海洋生物の調査研究
世界中の海洋に広く分布するウミガメ類の生息数は、自然環境の悪化等により近年著しく減少しているとされ、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにも全種が掲載されている。ウミガメ類の保全のためには、その生態や個体群動態について、野外および飼育研究を通して把握する必要がある。本事業ではこれらの問題に対応するため、以下の取り組みを実施し、今年度の研究成果として、学術論文3報が受理された。
当財団は沖縄島において、日本ウミガメ協議会および調査ボランティアと連携し、産卵状況の把握に努めている。その中で当財団は沖縄県の北西部に位置する本部半島(本部町、今帰仁村、名護市)等での調査を担っている。令和2年度の本部半島では、アカウミガメおよびアオウミガメの産卵が、各々25回および22回確認され、アカウミガメは昨年に続き減少する傾向がみられた。一方、アオウミガメは昨年よりも増加した。また、2017年までに発見された、沖縄島でのタイマイ産卵の記録を初めて取りまとめ、沖縄島のタイマイ産卵個体群サイズは非常に小さく,保全の強化が必要であると考えられた.本結果についてはThe Biological Magazine Okinawaに近々掲載される予定である。
当財団は沖縄県一般からの情報を元に、海岸に死亡漂着するウミガメ類の調査を行っている。本調査では現場に出向き、種の同定、解剖および計測などを行った(写真-1)。令和2年度にはアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイ、計45例の死亡漂着を確認した。また、日本大学との共同で、ウミガメ類のマイクロプラスチックに関する研究を開始した。
本調査では、飼育下で繁殖し、1年間飼育した131個体のアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの標識放流調査を行い、初期回遊やヘッドスターティング(死亡率の高い時期を飼育下で育て、成長後に放流し、生存率向上を図る考え方)の効果の検証を行った(写真-2)。
東北大学等との共同研究において、SNP(single nucleotide polymorphisms)を使用したDNA分析を初めて実施し、北太平洋のアオウミガメ集団の出生地がより詳しく調べられ、その成果がFrontiers in Marine Scienceに掲載された。また、同大学と共同で野生個体のハイブリッドに関する研究を開始した。
当財団が管理運営を行っている沖縄美ら海水族館のウミガメ館では、アカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの産卵が確認された。タイマイについては、3世代目の繁殖に成功した(写真-3)。
イマイの人工授精技術や精液保存技術の開発にも取り組んでおり、電気刺激による精液採取によって、高濃度かつ良質な精液を採取(総生存精子数:約50億)し、雌への授精を実施した。また、精液希釈液のスクリーニングを行い、尿希釈の有用性を確認した。
ウミガメ類の適正な人工ふ化技術の開発に向けて、飼育下で得られたアオウミガメおよびタイマイの卵を用い、高知大学と共同で、適正な孵卵条件の検討を行った。その結果、砂内温度変動がアオウミガメやタイマイの孵化率等に影響する可能性が示唆された。また、孵化幼体の放流までの保管方法については、放流する直前まで湿った空気中で保管することが望ましいと明らかになり、その成果は黒潮圏科学に近々掲載される予定である。
当財団では、日本べっ甲協会および当財団が管理運営する美ら島自然学校の飼育施設において、低濃度塩分下での飼育試験を実施している(写真-4)。今年度は、孵化後4か月の間において、低濃度塩分下で成長が妨げられることが判明し、初期生態の一部の解明に繋がった。
当財団では、衰弱したウミガメ類が漂着した際、緊急保護を行い、治療にあたっている(写真-5)。今年度は13個体のウミガメ類が緊急保護され、回復した3個体を放流した。
飼育下で得られ蓄積されてきた知見を基に、公益社団法人日本動物園水族館協会が発行している飼育ハンドブックの水族館編に、「爬虫類の病気」について執筆した。
沖縄におけるウミガメの保全には十分貢献してきたし、また、今年度もそれについて理解された。しかし、アオウミガメの増加問題、アカウミガメの減少問題、さらにタイマイの餌である海綿との関係について、若い人々を中心にフィールドでの研究を行っていただきたい。(亀崎顧問:岡山理科大学 教授)
*1動物研究室 *2水族館事業部 海獣 *3普及開発課
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