植物研究室は、総合研究センターの目標である「環境問題への対応」、「産業振興への寄与」、「公園機能の向上」を念頭に調査研究・技術開発並びに普及啓発事業を実施している。
令和2年度は「環境問題への対応」として、西表島植物誌編纂事業、「産業振興への寄与」として、有用植物の開発・利用に関する調査研究、「公園機能の向上」として、都市緑化に関する調査研究、熱帯性植物の収集及び展示手法に関する調査を実施した。普及啓発事業は、当財団が管理する海洋博公園等で各種展示会を開催し、植物、標本等の資料貸出を行った他、総合研究センターにおいて職員を対象に室内緑化に関するワーキング等を実施した。また、各種講演会等へ講師を派遣した。
植物研究室の調査研究活動は、正職員5名、契約職員5名、調査研究補助3名、事務補助1名、熱帯植物試験圃場の栽培補助6名で実施した。
西表島植物誌編纂事業については、琉球大学、鹿児島大学、東京大学等と連携し実施した。現地調査では、琉球大学と共同で奥地の調査を効率的に実施し、コカゲトンボPeristylus sp.(ラン科)(県絶滅危惧IA類、西表島3ヶ所目の自生地)を発見し、種の同定に不可欠な花の形態を画像化した。また、標本調査では、琉球列島産標本について京都大学の1,264点、鹿児島大学の16,606点、東北大学の1,946点、当財団の1,539点をデータベース化した。
絶滅危惧植物の生息域外保全を進めるための種子等の超低温保存技術の開発では、タヌキアヤメ、タイワンルリソウ、オリヅルスミレ、ホソバフジボグサ、ダイサギソウの5種について超低温保存の有効性を確認した。
沖縄諸島の絶滅危惧植物に関する現況調査については、座間味島において沖縄県版レッドデータブックで絶滅危惧IA類に指定されているカントラノオ(オオバコ科)が前回の記録から95年ぶりに再発見され、準絶滅危惧種のミズガンピ(ミソハギ科)が新たに記録された。調査の成果として、平成30年度から令和2年度にわたり25種の生育環境や生育状況に関する知見を集積した。
また、沖縄県希少野生生物保護推進事業や慶良間諸島国立公園指定植物に関する有識者対応、並びに琉球地域における国内希少野生動植物種の保全対策に関する情報提供等を通して、生息状況評価に取組み、琉球列島の希少植物保全に貢献した。
さらに、環境省事業の一環として実施している奄美大島に生育する着生ランの野生復帰事業についての研究成果論文が、公益社団法人日本植物園協会の保全・栽培技術賞に選ばれた。
リュウキュウベンケイを用いた新品種の開発では、昨年度品種登録出願を行った3品種について、本部町農家にて生産を行い、本土市場へ出荷したところ取引価格の上昇を確認した。また、水が不要である特性を生かし、潅水作業低減につながる公園展示を実現した。
地域産業振興と観光振興(公園における体験型プログラムの実施)を目的とした沖縄県の伝統作物に関する調査では、遺伝資源収集を実施し、令和元年度分と合わせ26地域53品目222点を収集した。また、本部町、中城村との連携を強化し、地域と連携した島野菜の研究体制を構築した。
その他、有機肥料に関する研究では、海洋博公園発生廃材(魚粕)を用いた有機肥料の開発を行い、シマナの栽培において有効性が確認された。
樹木の病虫害防除を目的に、黄化衰退のフクギの植栽土壌からの菌の分離や、アカギの落葉に影響すると考えられるヨコバイの防除試験を行った。特にヨコバイの防除試験の実施にあたり、ヨコバイの侵入が確認されていない海洋博公園内において予防策を検討し、公園管理に役立てた。
樹木の腐朽に関する調査研究では、公園の安全管理を目的にγ線樹木腐朽診断器で海洋博公園内の柱を診断した。
室内緑化に関する調査では、オフィスの緑化による空気清浄効果やストレス軽減等の心理的・生理的効果を明らかにすることを目的として、過年度より実施しているインタビュー調査や呼吸器機能検査、体力測定の成果の一部を日本レジャー・レクリエーション学会で共同研究者と連名で発表した。
