1. 植物研究室

植物研究室

阿部篤志*1

1. はじめに

植物研究室は、総合研究センターの目標である「環境問題への対応」、「産業振興への寄与」、「公園機能の向上」を念頭に調査研究・技術開発並びに普及啓発事業を実施している。
平成31年度は「環境問題への対応」として、西表島植物誌編纂事業、「産業振興への寄与」として、有用植物の開発・利用に関する調査研究、「公園機能の向上」として、都市緑化に関する調査研究、熱帯性植物の収集及び展示手法に関する調査を実施した。普及啓発事業は、海洋博公園等で各種展示会を開催し、植物、標本、等の資料貸出を行った他、総合研究センターにおいて職員を対象に室内緑化に関するワーキング等を実施した。また、各種講演会等へ講師を派遣した。国際交流事業の一環で沖縄国際洋蘭博覧会を開催した。

2.実施体制

植物研究室の調査研究活動は、正職員5名、契約職員4名、調査研究補助3名、事務補助1名、熱帯植物試験圃場の栽培補助7名で実施した。

3.実施内容

1)希少植物の保全に関する調査研究

西表島植物誌編纂事業については、琉球大学、鹿児島大学、東京大学、当財団等からなる共同研究体制を構築し編集委員会を開催した。現地調査では、琉球大学と共同で奥地の調査を効率的に実施し、自生植物としてはElatostema sp.(西表島新記録)を発見するとともに4新外来種を確認した。また、京都大学が所蔵する西表島産標本のうち、850点のデータベース化を行った。さらに、鹿児島大学と共同研究を継続し、琉球列島産標本のデータベース化を推進した。
種子等の超低温保存技術の開発においては、トサカメオトランなど68種類の種子や胞子の超低温保存を継続して行うとともに、オオバフジボグサなど7種について、保存後の発芽試験を実施し、超低温保存の有効性を検証した。
沖縄諸島の絶滅危惧植物に関する現況調査については、座間味島において絶滅危惧II類のカゴメラン、ハンゲショウを新たに記録し、絶滅危惧IA類のイゼナガヤなど合計7種を確認した(2年度分の累計24種)。併せて、これらの植物の生育環境や生育状況に関する知見を集積した。
また、沖縄県希少野生生物保護推進事業や慶良間諸島国立公園指定植物に関する有識者対応、並びに琉球地域における国内希少野生動植物種の保全対策に関する情報提供等を通して、生息状況評価に取組み、琉球列島の希少植物保全に貢献した。

2)有用植物に関する調査研究

リュウキュウベンケイを用いた新品種の開発では、既存品種が抱えていた問題(花首の曲がり等)を克服した3品種を作出し、品種登録出願を行った。これらについて出荷団体等と品種利用契約を結び、地元農家へ普及させると共に、海洋博公園における展示に還元させることで、農産業振興と観光産業振興に努めた。さらに、沖縄在来のリュウキュウコンテリギ、ダイサギソウ等の育種も実施した。
沖縄県における有用な伝統作物である島野菜については、県内広域で遺伝資源収集および生育分布調査を開始し16品目を収集した。圃場で栽培・保存を行うと共に、大量増殖技術に関する調査研究や機能性研究の基盤整備を行った。
その他、空き教室を利用した植物工場の活用に関する調査研究では、地域雇用創出を目指しレタスとシソを対象に生産実証試験を行った。

3)都市緑化に関する調査研究

樹木の病虫害に関する調査研究については、南根腐病の感染経路、フクギの衰弱化に影響すると考えられるフクギノコキクイムシの飛来状況に関する調査を実施した。
樹木の腐朽に関する調査研究については、γ線樹木腐朽診断器を用いて海洋博公園の植栽木30個体を診断し、その結果を公園の管理技術及び樹木診断マニュアル作成などに活用した。
室内緑化に関する調査では、オフィスグリーンの手法を取り入れ、空気環境調査を行うとともに、ストレス軽減などの心理的・生理的効果を明らかにするために、インタビュー調査、呼吸器機能検査、体力測定を実施した。

