海洋生物の調査研究
生物多様性の高い琉球列島は、生物相が形成されており、希少種なども多く含まれる。これら希少種には絶滅の危機にあるものも少なくない。また、在来生態系の脅威となる外来種が定着しやすい環境的地盤もあり、その影響は深刻化している。当事業では、在来希少種に関する生態調査に基づく保全策の策定、外来種問題への対応に関する調査研究・技術開発により、琉球列島における生物多様性の保全に資する。
沖縄の陸水域に生息する純淡水魚(一生を淡水域で過ごす魚)はわずか6種であり、その大半は固有種あるいは固有の遺伝集団を形成しているものの、いずれも絶滅の危機あるいは移入個体による遺伝子汚染の危険性が指摘されている。そこで、これらの生息域外保全を目的として、遺伝子解析により在来群と判断されたフナとミナミメダカを海洋博公園内の池に放流し、再生産と定着を試みている。本年度は公園管理事業の一環で土砂の投入と注水植物が導入され、より湿地に近づく環境整備が行われた。現在のところ、2種の淡水魚の定着状況は良好と判断している。
さらに、固有種のヒョウモンドジョウ の野外での生息状況を明らかにするとともに、遺伝的性状に関する調査を行った(写真-1)。その結果、ヒョウモンドジョウの生息域は極めて限定的であり、さらに遺伝的多様性が著しく損なわれ、国内外来由来と思われるドジョウとの交雑の懸念も指摘された。このように、ヒョウモンドジョウの生息状況は極めて危機的であると評価された。
海洋博公園内に生息する希少種であり陸棲最大の甲殻類でもあるヤシガニの生態モニタリング調査を平成18年度から継続している。本年度の調査においても資源は比較的安定していると評価された。また昨年度から開始したヤシガニの甲殻構造を材料工学への応用を目指した共同研究により、ヤシガニ甲殻の微細三次元構造を明らかにした。(写真-2)。
平成27年度からは園内の希少種クロイワトカゲモドキの生息状況の追跡調査も実施しており、本年度も平年並みの生息状況と評価された。また環境省と連携で、本種の飼育下繁殖の可否に関する予備調査を実施し、採卵には成功したものの孵化には至らず、次年度も引き続き試行する。さらに、環境省の依頼で海洋博公園内に人工石垣を設置し、人工の生息環境としての効果検証の実験を開始した(写真-3)。
沖縄の陸水環境では多数の外来種が在来種の生存を圧迫している。平成28年度から海洋博公園内の人工池に生息する外来魚ティラピアを、直接的な捕獲と不妊オスによる繁殖阻害によって減じるための実証試験を行っている。その結果、3ヵ年の実験により不妊オスによる次世代資源の減少は見込めないことが明らかとなった。その要因となる婚姻システムについても明らかにした。また,性ホルモン処理による繁殖行動抑制実験も実施したが,十分な行動抑制が得られなかった。ティラピアの水生昆虫資源量への影響を評価するための飼育実験を実施した(琉球大学と共同)(写真-4)。
海洋博公園内の人工池に生息するウシガエル(特定外来生物)の駆除を行った。週1〜2回の捕獲駆除を約半年間継続した結果,成体670個体、幼生2210個体を駆除した(写真-5)。大半の池では概ね駆除を完了したが、1箇所の池では幼生の発生を認めており完全な駆除にはいたっていない。駆除個体の食性調査により,在来種を多く捕食していることも明らかとなった。
クロイワトカゲモドキについては、まだまだ、データの解釈で研究ネタがでてくると思われる。また、ヒョウモンドジョウは遺伝的な問題が解決されて、種としての認識があって様々な研究が始まるのであろう。遺伝的多様性の喪失というのは本当に喪失したのかどうかが面白い。ティラピアの不妊魚の放流は残念だったが、このような果敢な取り組みは今後も継続していくべきであろう。(亀崎顧問:岡山理科大学教授)
*1動物研究室 *2水族館事業部 海獣課
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