熱帯ドリームセンター等の管理施設での展示活用を目的として、ホヤの仲間136品種を導入した。熱帯性のカランセ、ハトラン、ハベナリア、パピリオナンテ・テレス‘アルバ’の大株など珍しいラン4種50株を展示し新聞に掲載されるなどの反響を得た。また、熱帯ドリームセンターやんばるギャラリーのリニューアルを目的に、パルダリウム手法と沖縄産希少植物の生態展示を合わせた展示を開始した。この他、種子散布の効果的な展示を目的に国立科学博物館との共同研究で、3Dプリンターを利用し動物散布型の大型種子模型を5点製作した。
生息域外保全を目的とした希少植物や、研究で用いる有用植物を管理するとともに、海洋博公園での展示会や装飾、研究用としての貸出や提供を行った。また、栽培試験の成果としてコンテナ栽培のドリアンを人工交配により、3年連続での結実を成功させた。
海洋博公園において、「熱帯の不思議な種子と果実展」、「夏のラン展」、「ツバキ展」を開催し、植物コレクション、標本類、及び解説パネル等の貸出を行った。
調査研究で得られた成果を一般の方々へ広く普及することを目的に、総合研究センターが主催する美ら島自然教室や海洋博公園での観察会を実施した。また、西表島エコツーリズム主催の公開講座で西表島の希少植物に関する講演と観察会を行った他、沖縄伝統島野菜等に関する講演や植え付け体験を行った。琉球大学で財団が実施した寄附講座へ講師を派遣した。
令和2年度は、環境省より研究資金を獲得し実施した。
(1) 令和2年度環境省生物多様性推進支援事業(沖縄県に生育する国内希少野生動植物種の生息域外保全)【環境省】
令和2年度は、(公社)日本植物園協会、(一財)自然環境研究センター、中城村より下記事業を受託し実施した。
(1) 令和2年度奄美大島に生育する着生ランの野生復帰事業 【(一財)自然環境研究センター】
(2) 令和2年度希少野生植物の生息域外保全検討実施委託業務のうち種子保存に関する検討業務【(公社)日本植物園協会】
(3) 令和2年度寄託管理事業(ワシントン条約に基づき空港等で没収された植物の管理を行う)【(公社) 日本植物園協会】
(4) 中城村試験圃場栽培指導・研究委託業務【中城村】
令和3年3月に外部評価委員会を実施し、植物研究室において実施した調査研究・技術開発、普及啓発事業についての評価及び助言を頂いた。
委員からは、希少植物の保全については「外部研究機関と連携を図り、当初の研究目的を着実に実行し受賞するなど目標以上の成果が得られている」、有用植物の開発・利用については、「新品種作出と収益化など地元産業への貢献は高く評価できる」、都市緑化については「病虫害の病徴・感染経路等を把握し、感染防除技術を検討することは有意義である」、熱帯植物の展示手法については、「展示効果の向上に繋がる実際的な試みであり評価できる」等のご意見をいただいた。また、事業全体に関しては「財団の植物コレクションを活用し、産業振興、収益事業につながるよう有効活用を強化すべき」、「外部研究資金の獲得に向け申請数を増やすべき」等のご指摘を受けた。これらのご意見やご指摘を踏まえ、今後の研究・技術開発事業に関する取り組みを検討する。
学術成果等については、令和2年度は、論文6報、学会発表8題、品種登録出願3品種、受賞1件など、多くの成果をあげた。
調査研究の成果をアウトプットするため、論文投稿、品種登録や特許取得、技術書や図鑑等の発刊、展示コンテンツの制作、植物コレクションの活用等より活発に成果の公表に努めたい。
また、令和2年度に野菜園芸学の専門研究員が着任したことから、今後はこれまで以上に当財団の重点課題事業である沖縄伝統島野菜等の亜熱帯資源の機能性および利活用に関する研究について強化を図りたい。
*1植物研究室
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