4)熱帯性植物の収集及び展示手法に関する調査

熱帯ドリームセンター等の管理施設での展示活用、および系統保存を目的として、ヨウラクヒバ、サクララン、イワタバコの仲間など233種を導入し、育成、増殖、仕立てを行い、展示活用した。また、新たな展示手法として水槽内に自然風景を作り出すパルダリウム手法を用いた植物展示を行った。また、琉球に自生する希少植物などを植栽した「沖縄の野生植物」コーナーを熱帯ドリームセンター内、やんばるギャラリー及びファレノプシス温室に新設した。

5)熱帯植物試験圃場における植物の管理・活用

生息域外保全を目的とした希少植物や、研究で用いる有用植物を管理するとともに、海洋博公園での展示、外部の展示会や研究用としての貸出や提供を行った。また、栽培試験の成果としてコンテナ栽培のドリアンを人工交配により、2年連続での結実を成功させた。

6)普及啓発事業

調査研究で得られた成果を一般の方々へ広く普及することを目的に、総合研究センターが主催する美ら島自然教室や海洋博公園での観察会、琉球大学主催の公開講演会での希少植物についての講演、沖縄県緑化推進委員会からの招待で沖縄の緑化木に関する講演を行った他、専門家向けに在来植物を用いた品種育成や、海外におけるラン生産の事例紹介の講演を行った。また、琉球大学及び名桜大学で財団が実施した寄附講座へ講師を派遣した。
海洋博公園において、「熱帯の不思議な種子と果実展」、「熱帯果実展」、「ツバキ展」を開催し、植物コレクション、標本類、及び解説パネル等の貸出を行った。
令和2年2月には34回目となる「沖縄国際洋蘭博覧会」を開催し、国外出展は14ヶ国1地域、国内出展は28都府県より出展があった。
また、うるま市で開催された沖縄都市緑化祭における配布用苗を合計500鉢生産、提供した。

7)別途受託事業

平成31年度は、沖縄県、(公社)日本植物園協会等より下記事業を受託し実施した。
(1) 平成31年度奄美大島に生育する着生ランの野生復帰事業 【(一財)自然環境研究センター】
(2) 平成31年度希少野生植物の生息域外保全
検討実施委託業務のうち種子保存に関する
検討業務【(公社)日本植物園協会】
(3) 令和元年度寄託管理事業(ワシントン条約に基づき空港等で没収された植物の管理を行う)【(公社) 日本植物園協会】
(4) 令和元年度熱帯果樹優良種苗普及システム構築事業【沖縄県】
(5) 沖縄県かんしょ奨励品種の節培養による苗増殖及び発送に関する業務【沖縄県】
(6) かんしょ培養苗の増殖及び発送に関する業務【久米島町】
(7) 令和元年度ホソバフジボグサ生息域外保全技術マニュアル作成業務 【(一財)自然環境研究センター】

4.外部評価委員会

令和2年3月3日に外部評価委員会を実施し、植物研究室において実施した調査研究・技術開発、普及啓発事業についての評価及び助言を頂いた。
委員からは、希少植物の保全については「特に稀少で絶滅が危惧されるラン科植物の保護は急を要する」、有用植物の開発・利用については、「沖縄県での生産に適した育種・増殖技術の開発は、今後の進展が大いに期待できる」、都市緑化については「適切な維持管理組織の運営まで見据えた研究を継続すべき」、熱帯植物の展示手法については、「展示物を観たお客様の意見をアンケート等により分析するとよい」等の指摘を受けた。これらのご指摘や提案を踏まえ、今後の研究・技術開発事業での取り組みを検討する。
学術成果等については、平成31年度は、論文7報、学会発表9題、品種登録出願3品種など、多くの成果をあげた。

5.今後の課題

図-1 植物研究室の目的と事業(課題)
図-1 植物研究室の目的と事業(課題)

調査研究の成果をアウトプットするため、論文投稿、品種登録や特許取得、技術書や図鑑等の発刊、展示コンテンツの制作等、より活発に成果の公表に努めたい。
また、平成31年度に植物分類学と農芸化学の専門研究員が着任したことから、今後はこれまで以上に当財団の重点課題事業である西表島植物誌編纂事業に関する現地および標本調査、並びに亜熱帯資源の機能性および利活用に関する研究について強化を図りたい。


*1植物研究室

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