1. 5)調査受託業務
沖縄美ら島財団総合研究所

琉球文化の調査研究

5)調査受託業務

安里成哉*1・妹尾尚美*1

1.はじめに

琉球文化財研究室では、沖縄県立博物館・美術館、伊是名村、沖縄県より文化財の修理・復元、普及・保存・継承に関する3件の業務を受託した。

2.沖縄県立博物館・美術館:「琉球王国文化遺産集積・再興事業製作委託業務」

1)業務内容

本業務は沖縄県立博物館・美術館より、当財団と株式会社国建の共同企業体で業務を受託した。
本業務は、近代化や戦争などによって亡失、もしくは琉球王国時代から継承されてきた有形・無形の文化遺産に関わる学術的知見や科学分析等の情報集積することを目的としている。加えて、これら文化遺産の8つの手わざ(絵画・木彫・石彫・漆芸・陶芸・染織・金工・三線)を現代の最高水準の手わざで復元を行う。さらに王国文化の発信によりブランディングを確立し沖縄県の文化観光資源に資することを目的としている。平成31年度は8分野29件の復元製作を行った。

2)復元製作概要

(1)絵画
 「四季翎毛花卉図巻」の製作を行った。
(2)木彫
 「円覚寺仁王像」「漆巴紋牡丹沈金透彫足付盆」「聖観音像」の3件製作を行った。
(3)石彫
 「玉陵高欄羽目」の製作を行った。
(4)漆芸
 「黒漆雲龍螺鈿東道盆」の製作を行った。
(5)染織
 「芭蕉桃色地経緯絽織衣裳」「絹深浅地絽織衣裳」「紫地段鋸歯繋ぎ文様花織衣裳」「絹紺地手縞織衣裳」など16件の製作を行った。
(6)陶芸
 「淡青釉粟彩絵菊形中皿」「面取網代文三彩抱瓶」「緑釉四方燭台」「円覚寺鬼瓦」「線彫雲龍文呉須差手焙」の5件製作を行った。
(7)金工
 「玉御冠(皮弁冠)」の製作を行った。
(8)三線
 「東博蛇皮線」の製作を行った。

3.伊是名村「銘苅家・名嘉家旧蔵品修復復元業務」

1)業務内容

本業務は、琉球国王尚円の出身地である伊是名村に所在する伝承文化財の調査を行い、文化財の状態を確認し保存修復を行う。現在でも祭祀儀礼等で使用されている資料については複製を製作、原資料は適切に保管しつつ、伝統的祭祀儀礼の実施には支障の無いようにするための事業である。原資料として保存措置を行った文化財に関しては、資料館での展示公開・島外での伊是名村及び地域の文化財の紹介等の取り組みに活用し、現在に伝来する伊是名村の琉球王国時代の特異な文化財をPRして観光振興に寄与することも目的とする。
平成31年度は漆芸・古文書・金工の3分野で修理、復元製作を行った。

2)修理・復元製作概要

(1)漆芸
3件の修理・復元製作を行った。修理は現状保存修理を原則として行った。修理及び復元製作は琉球漆工藝舎に依頼した。
(2)古文書
5件の修復を行った。本紙の欠失・虫害欠損箇所に同質の紙で補修を施すなどの修復を行った。修復は石川堂に依頼した。
(3)金工
4件の修理・復元製作を行った。修理は京都府の公益財団法人美術院 国宝修理所、復元製作は県内の金細工まつにそれぞれ依頼した。

4.沖縄県文化振興課:「令和元年度 沖縄食文化保存・普及・継承事業」

1)業務の目的・内容

本業務は沖縄県文化観光スポーツ部文化振興課より、丸正印刷株式会社と当財団の共同企業体で業務を受託した。
沖縄県では平成28年度に策定した「沖縄の伝統的な食文化の普及推進計画(沖縄食文化創生プロジェクト)」において、伝統的な食文化を食育等様々な関連する取組と連携し、保存・普及・継承を推進するものである。
今年度は共同企業体内で業務を分担し、当財団は伝統的な食文化の情報をデータベース化する業務を担当した。「沖縄の伝統的な食文化」の保存・普及を促進するため、関連する資料・情報を収集し体系的に整理した。データベース化にかかる計画期間は令和3年度までとなっており、段階的に業務遂行される。

2)実施概要

(1)今年度の主な作業内容
ア)食文化に関わる情報や資料の収集・整理
イ)コンテンツの枠組・方向性を立案
ウ)データベースの前提となる資料の目録作成
エ)ワーキングチームの設置・運営
オ)コンテンツ各章の項目出し、主な内容についての検討
(2)ワーキングの設置・運営
業務推進に伴い、沖縄の伝統的な食文化やその関連情報について専門的な知識を持つ委員を招聘し、内容・構成等について検討及び策定するワーキングを設けた。
ワーキングチームは食文化・歴史・民俗の分野から選出した委員で構成され、各分野の観点から協議・検討する役割を担った。また、「沖縄食文化保存・普及・継承事業」検討委員会と連携し、課題の抽出や対応方法の検討等、議論を行った。
都合によりワーキングを欠席した委員については、事前ヒアリングによりその内容を資料に反映する等の対応を行った。
(3)「琉球料理担い手育成講座」への講師派遣
令和2年1月22日(水)~24日(金)、1月29日(水)~31日(金)、沖縄ガスショールームにて育成講座が開催された。その内、1月30日(木)の座学講座では琉球文化財研究室の幸喜淳室長補佐が「琉球漆器」、久場まゆみ係長と勝連晶子が「風俗・習慣」の各講座を担当した。

5.外部評価委員会コメント

・ 沖縄県立博物館・美術館発注「琉球王国文化遺産集積・再興事業製作業務」について、琉球文化の分析の面で画期的な蓄積である(高良顧問:琉球大学名誉教授)。
・伊是名村発注「銘苅家・名嘉家旧蔵品修復復元業務」について、財団のマンパワーと経験を活かす事業として評価できる(高良顧問)。
・沖縄県文化振興課発注「平成30年度 沖縄食文化保存・普及・継承事業」について、食文化を広い視野でまとめるという膨大な内容なので今年度で方針を決めて時間をかけてデータベース化をする意義は大きい(西大顧問:フィニシングスクール 西大学院 学院長)。
・沖縄県の委託事業に参画し、琉球料理・食文化の継承に携わる人材「琉球料理伝承人」の育成したことやその講座で、財団の研究を2コマ担当したことについては評価できる(安次富顧問:安次富順子食文化研究所 所長)。


*1琉球文化研究室

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