統治のため派遣されていた在番(常駐官)や供の者を招請する際の献立・膳部、使用する食材や調味料、各村で負担する食材等のリストが記載されており、当該部分の翻刻を行った。
また、沖縄県立図書館架蔵の「大浜家文書」や「八重山博物館所蔵文書」(いずれもマイクロ複製本)に含まれる竹原家や糸洲家ほか、八重山士族の家文書としてのこされた記録から、祭礼の供物(三味物)や法事、婚姻、生年祝等にかかる膳符(献立)の記録を閲覧・複写収集した。明治中頃から昭和20年代にかけての記録になるが、琉球王国時代より引き継がれてきた献立の可能性がある。八重山の食文化のみならず、首里・那覇から八重山地域への食文化の伝播を考察するための史料ともなると考えている。今後は、琉球大学附属図書館「宮良殿内文庫」所蔵資料や金城須美子『宮良殿内・石垣殿内の膳符日記』、『石垣市史』によって翻刻発表されている膳符等の史料とも比較研究していきたい。
12月には、鹿児島県立図書館、鹿児島県歴史資料センター黎明館(令和3年4月に鹿児島県歴史・美術センターへ改称)において資料調査を実施した。薩摩(鹿児島)に置かれた琉球の出先機関「琉球館」における接待の記録「琉球館上使取持次第」や正月儀式の際に使用する道具類を描いた「旧薩藩庁に於て正月公式膳の式図」等、接待や料理・食具に関する資料、冊封や江戸立に関わる資料の原本閲覧・書誌調査を行った。今後解読、食文化関係の記事の抽出等を進めていく。
ほかにも『沖縄語辞典』『医学沖縄語辞典』から食文化に関する語彙データを抽出・収集した。

3.普及啓発

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写真-2 琉球食文化調査研究報告会の様子

食文化調査研究業務の内容・成果を一般の方々へ還元することを目的に、2021年1月30日に琉球食文化調査研究報告会「琉球・沖縄の食文化の探求」(後援:一般社団法人琉球料理保存協会)を実施した。当室より、これまでに収集・調査した史資料を用いた調査報告①「戦前・戦後の新聞にみる食文化」、②「史料にみる近世琉球期の饗応の様相」の2題を報告した。①では、明治・大正期の新聞に掲載された飲食店や卸売業者の広告を用いて、沖縄県設置後の首里や那覇で日本料理や西洋料理店が開業し、異文化が流入・都市化する様子を紹介した。また、戦後の記事からは、生活改善運動等により食生活が変化していく中で、琉球料理を継承しようと活動していた人びとの記事、例えば琉球料理の研究者である田島清郷氏の記事や古波藏登美氏が関わっていた琉球料理研究会に関する記事を取り上げて解説を加えた。②では、主として尚家文書を用いて首里王府による饗応の事例を取り上げた。饗応・接待の料理を担った人びととして庖丁人(料理人)の養成、第二尚氏王統第18代国王・尚育および第19代国王・尚泰の冊封に際して執り行われる饗応・接待や1800年代中ごろの首里城重修後の祝儀にかかる饗応の次第・献立の事例を取り上げ、解説を加えた。
また、安次富順子氏(当財団研究顧問)による「琉球料理と食文化-学び、守り、受け継ぐために-」、高江洲賢文氏(当財団研究センター参与)による「沖縄の在来作物の主要系統と特性」をテーマにご講演をいただいた。参加者からは、「専門的でよかった」「たくさんの知識を得られてよかった」との声があった一方、「研究者の会議のようで難しかった」「すべてが抽象的」「(各報告・講演の時間が短いため)一つのタイトルでじっくり話をききたい」との意見もあり、加えて、報告会の継続開催を求める声もいただいた。今後の課題として検討したい(写真-2)。
また、以下の講座や催事において当室職員が講師を務めた。
2020年10月中の3日間、琉球料理「美榮」において、首里城公園友の会コンパクト講座「琉球・沖縄の食文化の足跡を求めて」が行われた。同講座で、当財団における食文化の調査研究業務についての取り組みを紹介し、1)琉球料理「美榮」について、2)近世琉球社会における食文化~食のおもてなしの事例~ のテーマに分け、前者では美榮をめぐる人びと・あゆみ・料理や調理の事例、後者では琉球における食文化発展の背景、古文書に記された王国時代の料理や年中行事の贈品等の事例について紹介した。
2021年2月18日には、名護市立緑風学園5年生の「地域と食」の授業において、「沖縄の歴史と食文化」をテーマに授業を行った。沖縄の歴史のなかでどのように料理・食文化が発展していったか、現在に伝わる料理、沖縄の年中行事と食文化、琉球菓子について解説した。
 2021年3月20日から28日にかけて首里城公園管理部が首里まちづくり研究会・沖縄県立芸術大学と連携し、首里城公園にて「首里手作り市」を実施した。期間中、沖縄の伝統的な菓子である「ちんすこう」と「くんぺん」作りの体験が20・21・27・28日の4日間行われた。当イベントでは、沖縄県認証の琉球料理伝承人とともに講師を務め、菓子の焼成時間を活用して、琉球王国時代より伝わる菓子の紹介、歴史背景について解説した。今後も地域の食文化や調査研究の成果の普及に努めたい。

4.外部評価委員会コメント

・未開拓な領域に迫る調査研究であり、更に多くの資料・情報の蓄積が期待される(高良顧問:琉球大学名誉教授)。 ・首里城にある衣(装い)食(料理)住(美術工芸品)音楽(伝統芸能)はそれぞれがつらなりとなって一つの空間に存在している。今後は映像技術などを生かして臨場感のある展示方法の開発に力をいれてほしい。
琉球食文化調査事業は今後も継続して王国時代の料理の再現展示につないでほしい。さらに新聞資料からは明治期の食の状況が生き生きと読み取れ貴重である。
琉球料理美栄で実施した友の会のコンパクト講座では参加者の反応も大きかったとのこと。上質の食事と食の歴史的背景について少人数で学ぶことのできる豊かな時間は、客単価は高くとも求める方はいると思われる。今後は伝統芸能も加えた事業に発展させてほしい(西大顧問:フィニシングスクール西大学院学院長)。
・1月30日の研究報告会の報告は素晴らしく、着実な研究が進んでいることがうかがえた。
沖縄県の食文化を文化の一つとしての捉え方が弱いので、財団の食文化事業に期待している(安次富顧問:安次富順子食文化研究所所長)。


*1琉球文化財研究室

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