1. 8)美ら島自然学校の利活用
沖縄美ら島財団総合研究所

普及啓発の取り組み

8)美ら島自然学校の利活用

前田好美*1・伊藝 元*1

1.はじめに

当財団では、名護市より委託を受け、平成21年に閉校した旧名護市立嘉陽小学校の跡地利用事業者として「美ら島自然学校」の管理運営を行っている。平成27年に運用を開始した当施設は、沖縄本島東海岸に位置し、学校正面を太平洋、後方を山々に囲まれた自然豊かな環境にある。普及啓発を目的とした各種催事の開催場所、および東海岸の動植物・歴史文化の調査拠点としての活用を図るとともに、地域住民と連携した事業展開を行った。

2.実施結果

「太平洋を望む豊かな環境で 誰もが学べる自然学校」を目指し、幅広い年齢・知識層の方を対象とした事業展開を図った。主な事業は1)一般向け事業、2)調査研究利用、3)学校向け事業の3つに分かれている。しかしながら、令和2年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、度重なる沖縄県の緊急事態宣言に伴う臨時休校と予定していた催事の延期、中止が相次いだ。令和2年度の施設利用およびプログラム利用者の総計は4,686名(H31年度比57%)であった。

1)一般向け事業

例年、沖縄の動植物や歴史文化を題材とした講座やガイドツアー、主に親子を対象とした草木を用いた工作室などを開催、幅広い年代・知識層の方へ学習機会を提供し、参加者の評価も高い事業であるが、R2年度は新型コロナウイルス拡大防止のため上半期の事業は延期や中止となり、下半期は通常定員の半分に減らし、換気や消毒を徹底するなどガイドラインに基づいて事業を実施した。
下半期7件の催事を開催し、59名の参加者が得られた。また、常設プログラムとして設置した工作体験およびウミガメ学習などは感染症対策のため利用を停止した(2月に再開するも利用者無し)。施設見学の案内対応は554名(前年比28%)であった。

2)調査研究利用

前年度に引き続き、環境省との共同事業として環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠA類(CR)で種の保存法「国内希少野生動植物種」に指定され沖縄県の大東諸島にのみ生息する「オオアガリマイマイ」と「ヘソアキアツマイマイ」について生息域外保全を目的とした飼育試験を行った。校内の施設にて、大東諸島から採集した両種の繁殖と飼育下における基礎的な情報の収集を目標に飼育を行った。
夏季には、飼育している2種の産卵とふ化を確認し、また、冬季にはオオアガリマイマイの交接、産卵、ふ化を確認した。野外においても同時期の繁殖は確認されているが、飼育下において夏季と冬季に産卵を確認したのは初となる。
今後も引き続き環境省、関係機関と連携を取りながら、飼育技術の確立に向けた飼育下での情報収集、野外における野生個体の生息調査と生息域外保全に向けた普及活動を継続する。

構内に設置したウミガメ飼育施設では、海洋博公園ウミガメ館生まれのウミガメ類幼体を飼育し、飼育下での調査を継続した。低塩分の飼育水で長期館飼育した場合、ふ化後4か月程度の成長阻害傾向が認められた。また、6月末から7月末にかけて前年度生まれの幼体を標識放流し、回遊調査に供した。このほか、総合研究センター各課室と連携し、ウミガメ類の産卵痕跡調査、ストランディング調査、環境DNA調査、地域の伝統行事の聞き取り調査(詳細は「南西諸島の海洋民俗に関する調査」参照)等を行った。調査結果は、一般向け催事などの資料として随時活用したほか、校内へ展示することにより、近隣の自然環境の現状を来校者へ周知した。
また、外部研究者による利用を促すため、県内外大学関係者への周知を図ったほか、施設見学の受入れにより利活用の検討を促した。

3)学校連携事業

県内北部地域の小学校や教育委員会等と連携し、年に3回以上の学習を継続する「通年学習プログラム」および1~2回完結型の「短期学習プログラム(出前授業)」を展開した(詳細は「やんばる環境学習」参照)。他の催事や施設利用と同様、新型コロナウイルス感染症の拡大防止ガイドラインに基づき、利用受入れ等を行った。美ら島自然学校での実施および関連授業での利用は2,311名(前年比99%)であった。
本事業では、比較的前年並みの利用が得られた。要因は、学校の授業再開後はほぼ例年と同様の年間計画で学校側が活動を行ったこと、特別授業などは下半期に開催時期を変更して再調整する学校が多かったことと考えられた。

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    写真-1美ら島自然学校(旧嘉陽小学校)全景
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    写真-2美ら島自然学校学習会の様子
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    写真-7 オオアガリマイマイのふ化個体
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    写真-8 飼育容器内のヘソアキアツマイマイの卵

3.その他

うるま市内の小学校修学旅行3件と沖縄市内の小学校修学旅行1件(計213名)の受け入れを行った。修学旅行の受け入れに関しては、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、消毒の徹底、三密の回避、ガイドラインに基づき体験プログラムを実施した。
長期休暇中を中心に行っている学生アルバイトの雇用や地域宿泊施設への協力については新型コロナウイルス感染症拡大を受けて活動を停止し、次年度以降の協力体制構築のための調整を中心に連携を図った。

4.外部評価委員会コメント

コロナ禍の中でよくやったと思う。しかし、嘉陽の土地で存在する以上、何か将来の核になるようなことはないだろうか?嘉陽のモニュメント的な存在になる展示を検討してはどうか。(亀崎顧問:岡山理科大学 教授)。


*1普及開発課

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