琉球文化の調査研究
当財団では所蔵する資料について、毎年状態を見ながら劣化や破損が見られる資料の修繕を行っている。修繕作業の際にしかできない調査研究も実施し、琉球王国時代の失われた無形文化財である工芸技術に関する調査研究を行っている。
平成31年度は「神猫図」の修繕を行った(写真-1、2)。
(1)作者:武永寧
(2)本紙法量:丈80.3cm 幅35.8cm
(3)基底材:綿帛
(4)画材:墨・顔料・膠
(5)装丁形式:掛幅装
(6)装丁法量:丈170.7cm 幅47.9cm
(7)表装裂
ア)一文字:茶地大牡丹唐草文紗金
イ)中縁・風帯:茶地円龍文金襴
ウ)上下:萌葱地宝尽し円寿唐草文緞子 (8)軸:象牙頭切軸
(9)作者及び類例について
本紙料絹の中央に体は白く尾が黒い猫が描かれている。「武永寧」の落款があるが、作者の特定には至っていない。同様の構図を持つ資料として「神猫図」(山口宗季筆・那覇市歴史博物館所蔵)や「月下神猫図」(仲宗根真補筆・一般財団法人沖縄美ら島財団所蔵)がある。
本紙料絹及び表装部分に破れ・欠失、折れ・皺、糊浮きが生じていた。また経年による汚れ・染みも全体的に見られ、彩色にも一部欠失が見られた。
解体修理によって、過去に本紙の肌裏紙の打ち替えが行われていることが判明した。肌裏紙と増裏紙の間に、過去の修理の折れ伏せ紙を確認した。
その他本紙料絹欠損部分には補修絹が施されており、補筆や補彩の跡が確認された。
また本資料絹中央部が大きく横に欠損し、それを補うように丈が縮められていたことが分かった。
1)カビの消毒、剥落止め、本紙のクリーニングを施した。
また「乾式法」を用い、裏打ち紙を除去し、新たな裏打ちを行った。肌裏紙には薄美濃紙、増裏紙には美栖紙、総裏紙には宇陀紙を使用した。本紙に折れが生じている箇所には折れ伏せ紙を入れた。
本紙料絹の欠損部分には補修絹を施し、補彩を行った。八双・軸・軸木・掛け紐も劣化が著しかったため、新たに新調した。
また今後の折れを軽減させるために、太巻軸を新調して添えて巻き、保存することとした。
本資料の肌裏紙は薄藍色の肌裏紙が打たれていた。過年度の修理でもあまり見られない色であった。この独特な肌裏紙の色合いが、類似資料とは異なる本資料独自の雰囲気を作りだしていることが分かった。
そのため修理の際にも楮紙は天然染料(墨・藍)で染色を行い、修理前の雰囲気と変わらないようにした(写真-3)。
前述の通り、本紙料絹中央部(猫の真上あたり)で横に大きく本紙料絹が欠損していることが判明した。
しかし当初を想定して補絹を行うと、神猫の真上に空間が生じ、加筆された植物の線のつながりが失われて視覚的違和感が増すことから、当初の丈を想定した絹の移動は行わなかった。
肌裏紙の除去によって本紙裏面の調査が可能になった。猫の目の部分に白緑色の裏彩色が確認できた。他の部分では痕跡は確認できず、旧肌裏紙にも付着が見られなかったことから、当初より目の部分の裏彩色が施されたと考えられる。
嵯峨美術大学の佐々木良子氏及び仲正明氏に依頼し、色材分析を行った。
目視で当初の状態が残存している箇所を選定し、無機顔料は蛍光X線分析(XRF)を、有機染料の分析は反射分光分析(FORS)を行った。
これらの調査により、神猫の白目部分は藤黄が、裏彩色には緑青が用いられ、猫の尾や黒目の部分については墨で描かれていることが分かった。
「神猫図」は前述の通り、類例が複数確認されている。それらの資料と比較検討していく中で、琉球絵画や琉球人絵師についての調査が深められていくことが期待できる。
また、修繕を終えた本資料を展示することで、琉球王国時代の絵師たちの存在や技術について、広く普及に供することができる。
基礎的な事業として評価できる(高良顧問:琉球大学名誉教授)。
*1琉球文化財研究室
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